夏川草介

2010年11月27日 (土)

神様のカルテ2

1621「神様のカルテ2」夏川草介   小学館   ★★★★★

「医師の話ではない。人間の話をしているのだ。」

信州の病院で、過酷な地域医療の現場で悪戦苦闘する内科医・栗原一止。彼の勤務する病院に、大学時代の同級生・進藤辰也がやってくる。「医学部の良心」と呼ばれた辰也の帰還を一止は喜ぶが、辰也は以前とはすっかり変わってしまっていた。

正直、この「2」を書店で見かけたとき、「えっ!」と思ったのです。映画化と聞いたときも、「え~」と思ったのです。好きな話だけに、商業路線に乗ってほしくないというか。それなのに、「2」まで出ちゃうのか、売れると踏んだんだな、でも前作を超えるものを書けるのかな・・・と、ずいぶん失礼なことを思ったのです。で、しばらく手に取りませんでした。

が、あちこちのブログをのぞいてみると評判がいいので、じゃあ・・・と。

今回のすべては、冒頭に引用したイチさんのセリフに象徴されます。医師も患者も、生きている人間であること。そしてまた、いずれは死んでいく人間であること。死とは、人との絆の消失であること。しかし、それはまた誰かに受け継がれていくものであること。・・・そんな「あたりまえのこと」が、私たちがさまざまなことにかまけて忘れがちなことが、イチさんの目を通して描かれていきます。

涙があふれそうになって、でも、それをこらえながら続きを読んで・・・を、何度も繰り返しました。前作もよかったですが、私は「2」の方がより好きです。それぞれの登場人物が、人間として、自分の生き方に真摯に向き合っている姿が、胸にしみました。

学生時代の恋敵でもあった辰也の登場で、イチの個性がより際立ってきた気がします。二人のやりとり、すごく好きでした。コーヒーかけるのは勘弁してほしいですが(笑) それから、大狸先生と古狐先生も。みんながギリギリの中で、精いっぱい自分にできることをやり、大切な人を守り・・・。医師は特殊な職業ではあると思いますが、それが生身の人間であるのだということを実感しました。

トヨさんマゴさん夫婦のエピソードは反則じゃないかと思いましたが・・・マゴさんの歌が聞こえてくるあたりは、もうなんと言ったらいいか。それがあるだけに、古狐先生と千代さんの思いが、せつなくてならなかったです。私にも星空が見えるような気がしました。

それにしても、ハルさんは相変わらず素敵な女性です。こんな奥さんになりたいなあ・・・と、前作を読んだ時も思ったはずなのに、程遠い私。何かを求めるのでなく、互いを気遣い、寄り添って歩いて行けるような夫婦、いいですねえ。

「2」が出た時には驚きましたが、これなら納得です。映画化にはまだちょっと微妙な気分の私ですが・・・(ハルさんが宮崎あおいちゃんというのは納得です)。

2010年2月 4日 (木)

神様のカルテ

1436「神様のカルテ」夏川草介   小学館   ★★★★★

夏目漱石の「草枕」を愛し、語る言葉は漱石の文章ばりの変わり者。結婚1年の妻・ハルを心から愛する青年医師・栗原一止は、信州の「24時間、365日対応」の本庄病院の内科医。受け持ち患者と、救急患者への対応に追われる毎日だが・・・。

最近、医療ものドラマって流行ってますね。私も好きでよく見てます。特に救命救急ものは、展開も派手で、ドラマ性が高いですね。でも、これはそういう派手な出来事は起こりません。ものすごく普通の、田舎の病院の、ある一時期を切り取った物語。それにこんなに泣かされるとは。

最近、何かと病院のお世話になることが多く、さらに知人の死や入院が続き、医療のことや、人の生死について、何かと考えてしまうことが多いのです。そんな今の私に、ダイレクトに響いてきました。

ゴッドハンドもいないし、かっこいい救急専門のドクターもいない。救命ヘリがあるわけでもない。ふつうの病院。でも、満足して治療を受け、亡くなっていく患者さんたちがいる、そんな病院。それが本来あるべき姿なはずなのに、それが難しくなっているというのは、どういうことなんでしょうね。医者も患者も、自分のことしか考えられず、傲慢になっているのかもしれません。

「いくら漱石に傾倒していても、こんな話し方するやついないだろ~」な一止ですが・・・この古風な文体が、この物語のテーマに不思議なくらいフィットして、読み進めるにつれて、じんわり胸にしみてきました。特に、友人の「学士殿」を励まそうとする一止の言葉は、素敵でした。そんな一止が、たまにハルに普通の話し方で自分の気持ちを伝えようとするのが、私にはかなりツボでした。

すごく評判のよい本だったので、期待して読みましたが、期待を全く裏切りませんでした。「泣ける」と言われると、「泣くまい」と思うあまのじゃくですが、あっさり泣かされてしまいましたよ。

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