サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する
3092「サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する」 梯久美子 角川書店 ★★★★
妹・トシを亡くした翌年、宮沢賢治が旅したサハリン。チェーホフや林芙美子、北原白秋など、名だたる文化人が訪れた地でもある。サガレン、樺太、サハリン…と、幾度も名を変えた国境の島に、何があるのか。
『寝台特急、北へ』『「賢治の樺太」をゆく』の二部構成。筆者が実際にサハリンの地で取材を重ねた紀行文。
賢治の詩で最も印象的なのは「永訣の朝」ですが、そこに連なる「オホーツク挽歌」等、サハリンへの旅をモチーフにしたものは、ひととおり読んだものの、「よくわからない…」という感想しかなく。というか、賢治がサハリンを旅したということ自体、よく理解していませんでした。(北海道に行ったとしか思っていなかった!)
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第一部は、「テツ」が入っている梯さんが、嬉々としてサハリン号の旅を始めるところから。第一部は賢治の話はなく、林芙美子や北原白秋、チェーホフの紀行の紹介と、サハリンの「歴史の地層」の話。ちょっと拍子抜けしましたが、鉄道旅を楽しんでいる梯さんの様子が伝わってきて、少々「テツ」成分が入っている私も楽しみました。それに、この第一部があったからこそ、賢治の樺太行きとその心の奥底に分け入る第二部が、リアルに感じられるのです。
第二部は、賢治が旅した樺太と、心の変化を、詩を検証しながら解析していきます。妹を亡くして悲嘆にくれ、怒り、悩み、混乱していただろう賢治。その詩は、旅の初めと終わりとでは驚くほど異なります。樺太で、賢治は何を見て、何を感じたのか。筆者は、その地を旅して、賢治の目に映ったであろうものを見て、検証していくのです。
丁寧に説明されて、「よくわからない」詩だったものが、サハリンの自然を写し取ったものだとわかってきます。そして、賢治が旅を経て至った心境は、「銀河鉄道の夜」等の作品にも色濃く投影されていることも。
もちろん、わからないことはわからないのです。しかし、筆者なりに資料や文献を集め、読み解き、さらに現地へ足を運んで感じたことには、やはり説得力がありました。
最後に筆者が「落涙しそうになった」というところで、私はまさに落涙しました。賢治がそういう心境に至るまでをたどってみると、彼がどんな思いでそれを書いたのか、と…。
読み終えて、改めて巻頭のサハリンの写真を見ると、感無量でした。
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