藤沢周平

2010年6月 7日 (月)

花のあと

1507「花のあと」藤沢周平   文春文庫   ★★★★

女ながらも剣の才に恵まれた以登には、ほのかな思いを寄せる男がいた。その相手、道場一の遣い手・江口孫四郎と、父の計らいで一度だけ剣を交えた以登。しかし、以登にはすでに許嫁がおり、孫四郎への思いは、生涯ただ一度の恋として封印された。ところが、孫四郎は、思わぬ運命に翻弄されて切腹。以登は、真相を知ろうとする。

表題作「花のあと」を含む、8編の短編集。「花のあと」は北川景子主演で映画化されましたが、それで興味をもって読もうと思いました。女剣士っていうのに弱いんです(笑)

決して美形ではないけれど、凛とした心持ちの以登の姿と、その以登のために奔走してやる許嫁の才助の優しさが印象的でした。もっとも、才助は食えない人物のようですけど。これは以登が才助の没後に、若き日の恋物語を孫たちに語って聞かせるという設定ですが、相手に伝えることすらかなわなかった恋と、その後長年連れ添った夫への情愛が伝わってきて(以登は、才助のことを全然良く言わないけれど)、この短編集のしめくくりにふさわしい物語でした。

ほかには、藩主の元側室である尼僧が、かつての許嫁の汚名を晴らそうとする「雪間草」や、幼なじみの二人が互いにわけありの身になって再会する「冬の日」が好きでした。

藤沢周平はそれほどたくさん読んではいませんが・・・派手さはないけれど、人の心の機微を少ない言葉で実にうまく描きだします。さすが、です。これからも少しずつ読んでいきたいと思っています。

2007年11月12日 (月)

風の果て(上・下)

1210「風の果て(上・下)」藤沢周平   文春文庫   ★★★★

 下士の次男から、藩の家老職にまでのぼりつめた桑山又左衛門のもとに、果たし状が届いた。相手は片貝道場で出会った友の野瀬市之丞。彼は五十を過ぎた今も娶らず禄食まぬ、「厄介叔父」と言われる部屋住みだった。なぜ、友と斬りあわねばならぬのか。困惑する又左衛門の胸中を、来し方が去来する。

 NHK木曜時代劇で放映中の「風の果て」原作です。山本耕史につられて見た「陽炎の辻」に引き続き見ています。あちらは娯楽ものの色合いが濃かったのに比べて、こっちは暗く、重いです。でも、けっこうおもしろくて、欠かさず見ています。で、とうとう原作にも手を出してしまいました。

 原作もドラマ以上におもしろかったです。一章ごとに、桑山又左衛門が、過去を回想する・・・という構成になっているのですが、まだ部屋住みで「上村隼太」だった頃から始まって、彼を取り巻く環境が激変していく過程が実におもしろいのです。もっとも、起こる事件はどちらかというと暗いものが多く、やりきれないような気持ちになるのですが。

 一番大きいのは、市之丞はじめ、友との関わりです。隼太と同じような下士の部屋住みの市之丞、一蔵、庄六、そしてたった一人、元家老の嫡男の鹿之助。身分の隔てもなく、将来への不安をリアルに感じることもなく、友として笑って過ごしていた日々のなんとまぶしいことか。それが、「大人」になるにつれ、彼らは過酷な運命に取り込まれてしまうのです。

 家老という権力の中枢にまでのぼりつめながら、それゆえに失ったものの大きさを痛感する又左衛門。しかし、彼は清廉潔白な人物ではなく、それなりに野心もある等身大の人物として描かれます。それが、非常に説得力をもっているのです。自分の人生を、必死に生きてきた一人の男として。

 上下巻一気に読んでしまいましたが、それだけの力がある物語でした。人生の光と影・・・そんなことを考えさせられました。

 ドラマは、原作にない場面がけっこう加えられています。が、それがドラマとしては成功していると感じました。小説であれば、読者にゆだねてもいい部分を、ドラマでははっきり「こうだ」と説明しています。そこが、小説とテレビの違いなのかもしれません。

2007年7月 9日 (月)

たそがれ清兵衛

1138「たそがれ清兵衛」藤沢周平   新潮社   ★★★

 城でのお勤めが終わるとさっさと家に帰り、病身の妻の代わりに家事にいそしむ。昼間は居眠りしていても、日暮れから急に元気に立ち働く姿に、ついたあだ名が「たそがれ清兵衛」。そんな清兵衛が、藩の勢力争いに巻き込まれ・・・。

 表題作をはじめとする8編の短編集。いずれも情けない異名のある下級武士が主人公。彼らに共通するのは、実は剣の達人だということ。
 「たそがれ清兵衛」は映画で有名になりましたが、私は見てないのです。ただ、気になってはいたので、読んでみました。
 どの物語も、武士でありながら、それ以上に人として大切なものを慈しんで生きる男たちが描かれています。藩の勢力争いやら政変やらに巻き込まれた彼らが、それでも自分らしく生きるさまが、読んでいて心地よかったです。 

こん > まゆさん、私は本は読んではいないんですが映画の方は観ました。人ってどうしても見栄をはったり無理に背伸びしたりしてしまいがちですが、自分の「身の丈」というものを知るということを考えさせられた作品でした。とても良い作品でした。(個人的に真田さんのファンというのもあるんですが) (2007/07/11 09:00)
さくら > 私も映画は観ましたが、原作は未読です。無理せず家族のために真面目に過ごしてきた清兵衛が最後自分らしく無理するところがいいんですよね。
原作は短編だったのですね~
(2007/07/11 09:53)
まゆ > こんさん、さくらさん、映画は「たそがれ清兵衛」と「祝い人(ほいと)助八」、「竹光始末」の三作が原作になっているそうです。「竹光~」は未読なのですが、映画のストーリーは、どちらかというと「助八」の方が近いと思います。「助八」は、小説もとてもよかったです。この短編集の中では一番好きかもしれません。 (2007/07/11 21:21)

2003年1月17日 (金)

天保悪党伝

117「天保悪党伝」藤沢周平   新潮文庫   ★★★

 天保の世、お江戸に巣食う極めつきの悪党ども。
 姿(ナリ)はよいが、博打にうつつをぬかす御家人・片岡直次郎。神道無念流の遣い手ながら辻斬りをする金子市之丞。表の顔は商人、裏は抜け荷の元締め・森田屋清蔵。凶状持ちの料理人・くらやみの丑松。吉原の花魁・三千歳。
ゆすりたかりの名人で、直次郎たちの親分筋の河内山宗俊。
 この6人が複雑に絡み合いながら、さまざまな悪事をかさねていく大江戸ピカレスク。

 講談や歌舞伎でおなじみ「天保六花撰」の藤沢周平版。どうしようもない悪どもだけど、なんだか憎めないところがいいのです。
 彼らの悪事をついつい応援しながら読んでしまいます。
 時々、無性に時代物(江戸もの)を読みたくなる癖がありまして。いつもは池波正太郎あたりに行き着くのですが、今回はちょっと趣向を変えてみました。なかなかおもしろかったです。

2002年8月29日 (木)

蝉しぐれ

13「蝉しぐれ」藤沢周平   文春文庫   ★★★

 海坂藩の少年藩士・牧文四郎。良き友にも恵まれ、学問に剣にと充実した毎日を送っていたが、ある日、父が御家騒動に巻き込まれて切腹を命ぜられる。文四郎は苦難に耐えながら成長していく。
 …と書くと、重苦しい話のように聞こえるが、文章がテンポよく、読んでいて全く苦にならなかった。文四郎、逸平、与之助の友情。やがては藩主の側室になる、隣家の娘おふくへのほのかな思い。剣の修行にかかわるさまざまなエピソード。時代物の醍醐味がこれでもかとつまっている。特に後半、おふくが命を狙われ、文四郎が窮地を救う場面は、物語が急展開し、息もつかせぬ迫力。
 時代物、といっても、古臭さはなく、むしろ文四郎の青春物語といった感じ。それなりの長さがあるけれど、一気に読みました。
(余談・その1)今年から、中学校国語の教科書に一部が採用されています。
(余談・その2)だいぶ前ですが、宝塚で舞台化されました。(私は見てません)かなり評判はよかったようです。

居眠りクマ > 藤沢周平さんの文章は山の湧き水のように鮮烈で無駄がなく、けれどやさしい。教科書でみた、というだけで、くわずぎらいになる人が、いなければいいな~、と思います。 (2002/08/30 22:38)
まゆ > 藤沢周平、読んだのはこれで2つ目くらい…たぶん。前に読んだのは何かは思い出せませんが。「山の湧き水のように鮮烈」。たしかに、居眠りクマさんのおっしゃる通り。その表現、ピッタリです。 (2002/09/01 18:27)

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