松本清張

2014年10月25日 (土)

日本の黒い霧(上)(下)

2186「日本の黒い霧(上)(下)」 松本清張   文春文庫   ★★★

下山事件、松川事件、帝銀事件・・・占領中に起こった、その真相が曖昧なまま決着したことになっている事件の多くは、背景に何を隠しているのか。松本清張が不可解な「黒い霧」に迫ったノンフィクション。

先日、某テレビ番組を見ていて、「え?こんな事件あったの?」というのがありまして。私が生まれる前の事件なので知らなくても当たり前ですが、そう言えば戦後史って意外とわかってないよねえという話になり。旦那の本棚から拝借しました。

一言でいうなら、難しかったです。GHQというのがキーなのですが、それすらもはや歴史の世界。当たり前に記述されていることについていけない(基本的な知識が欠落している)ので、かなり苦戦しました。もう、力技で読み進めたみたいな。

最終的にアメリカの謀略説に帰結するので、それについての批判はかなりあったそうです。半藤一利さんの解説には、大岡昇平による批判も引用されています。実際、はたしてそういう謀略があったのかわかりませんが、松本清張の鬼気迫るような筆には、説得力があることは事実です。

これを読んで初めて実感したのは、「占領下」というのがいかに異常な事態であったのかということです。GHQからの命令であるとなれば、一切拒否できない。自国の国民が拉致されようと、スパイを密出国させようと、異議を申し立てることすらできない。日本には、確実にそういう時代があったのだということが、これを読むとよくわかります。そして、戦後の日本がいかにアメリカの都合に振り回されてきたか。さらに、朝鮮戦争がどのような展開を経たのか。・・・なんというか、知らないことがたくさんありました。

この本に書かれている大半のことは、昭和史の怪事件として語られることはあっても、歴史の教科書などに大々的に記述されるものではないのでしょう。しかし、そういうところに時代の真の姿はひそんでいるのかもしれません。

2014年1月24日 (金)

火の路(上・下)

2086「火の路(上・下)」 松本清張   文春文庫   ★★★

新進の考古学者・高須通子は、奈良で、刺された男を偶然助ける。その男・梅津信六には、隠された過去があった。梅津の示唆のもと、通子は飛鳥の歴史にペルシア朝の影響を見つけ、それを確かめるためにイランへ旅立つ。

奈良旅行をいまだに引きずっています。この本、旦那が処分してしまったというので、仕方なく購入。しかし、こんなに長いし、難しいとは思っていませんでした。

考えてみれば、私の古代史のベースは、里中満知子「天上の虹」とか、清原なつの「光の回廊」とか、漫画が多いのでした・・・。それで、ゾロアスター教のこともなんとなくわかったつもりでいましたが、甘かったです。とにかく、苦戦しました。読んでも読んでも終わらない・・・。しかも、難しい。

もう、殺人事件とか盗掘とかどうでもよくて、ゾロアスター教のことを書きたかっただけでしょう?という(苦笑)

でも、これを読んで、やはりもう一度飛鳥には行かねばと思いました。

2013年12月23日 (月)

霧の旗

2074「霧の旗」 松本清張   新潮文庫   ★★★★

九州からはるばる上京した桐子は、殺人罪で逮捕された兄の無実を立証するため、高名な弁護士・大塚のもとを訪ねた。しかし、忙しい大塚は、弁護料を払えそうもない桐子の話をろくに聞かず、追い返してしまう。桐子の兄は、死刑判決を受け、控訴中に獄死。それを知った大塚は、ひそかに裁判記録を取り寄せ、調べ始めるが・・・。

山田洋次監督で映画化されたものを、ちょっと前に見まして。桐子役は倍賞千恵子でした。怖いというか、なんというか・・・凄絶な演技に背筋が寒くなるようでした。

で、先日、古本屋で原作を見つけたので、購入。意外なくらい、映画は原作を丁寧になぞっていました。ラストシーンは、原作にないものでしたが。

九州でつましく暮らしていた兄妹が、突然事件に巻き込まれ、人生が激変してしまう。そして、その弁護を断った弁護士も、その渦の中に巻き込まれ、思わぬ事態になっていく。絡み合った人間関係が徐々に明らかになり、それが伏線となって桐子の「復讐」が成立するという・・・。後半三分の一の怒涛の展開はすさまじいものがあります。

しかし、事の発端はといえば、小学校の教員をしていた桐子の兄が、修学旅行の積立金3万8千円を紛失したというもの。もちろん、現代と金銭価値は違いますが。事件後にそれを知った校長が、「4万くらいなら、私が都合できたものを」といとも簡単に言うのが、印象的でした。

貧しさというのが、誰にでもリアルに感じられた時代の物語なのかもしれません。もっとも、現代もまた、貧富の差は大きくなっていますが。

2013年6月 8日 (土)

暗闇に嗤うドクター  松本清張傑作選

2005「暗闇に嗤うドクター  松本清張傑作選」 松本清張   新潮文庫   ★★★

海堂尊による医療物6編。「死者の網膜犯人像」「皿倉学説」「誤差」「草」「繁昌するメス」「偽狂人の犯罪」を収録。

浅田次郎、宮部みゆきによるアンソロジーを読んできましたが、今回のが一番読みやすかったかもしれません。なんとなく、エンタテイメント的な要素が高いような。もしくは、2時間ドラマっぽいというか。

で、サクサク読んでいたのですが、途中でどうにも気が滅入ってきて・・・。実は、しばらく読むのを中断していました。私自身が元気がなかったのもあるのでしょうけど。それでも、どうにか読み終えました。

一番インパクトがあったのは、「皿倉学説」です。学閥ものかと思っていたら、最後の着地点が・・・ザワッときました。

2013年5月18日 (土)

戦い続けた男の素顔  松本清張傑作選

1999「戦い続けた男の素顔  松本清張傑作選」 松本清張   新潮文庫   ★★★

宮部みゆきによる松本清張アンソロジー。「月」「恩誼の紐」「入江の記憶」「夜が怕い」「田舎教師」「父系の指」「流れの中に」「暗線」「ひとり旅」「絵はがきの少女」「河西電気出張所」「泥炭地」の12編を収録。

このアンソロジーのテーマをよく理解しないまま読みはじめ、「戦い続けた男」というのが松本清張を指すということに、なかなか気づけませんでした。さらに、似たような設定が繰り返し出てきて、これはいったい・・・と、途中で挫折しそうに。

要するに、松本清張の「私小説的な」「自伝的要素をもつ」短編を集めたもの、なのでした。

もちろん、設定が似ているだけで、小説の味付けは全く異なります。それでも繰り返し描かれたモチーフが、どれほど作者の心に深く根を下ろしていたのか、想像されます。ただ小説を読んでいるだけなのに、いつのまにか、これを書かずにいられなかった作家の心象が透けて見えるような編成になっています。

また、最後の2編は、ほぼ同じ設定(高等小学校卒の少年が、電気会社で給仕として働く・・・清張自身の体験)で、出来事もほぼ同じでありながら、異なる結末を迎えるという、「読み比べのおもしろさ」を味わえます。

松本清張を読むおもしろさに加えて、アンソロジー編者としての宮部みゆきさんの力量を思い知らされた一冊でした。

2013年4月23日 (火)

悪党たちの懺悔録 松本清張傑作選

1991「悪党たちの懺悔録 松本清張傑作選」 松本清張   新潮文庫   ★★★

浅田次郎による松本清張アンソロジー。「啾々吟」「カルネアデスの舟板」「ある小官僚の抹殺」「黒地の絵」「空白の意匠」「大臣の恋」「駅路」の7編を収録。

初夏のような暑さの東京から、雪がちらつく岩手に帰って、風邪ひいて寝込んでいました(涙)ようやく、復活。

で、熱を出したその日に病院でボーっとしながら読んでいたのが、これでした。体調悪い時読むにはちょっと重かった・・・。

かなり有名な作品もあるようですが、私はいずれも初めてでした。冒頭の「啾々吟」が一番好みでした。「黒地の絵」は・・・ほんとにあったのですね、こんなことが。朝鮮戦争当時のこととか、全然知らないんだなあと痛感させられました。

このシリーズ、ほかにも出ていて、気になってます。特に、海堂尊さんと宮部みゆきさんによるアンソロジーはぜひ読もうと思ってます。

2012年4月 8日 (日)

点と線

1851「点と線」 松本清張   新潮文庫   ★★★

博多付近の海岸で発見された男女の死体は、心中事件と思われた。しかし、そこに汚職事件に絡む疑念を感じた刑事たちは、容疑者の鉄壁のアリバイを崩すべく奔走する。

先日、松本清張「市長死す」を、反町隆史主演でドラマ化したのを見ました。ヒロインは木村多江。ラスト、夫と顔を見合わせ「怖い・・・」とつぶやいてしまいました。残念ながらその原作は夫の蔵書になかったので、もはや社会派推理小説の古典「点と線」を手にしました。

これ、学生時代に一度読んだのですが・・・当時は「新本格」にはまっていたので、「社会派」というだけでもうダメでした(苦笑) 今読んでみると、時代的に古さはどうしてもありますが、時刻表を使ったアリバイトリックは当時としては非常に斬新だっただろうし、刑事たちの執念や犯人の動機など、それなりに読みごたえがありました。

その後、時刻表を使ったトリックなど、珍しくもなくなっていくわけですが・・・やはり、その嚆矢となるというのはユニークな発想の持ち主だったのでしょう。

さて、久しぶりの更新になりました。新年度が始まってから何かと忙しく、本を読む時間もとれずにいます。しばらくこんな調子になるかもしれません。

2011年10月 8日 (土)

砂の器(下)

1767「砂の器(下)」 松本清張   新潮文庫   ★★★

誰からも尊敬され、慕われていた元巡査を殺したのは誰か。今西刑事は、偶然見かけてから気になっていたヌーボー・グループという新進芸術家たちの周辺で、奇妙な不審死が続くことに気付く。伊勢へ、北陸へ、大阪へ・・・。今西の執拗な捜査は、意外なトリックと、殺人犯の悲しい過去を明らかにしていく。

なるほど~。ドラマ版は、映画版のリメイクだったのですね。前もって夫に、「原作とドラマは違うよ」と言われていたのであまり驚きませんでしたが。たしかに、映像版の構成の方が、親子の情愛や、それゆえの悲しさ、犯人が犯行に及んでしまった切迫感は伝わってくるかもしれません。

映像版では第二、第三の殺人は割愛されていますが、小説ではそこでビックリな手段が使われています。今でこそ超音波とかパラボラとか珍しくもないですが・・・当時としてはかなり突飛な手段だと思われたのではないでしょうか。正直、今でも「そこまでうまくいくのか」と思いますが。

「ゼロの焦点」もそうでしたが、犯人の動機に、当時の社会状況が強く影響しているのがなんともやりきれないものがあります・・・。戦争と、戦後の混乱と。それが人を闇に落とすきっかけになるのだということ。私たちもまた、社会と(あるいは歴史と)無関係に生きているわけではないのだ、ということをつくづく感じました。

こうなると、映画版「砂の器」も見てみたくなります。松本清張が「原作を超えた」と言ったという名作。実は、うちにはDVDがあるのです。やっぱり、見るしかないか。

2011年10月 5日 (水)

砂の器(上)

1766「砂の器(上)」 松本清張   新潮文庫   ★★★

鎌田で発見された身元不明の他殺死体。捜査にあたった今西刑事は、その男らしい人物が、東北訛りで話していたこと、「カメダ」という言葉を口にしていたことを手掛かりに、秋田へ向かう。しかし、捜査は空振りに終わり、捜査本部は縮小された。ところが、意外なところから新たな手掛かりが。今西の執拗な捜査が続く。

先日、テレビドラマを見まして、興味をもちました。いや、読んだことなくても、話の大筋はわかっていたのですが・・・あらためて、読んでみようかな、と。たしか、旦那の本棚にあったはず・・・と思ったら、ありました、ありました。昭和52年の本です。本を手にしているだけで、時代を感じますが(笑)

まさに、松本清張の「社会派推理小説」という感じですね。小さな布の欠片を探して、今西が線路沿いを延々と歩くところなんかもう・・・。私は「本格推理小説」のファンだったので、こういうのは、あんまり好きじゃなかったのです。でも、今読むと、なかなかおもしろい。

身元不明の死体。その身元を割り出すまでに苦労したかと思えば、身元が判明しても犯人像が全く浮かんでこない。これでもかと襲い掛かる困難に、今西刑事が靴をすり減らして挑むわけで。というと安っぽく聞こえますが、なかなか読ませてくれます。

まだ上巻なので、詳しい感想を書くのはやめときます。しかし、ドラマはかなりわかりやすく脚色されていることはわかりました。

2010年12月24日 (金)

ゼロの焦点

1637「ゼロの焦点」松本清張   新潮文庫   ★★★

10歳年上の鵜原憲一と見合い結婚した禎子。新婚旅行から戻ってすぐ、憲一は2年間赴任した金沢を引き払うために出かけていった。ところが、予定の一週間をすぎても、憲一は戻らない。夫を探しに金沢を訪れた禎子は、夫の過去をつきとめることに・・・。

古い方の映画を見て、それがなかなかおもしろかったので、いつか原作も読もうと思ってました。先日、「球形の荒野」を読んだら、意外なほどに読みやすかったので、早速こちらにもチャレンジ。やっぱり、読みやすかったです。ストーリーを知ってるというのもあるのでしょうけど。

新婚直後に夫に失踪されてしまった禎子。夫を探しに行った金沢で出会った地元の名士の夫人・佐知子。そして、夫の秘密の生活に関わってくる久子。この3人の女性が、事件のカギを握ります。動機に関わってくるのが、戦後の混乱期の日本社会。これは、この時期にしか成立しない物語ですね。

夫の行方を追い、その隠された事実を知ってしまう禎子が、おとなしげでいて、なかなか芯が強いタイプなのところが好きです。ただ、夫の憲一はどうかと思うんですが。私には、どうにも憲一の価値観というか、考え方がよくわからないです。

しかし、警察でもない第三者が行っても、あっさりと他人の住所や経歴を教えたり・・・「個人情報」の保護にうるさい現代では考えられないですね(苦笑) 

ミステリとしてはちょっと甘いというか、映画の方が殺人に至る過程や手口はよくわかりました。小説だと、なんだかよくわからないところが残ったような。そして、ラスト。あの断崖絶壁で犯人を追いつめる・・・というのが、ちょっと違いました。あれは映画オリジナルなのですねえ。そして、それがのちのサスペンスドラマの定番になった、と。

実は、昔、松本清張は敬遠していました。ミステリは、いわゆる新本格ブームにはまっていたので、その対極にあるような「社会派」の代表格である清張を読むのは、すごく抵抗があったのです。でも、こうやって読んでみると、おもしろいです。松本清張の生き方もすごいと思うし・・・。これから、少し読んでみようかなと思っています。

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