三島由紀夫

2010年12月20日 (月)

潮騒

1634「潮騒」三島由紀夫   新潮文庫   ★★★

歌島の漁師の青年・新治は、島に戻ってきた美しい海女の少女・初江と恋に落ちる。嵐の夜に二人はお互いの思いを確かめ合うが、それが人の口の端にのぼり、初江の父を激怒させてしまう。初江の父・照吉は、島の若者・安夫を初江の婿にむかえようとしていたが、新治と安夫を自分の船に乗せて、その器量をはかろうとする。おりしも船は台風に遭い、新治は嵐の海に飛び込むのだった。

「潮騒」といえば「百恵ちゃんの映画」の世代です。これで年がバレますが(笑)

映画はちゃんと見てませんが、それでもストーリーのあらましは知っていました。そのストーリーと、私のイメージする三島由紀夫がうまく結びつかずにいたのですが・・・。原作を読んで、やっぱり三島は三島だったなあ・・・と、ちょっと苦笑いした私です。

ずいぶん牧歌的なというか、神話的なというか、理想的なというか・・・要するに、現実にはありえないような素朴で力強い、そして純粋な恋物語でした。が、三島の、男性の「力」に対する崇拝や、女性の肉体の美しさに対する異様なまでの執着とか・・・。私はどうもその辺が苦手なんです。初江のことをすごく賛美しているようでいて、最後の最後で斬って捨てているところなんかも、いかにも三島由紀夫という感じで。三島にとって、女性の精神性というのは、認められないもの、もしくは必要ないものだったのでしょうか。

考えるのが苦手な新治が、けっこうまわりくどくあれこれ考えているところもやっぱり三島・・・と思ってしまい。

こう書くと、あら探ししているようですが、それなりにおもしろかったです。ある意味、こういう世界が三島の理想だったのだろうなと思います。

2010年11月24日 (水)

青の時代

1618「青の時代」三島由紀夫   新潮文庫   ★★

地方の名家に生まれた川崎誠は、父に反発しながら合理主義者として成長する。一高から東大へというエリート街道を歩む過程で、誠は詐欺で大金を失う。それをきっかけに、学友の愛宕を誘い、自ら金融会社を設立するが・・・。

戦後史にその1ページを記す「光クラブ事件」の当事者である社長をモデルにした小説ということで、以前から興味がありました。夫が「昔、挫折して、読み切れなかった」と言うので、じゃあ読んでやろうと思いましたが・・・苦戦しました。

とにかく、三島独特の妄想というか、生理的に嫌悪を感じるほどの(あくまでも私の場合ですが)、登場人物に対する思い入れが感じられないのです。非常に恬淡としていて、シニカルで・・・でも、つまらない。登場人物の誰一人として血の通った人間に思えないし、理屈ばかりをこねくりまわしていて、「だから何!?」と言いたくなってしまう(苦笑)

だいたい、「序」において作者が顔を出して、この物語で何を書こうとしているか解説しているので・・・興ざめでした。

ストーリー展開も、誠の少年時代と、戦後の青年時代とがうまくフィットしなくて、すっきりしませんでした。というのも、戦争中のことがすっぽり抜け落ちているからで・・・。ラストも「そこで終わり?」という物足りなさ。

実は、三島自身も「書き急いだ」という思いがあったようです。さらに、それまでの作品とは書き方を変えて、あえて対象を突き放したような書き方をしたようなのですが、うまくいかなかったという自覚があったようです。世間で話題になった事件を題材にした作品には「金閣寺」もあるのですが、あちらの方が迫力はありましたね。

というわけで、今回は★2つ。なんとか読み切れたことだし。でも、これ以上長かったら挫折したかもしれません。

2010年11月13日 (土)

仮面の告白

1612「仮面の告白」三島由紀夫   新潮文庫   ★★★

震災の翌々年に生まれた「私」は、幼い頃から病弱だとして大事に大事に育てられていた。そして、いつしか「私」は自分の愛の対象が人とは異なることを自覚し、煩悶する。やがて、戦争がはじまり、その最中に一人の女性と親しくなるが・・・。

夫からの課題図書です。太宰治の「人間失格」への反発のようなものが執筆動機にあったのではないかと聞いて、それなら読んでみようと思いましたが・・・。読み終えた私に夫いわく「どう? たいしたことないでしょ。」・・・だったら薦めるなよと心の中で思いっきりツッコミました(苦笑)

この文庫(昭和57年第75刷)の裏表紙にはこうあります。

「女性に対して不能であることを発見した青年が、幼年時代からの自分の姿を丹念に追求するという設定のもとに、近代の宿命の象徴としての否定に呪われたナルシシズムを開示してみせた本書は、三島由紀夫の文学的出発をなすばかりでなく、その後の生涯と文学の全てを予見し包合した戦後文学の代表的名作である。」

うーん、そうなんですか? 正直、よくわかりません。「金閣寺」を読んだ時もそうでしたが、私は主人公に対して、かなり引きました。彼の同性愛的な嗜好がどうのこうのではなくて、己の内面や性的衝動などをあまりにも真面目に書いているので、読んでいて非常に居心地が悪いのです。いや、別にそれ知りたくないし・・・という気分。

そう、三島という人は、おそろしく真面目なのではないでしょうか。同じような題材で書いていても、太宰には余裕があります。自分や周囲を弄びながら、物語を構築するだけの余裕が常にあるのです。一方、三島はこれと思いこんだら、ひたすらまっすぐにそれを追うような切迫感があります。「仮面の告白」も、終盤、園子が登場し、何かしら変化があるかと期待すると、最後は思いっきり肩すかしを食います。物語としてはどうなの?と思うのですが・・・。読者に迎合するための文学ではないと言われればそれまでですけれど。

と言いつつ、三島文学にはまだいくつか気になる作品があるので、もう少しだけ読んでみようと思ってます。

2010年10月27日 (水)

金閣寺

1600「金閣寺」三島由紀夫   新潮文庫   ★★★

寺の息子として生まれた溝口は、父から金閣の美しさを教えられて育つ。鹿苑寺で修行することになった溝口は、金閣の美に囚われながら、やがてそれを自らの手で焼失させようと思うようになり・・・。

あまりに有名なこの小説ですが、初めて読みました。夫からの課題図書(笑)です。先日、「近代能楽集」で三島デビューしたばかりですが、なんとか読めました。かなり日数かかりましたが。

実際に起きた金閣寺放火事件をもとにしたとはいえ、主人公の人格や動機はもちろん創作です。ひどい吃音だという劣等感と、僧という特殊な階層であることの自尊心。亡くなった父への思慕(これは、金閣寺の老師に投影されていく)と、現世の欲に囚われている母への嫌悪。初恋の人・有為子。「善」なる友人・鶴川と、「悪」の象徴のような柏木。そして、この世の「美」を体現し、主人公をあたりまえの人間の営みから隔離する金閣。・・・なんとも複雑な世界なのですが、これが、実際の事件からそれほど時間をおかずに書かれているのですね。何かにとりつかれたかのように書いたのではないでしょうか。主人公の姿は、ある意味そのまま作者自身でしょう。

ただ、金閣は「美」の象徴として何度も登場しますが・・・私には、その観念がいまいちピンときませんでした。むしろ、この世ならぬ崇高な精神の象徴のような・・・物欲・食欲・性欲といった「欲」を否定する存在のように感じました。そういう意味で、金閣に火をつけるときに、無性に腹が減ってパンをむさぼり食う場面は、ささいな場面なのですが、妙に印象的でした。

しかし、三島というのは、こういう書き方をする人だったのですね。私は主人公に共感はできませんでしたが、物語の中に力ずくで引きずり込まれるような感覚を何度も味わいました。やはり、お芝居を見ているような感じです。特に、女性が登場する場面に強くそれを感じました。

ところで、私が読んでいたのは昭和46年発行の文庫です。価格はなんと120円! この本、夫の亡きお母さまのものなんだそうです。写真でしか見たことのないお義母さまですが、なんとなく身近にいるような気がして、嬉しかったです。

2010年10月 4日 (月)

近代能楽集

1582「近代能楽集」三島由紀夫   新潮文庫   ★★★★

「邯鄲」「綾の鼓」「卒塔婆小町」「葵上」「班女」「道成寺」「熊野」「弱法師」・・・能や謡曲に材をとった戯曲集。

三島といえば、自決事件というのが、私に刷り込まれた知識で、それゆえずっと敬遠してきた作家でした。何年か前に「春の雪」が映画化されたときに興味をもって読み始めたものの、世界についていけず挫折・・・。どうも、私のイメージの三島と、作品のイメージにギャップがありすぎて、すっかり混乱してしまったのでした。

ところが、先日、恩田陸「土曜日は灰色の馬」の中で、三島に関してこういう記述を発見。「ケレンと様式美。それだけを賞味するべきなのだと。」「彼の小説は、舞台の上で演じられる芝居なのだ。それを客席からうっとり鑑賞し、決して書割の後ろを覗いたり、緞帳をめくってみたりしないこと。それが三島を楽しむコツだと私は信じている。」

異論はあるかもしれませんが、私にとっては目からウロコでした。で、恩田さんおすすめの「近代能楽集」を手に取ったわけです。

結果、非常におもしろかったです。

もう、あり得ないセリフ、あり得ない設定。大げさでゴージャスで、思わせぶりで、優雅で。でも、その大時代な舞台の中からいつのまにか浮かび上がってくる「真理」ともいうべきもの。その妙な説得力。

舞台を想像しながら、たっぷり楽しみながら読み終えました。いやあ、三島作品、初めて読み切りました。次は小説にいってみようかな。

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