森谷明子

2019年6月 7日 (金)

南風吹く

2909「南風吹く」 森谷明子   光文社   ★★★★

 

愛媛県の島にある分校に通う航太は、高校生活最後のバスケの大会を前に、自分と後輩の怪我で出場を断念する。廃校が決まった五木分校だが、同級生の日向子は「俳句甲子園」に出場するメンバーを集めるために奔走していた。俳句に全く興味のない航太は、ひょんなことからそれに巻き込まれ、京と和彦という二人の二年生も参加。あと一人いればエントリーも可能。そこで、航太は親友の恵一をメンバーにするために、俳句での勝負を挑むが・・・。

 

タイトルは「みなみふく」と読みます。

「春や春」と同じく、俳句甲子園を目指す高校生たちの物語。とは言え、あちらとは全く異なる環境の高校生たち。全く異なる物語のようでいて、実は「春や春」の彼女たちもちらりと登場します。

航太たちの住んでいるのは、いわば「過疎の島」。高校も分校で、それも廃校になってしまう(もう、今年度は募集停止)。島民の中には、島から引っ越していく人たちもいて、住民は高齢化。そんな島の唯一の和菓子屋の一人息子が航太。祖母と父と暮らす彼は、将来は和菓子屋を継ぎたいと思っているが、父には反対されている。体を動かすことが好きで、スポーツに明け暮れているけれど、俳句甲子園の出場メンバーに入れられてしまい・・・。

今回の舞台は愛媛県なので、航太たちも小学校のころから俳句に親しんできた、という設定。それでも俳句に全く興味のない航太。その親友で、今でも一人で俳句を作っているらしい恵一。対照的な二人が、同級生の日向子によって俳句甲子園を一緒に目指すことになっていくのです。

俳句そのものをつくる過程もおもしろいのですが、それぞれの進路に絡む悩みや、島という環境ゆえの悩みなど、さまざまなエピソードが読み応えあります。特に、2年生の京の家族との葛藤が、クライマックスで「答礼句」という形でほどけていくのには、ちょっと泣かされました。

それにしても、ここに出てくる俳句、すべて作者の森谷さんの創作なんですよね・・・。すごいなあ。登場人物の個性に合わせて、こんなにいろんなタイプの句を・・・。そのすごさに圧倒されてしまいました。

2016年1月16日 (土)

春や春

2402「春や春」  森谷明子         光文社         ★★★★

父の影響で、子供のころから俳句に親しんできた茜。かつて句会で会っていた男子の名前を「俳句甲子園」の記録で見つけてしまう。たまたま知り合った同級生のトーコにすすめられ、俳句同好会を立ち上げることに。果たして、俳句甲子園に出場できるのか!?

すごく好きです、この物語。

青春ものっていうだけで弱いのですが、それに俳句!  ちなみに、私は俳句は素養もセンスもありません(涙)  実はかなり苦手意識があったのですが…とっても面白かったです。

茜たちみたいに、言葉に真剣に向き合ったことがあったでしょうか。いつも適当なところで妥協していた気がします。だから、全身で言葉と格闘する彼女たちがまぶしかったのです。

私の愛読書「短歌パラダイス」は、一流の歌人たちによる壮絶な歌会が展開された記録ですが、そんなことを高校生がやっているんだ!というのも驚きでした。

6人の部員と顧問の先生たちなど、視点人物を変えながらの展開も、すごくよかったです。それぞれの思いが積み重なったうえでのクライマックス…「草笛」の句をつくる場面では、泣きそうになってしまいました。

話がうまく進みすぎかなとか、Haluの正体バレバレでしょうとか、突っ込みどころはあるのですが、それを上回るエネルギーのある物語でした。正確には★4.5くらいの感じです。オススメです。

2015年2月 7日 (土)

花野に眠る 秋葉図書館の四季

2230「花野に眠る 秋葉図書館の四季」 森谷明子   東京創元社   ★★★★

秋葉図書館に勤務して1年あまりの司書・文子。図書館にやってきた少年に本を探してあげたり、保育園でブックトークをしたりの業務も、なんとか板についてきた。そんななか、図書館の向かいの日向山から、白骨死体が・・・。

図書館ミステリ「れんげ野原のまんなかで」の続編です。「れんげ野原~」を読んだのがだいぶ前だったので、記憶がさだかではなかったのですが、読んでいるうちに思い出してきました。

今回は5話から成る連作で、本にまつわる謎や、図書館のお客が抱える謎、そして白骨死体の謎について、文子と、先輩司書の能勢さんが解決していきます。

図書館業務についてはやたらリアリティを感じると思っていたら、著者は図書館勤務経験があるのですね。道理で。

ネタバレになるので、詳しいことは書けませんが・・・小さな日常の謎がちりばめられて、それがきれいに解決されていきます。そして、白骨死体のこと。これがもう・・・なんだか、読んでいてウルウルしてしまいました。いろんな人たちの思いが、そこにはあったのですねえ。

★4つにしましたが、個人的な好みでは★4つ半って感じでした。さらなる続編も書いてほしいです。

2014年10月28日 (火)

FOR RENT-空室あり-

2189「FOR RENT-空室あり-」 森谷明子   幻冬舎文庫   ★★★★

「あたしが父親を殺したの」・・・死の間際、母が繰り返しつぶやいた言葉の意味を知るために、少年は16年ぶりに故郷を訪れた。そこで彼を待っていた真実とは。

主人公が自分の家族の過去を調べる過程で、故郷の町で知り合った人々の「謎」を解き明かし、徐々に真実に近づいていく、そんな構成のミステリ。

主人公の少年(高校は卒業したけど、まだぎりぎり二十歳前)のキャラが生きていて、ささいなきっかけから謎を解いていく過程がなかなかおもしろかったです。病院の待合室で読み始めたのですが、おもしろくてやめられなくなりました。

ただ、あとがきはちょっと余計だったかも(苦笑)

2012年7月11日 (水)

望月のあと

1889「望月のあと」 森谷明子   東京創元社   ★★★★★

「この世をばわが世とぞ思う・・・」 藤原道長の権勢が頂点に達しようとする頃、都は付け火や盗賊が横行し、民の暮らしは決して楽ではなかった。そんな頃、紫式部はある決意をもって、「若菜」の巻を書きはじめる。

紫式部三部作。副題は「覚書源氏物語『若菜』」。

「白の祝宴」のあと、あっというまにこれが出たので、ちょっと驚きました。そのへんのいきさつは、著者のあとがきに詳しいです。でも、読者としてはうれしいサプライズでした。

今回は、「玉鬘」を書く過程と、「若菜」が成立するまで、さらに名前のみの「雲隠」にからむエピソードも。私は「玉鬘」あたりから、「源氏物語」に関する知識がとたんにあやしくなるので、いい勉強にもなりました。たしか、高校の古典のテキストに「蛍」を使った気がするのですが・・・当時はピンとこなかったのです。

道長が栄華を極めるのと対照的に、世は乱れはじめています。その庶民の生活にもスポットが当てられて、それが紫式部の執筆にも、大きくかかわってきます。

このシリーズを通して感じるのは、紫式部(香子)の「物書きとしての性」です。書くことに対する誇り、意地、執着。私にとっては、それがとても魅力的なのです。

ところで、あとがきにはさらなるサプライズが。これ、三部作じゃなくなりそうですね(笑)

2011年5月15日 (日)

白の祝宴

1699「白の祝宴」森谷明子   東京創元社   ★★★★★

左大臣家からの再三の要請を受け、やむなく中宮彰子のもとに伺候した式部の君。「源氏物語」の作者として名高い彼女には、中宮の出産の記録を女房たちの視点で描く日記をまとめるという仕事を任される。しかし、左大臣家が栄華を極めんとする一方、亡くなった皇后定子の一族は不遇をかこち・・・やがて、きなくさい事件に式部たちも巻き込まれてしまう。

「千年の黙」の続編です。ときわさんのブログでこの本の存在を知り、早速図書館でゲットしました!

後年「紫式部」と呼ばれる香子(かおるこ)が事件の謎を解くと同時に、彼女の著作の謎が解き明かされる・・・という骨子は、前作と同じ。今回は、「紫式部日記」成立の過程が描かれます。

私も、源氏物語は多少かじっていても、「紫式部日記」はまともに読んだことがありません。あまり興味がないというか・・・あまりおもしろくないという話なので(苦笑) ところが、作者は、「おもしろくない日記が、なぜ書かれたのか」という理由を生みだしています。女性にとってその意味は非常に大きい。終章の香子の娘・賢子のエピソードと、それを読み終えて、序章の存在を思いだした時、じわっと感動しました。「源氏物語」とは全く異なる動機で書かれた日記が、後の世まで残り、少なくとも一人の女性の生きる力になっているという・・・。

ミステリとしても、香子の侍女・阿手木と権中納言家の家人・義清の夫婦が政争に絡む事件に巻き込まれ、それを香子が抜群の推理力で解き明かしていきます。中宮彰子の出産という重大事を背景に、二重三重に絡んだ謎に翻弄されました。

それにしても・・・前作でも感じましたが、香子の「ものを書く人」としての生き方、その冷徹なまでの業のようなものは、すさまじいです。「源氏」が後半からあのような展開になっていく理由。それは、香子自身が苦しんだからこそ描けるものなのでしょう。

今回おもしろかったのは、和泉式部の存在です。香子とは対照的に奔放な人生を送った人ですが、二人の交流の場面は、なんとも言えない味がありました。

2010年9月19日 (日)

葛野盛衰記

1568「葛野盛衰記」森谷明子   講談社   ★★★★

多冶比の一族の娘・伽耶のもとに、山部皇子が通うようになってしばらく経った。一族の命運を皇子に委ねたのだが、皇子は皇統からは遠い廃れ皇子だと言う。しかし、思いがけぬ運命の変転は、皇子を帝位へと近づける。それと共に屈託を見せるようになった皇子は、多冶比の里のさらに奥にある森へと足を向けるようになり・・・。

「魔」とは何か。それは、人の心が生み出すもの。では、果たして「魔」は「悪」なのか。この世に必要ないものなのか。・・・読んでいるうちに、わからなくなってきました。

先日読んだ「獣の奏者」はスケールの大きい物語でしたが、こちらはまた長い時間をゆったりと旅してきたような気分になる物語でした。

「歴女」(笑)としては、こういう歴史の流れの中で物語を紡いでいくような展開は、とても好きです。最初、「葛野」と見た時は、大友皇子と十市皇女の子・葛野王かな?と思ったのですが、微妙に違いました。葛野とは地名であり、京の都・平安京を指すものでした。

平安京を築いた桓武天皇。その都を遷そうとした平清盛。都ができるまでと、事実上滅びるまで・・・まさに「盛衰」を、その裏側から描いた物語。歴史を裏で操り、都を築き、それを守り、ひっそりと生き続けてきた一族。特にもその女性たちの姿は、実に美しく、妖艶で、そして哀しいものでした。讃良しかり、内野しかり。また、彼女たちと相対する立場にあった伽耶や真宗、薬子、宗子(池禅尼)の生き方も印象的でした。歴史に名を残すのは主に男性ですが、その陰で糸を命がけで身体をはって闘っている女性たち・・・。

史実をもとにして、ここまで物語を紡いでいく作者の手腕はさすがです。常盤の名が出てきた時は「あ!」と。そうか、こういうふうにつながるのか・・・と、感心してしまいました。なぜ清盛が頼朝の命を助けたのかというのも。なるほど、こうなるのか、と。なぜ都に宴の松原が必要だったのか。賀茂斎院がおかれるようになった理由等など。どこまでが史実で、そこからが創作なのか、だんだん境目が見えなくなってきます。

読み終える頃には、たくさんの登場人物すべてがはるかかなたに消え、この物語の主人公は、都そのものであったのだと思えてきました。

2010年8月28日 (土)

矢上教授の午後

1552「矢上教授の午後」森谷明子   祥伝社   ★★★

東京都下、多摩地方に位置する大学の、生物総合学部研究棟。老朽化著しいその建物の最上階に巣くっている矢上教授は、夏季休業中の午後も研究室で読書三昧。その優雅な午後、激しい雷雨とともに、殺人事件が起こる。そして、矢上たちは研究棟に閉じ込められる。夏休み中だというのに研究棟にいた面々の中に、はたして犯人はいるのか。

超然とした老境の教授と、ミステリと・・・。なかなかおもしろそうな取り合わせではないですか。と思って借りてきましたが・・・う~ん、私の好みからは微妙にズレていました。残念。

いろんな状況が絡み合って、事件が起こり、それを解き明かす過程で小さなひっかかりも次々解明されていくという構成は、決して嫌いではありません。が、いかんせん、細切れにあちらこちらと場面が変わるのが、どうも苦手なんです。これは、全く個人的な好みの問題。私は「流れ」で読みたい方なので、断片を積み重ねていくような文章は、ちょっと苦手なのです。

ミステリとしてはそれなりにおもしろかったですが、人物の描き分けがちょっと甘かったかなあ。進藤さんと葛原さんが、私の中ではごっちゃになってしまいました。それから、矢上教授のところに出入りしている御牧咲のキャラもなんだか中途半端だったし。もっと、矢上教授が強烈な個性を発揮してもよかったのではないかという気も。

期待が大きかっただけに、ちょっと残念でした。

2008年10月 3日 (金)

れんげ野原のまんなかで

1353「れんげ野原のまんなかで」森谷明子      東京創元社      ★★★★

秋庭市の郊外にある図書館の司書・文子は、職員の目を盗んで閉館後も図書館に居残ろうとする少年たちと出会う。彼らの狙いは?

図書館が舞台のミステリ…というだけで、ツボです。主人公が司書とくればなおさら。謎を解くのは、文子の先輩司書の能勢。この能勢と、同期の日野の、本に対する知識と愛情の深さに圧倒されました。
本が絡んだ事件…なんて、本好きにはこたえられません。私も本が大好きですが、文子たちには負けます。同時に、司書って、ただ本が好きなだけではやっていけないのだろうな…と感じました。
季節を感じさせる自然の描写も、文子の能勢に寄せるほのかな思いも、なかなか印象的でよかったです。

2004年4月 7日 (水)

千年の黙 異本源氏物語

490「千年の黙 異本源氏物語」森谷明子   東京創元社   ★★★★

 時は平安。一条帝の御代。藤原道長が権勢を振るうも、後宮では中宮定子がときめいていたころ。帝がかわいがっていた猫がいなくなった謎を解き明かしたのは、のちの紫式部。そして、彼女が書いた物語をめぐって起こった事件とは・・・。

 第13回鮎川哲也賞受賞作。
 以前に本プロで高評価だったので購入しました。あまりにも私の好みにジャストフィットな予感がしたので。
 結果、当たりでした。紫式部を探偵役に、式部に仕えるあてき(のちに小少将)を狂言回しにすえた、平安時代を舞台にした「日常の謎」系ミステリ。第1話は猫の消失事件で式部の探偵としての能力を示す。続く第2話が本編で、「源氏物語」一部が消失した謎を追うというもの。エピローグ風の第3話が解決編という構成。
 「源氏」はあまり好きじゃないと言いつつ、ついつい読んでしまう物語。この中に欠落した部分がある、という説は知っていましたが、なぜそうなったのか、式部は何を考えていたのか、という点は非常におもしろかったです。もちろんフィクションなんだけど、説得力がありました。
 式部の物語を書くことに対する情熱や強い意志には感動すらしてしまいました。ミステリというよりも、「物語を書く人の思い」にひきずられるようにして読みました。
 それに、氷室冴子の平安ものに熱中した過去をもつ身としては、時代設定などがツボ。時代物としては甘さもありますが、それが気にならないくらいおもしろかったです。
 本プロで紹介されていなければ見過ごしていたかもしれません。あらためて感謝、です。

あしか > 以前本プロで見かけて、これは読もう!と思ったはずなのに(たぶん)まだ読んでなかったものですよ。私も読みたいです。 (2004/04/08 11:43)
ココ > やっぱり氷室さんを読んでいた人にはツボですよね~。紫式部はじめ、キャラクターが魅力的でたいへん楽しめました。 (2004/04/08 12:00)
ときわ姫 > これはとても面白かったので、妹に勧めました。だいぶ前なのに、図書館に予約してまだ来ないと最近ぼやいていました。 (2004/04/08 13:38)
トントン > きちんと源氏物語を読み通したことがないけれど最近興味が出てきました。「日常の謎」系ミステリーなんですね~チェックしておきます♪ (2004/04/08 15:48)
まゆ > あしかさん、私も本プロで知って、「読まねば」と購入したのですが、ずっと積読でした。おすすめですよ。
ココさん、式部もあてきも岩丸もいいキャラですよね。やっぱり「ざ・ちぇんじ!」「ジャパネスク」を読んでた人は、絶対これははまると思います。
ときわ姫さんの感想、チェックしておりました。すごくおもしろそうだなあと思って。期待を裏切らないおもしろさでした。
トントンさん、「源氏」を読破してなくても、話にはついていけます。おすすめの一冊です。 (2004/04/08 21:50)
あさこ > 古典は苦手だし、氷室冴子作品も読んだことなかったのですが、これはとてもおもしろかったですー。すごく魅力的な式部さんでしたよね。「源氏物語」にも興味がわきました。 (2004/04/08 23:20)
まゆ > あさこさんの感想も参考にさせていただきました。俄然「源氏」を読みたくなっています。田辺聖子訳のを積読してるので、読んでみようかなあ。 (2004/04/09 19:43)

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