橋本治

2010年9月14日 (火)

リア家の人々

1565「リア家の人々」橋本治   新潮社   ★★★

東大出の文部省官僚の砺波文三は、戦後の公職追放によって、仕事を追われる。失意の日々の後、仕事に復帰した文三だったが、妻のくが子は癌に倒れる。そうして残された三人の娘たちは、父に対して複雑な思いを抱いていた。長女と次女は、それぞれに配偶者を見つけ、家を出ていった。末娘の静にだけは愛情を感じていた文三だが・・・。

橋本治による戦後小説という新聞の広告を見て、おもしろそうだなあと借りてきました。

戦後まもない頃から学生運動が全国に広がった1968年ごろまでの物語です。私には、「知らない時代」の話。うちの両親などは「懐かしい」と言うのでしょう。

砺波家の家族のありようは、いびつです。父は家長であり、正面切って家長の言葉に逆らうようなことは誰もしません。では、皆が本当に文三にしたがっているか・・・答えは、ノーです。文三もまた、それが義務であるという認識のもとに、家族を養っています。だから、彼の視点はひどく一方的で、常に上から目線。相手の思いを聞くということの必要性を感じることもなく、自分がこうだからこうなのだ・・・という理屈が展開します。それが一番顕著だったのは、文三の再婚話。妻の病中から亡くなった同僚の妻と関係をもち、妻の一周忌に親族の前でいきなり再婚したいと告げる。しかも、相手の女性の了承もとらず。娘たちにも何も相談せず。

でも、文三の考え方は、当時としてはそれほど奇異ではなかったのかもしれません。ただ、それを契機に長女の環は父に対して異を唱え、次女の織江もまた父のために何かしようという気持ちは一切持ち合わせていないことがはっきりします。末娘の静だけは、黙々と父にしたがっているように見えて、彼女もその生き方が実はおかしいのではないか・・・と思うようになっていきます。

大きな事件が起こるわけでなく、時代の移り変わりの中で、ある意味淡々と生活している砺波家の人々は、この時代の過程の雛型の一つなのかもしれません。でも、この家族なのに空虚な感じ・・・現代にもつながっている気がしました。

時間が行ったり来たりして、読みながら「あれ?」となることが多々あり、ちょっと大変でした。

2010年6月13日 (日)

これで古典がよくわかる

1512「これで古典がよくわかる」橋本治   ちくま文庫   ★★★★

「古典はわかりにくい」と言う人が多い。でも、それは当然なのです。なぜかというと・・・。日本語の文章の変遷から、古典作品が描かれた時代背景、そして、作者の人物像・・・さまざまな角度から古典の魅力に迫る入門書。

橋本治というと、私が強烈な印象を受けたのが「桃尻語訳枕草子」でした。実は、当時、私はあれを全く受け付けなくて(苦笑)、おじさんのくせに何書いてんの、キモチワルイ・・・というのが、正直な感想でした(すみません)。

その後、職業柄古典と付き合うようになって、そのおもしろさにはまりこみ、どうにかしてこのおもしろさを中学生にもわかってほしい!と悪戦苦闘するようになりました。でも、年々ハードルは高くなる一方。で、いろいろ参考になりそうな本を読んでいるのですが・・・これは、非常におもしろかったです。

古典といえば、やはり「源氏物語」「枕草子」という感じがしますが、私たちがそう感じるのも、実は歴史的に理由があるのだそうです。そして、一番読みやすい(わかりやすい)古典は、「徒然草」なのだ、と。のけぞってしまいましたが・・・橋本さんの「徒然草」解釈は、すごくおもしろい。なるほど!と思うことが多いのです。

目からウロコだったのは、「新古今集」の歌の解釈。私は新古今が苦手で苦手で、授業で出てくると困ってしまうのですが・・・なるほど、私が苦手なのはそういう理由だったのか!と納得しました。

それから、源実朝と後鳥羽上皇に関するくだりも。二人のおかれた環境、そこからうまれた価値観、それゆえに到達したそれぞれの「和歌の世界」・・・というと難しそうですが、とてもわかりやすく、「なるほど~」とうなずいてしまいました。

古典が苦手な人はもちろん、ある程度興味がある人にもおすすめの一冊です。

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