酒井順子

2011年9月 4日 (日)

紫式部の欲望

1752「紫式部の欲望」 酒井順子   集英社   ★★★★

「源氏物語」の作者・紫式部。その長大な物語の中には、紫式部自身の「したい」「されたい」「なりたい」「ほしい」が、たくさん描かれている。それは、現代の私たちにも共通していて・・・。

先日読んだ「日本人なら知っておきたい日本文学」に影響されて借りてきました。清少納言にシンパシーを感じている酒井さんの視点では、紫式部に対してさぞかし点が辛いだろうと思っていたのですが・・・意外にもおもしろかったです。

たしかに、物語から感じ取れる作者の性格の悪さに言及している部分は多いですが、その多くは、その時代では当然の価値観からくるもの。また、紫式部だからではなく、現代の私たちにも通じる「意地悪さ」とか「願望」「欲望」だったりして・・・千年前でも現代でも、考えることは一緒!と思えるのが楽しかったです。

それにしても、酒井さんが書いていましたが、「源氏」がフィクションだということは誰もが承知しているのに、どうして実在の人物のように私たちは語ってしまうのでしょうね。「光源氏ってちょっと変質者っぽくない?」「紫の上ってかわいそう」などなど、源氏をちょこっとかじった高校生の頃や、「あさきゆめみし」を読んで得た知識をもとに語り合ったことが、女子ならけっこうあるのでは。架空の人物相手に、何をムキになって・・・と思うのですが、ついつい語ってしまう。それだけの力と普遍性をもった物語。それが、紫式部という一人の女性によって生み出され、千年の時を超えて読み継がれているというのは、すごいことですよね・・・。

そこには、読者の欲望を満たしてくれるさまざまな要素と、人間ならば誰もが感じる思い(平安の世から現代まで変わることのない)とが、しっかり描かれているからなのでしょう。

これを読んでいると、「源氏物語」読んでみようかな・・・と思っちゃいますが、とりあえず、読みかけの「更級日記」を読むことにします。

2010年12月26日 (日)

金閣寺の燃やし方

1638「金閣寺の燃やし方」酒井順子   講談社   ★★★★

三島由紀夫の代表作「金閣寺」。水上勉の「五番町夕霧楼」と「金閣炎上」。金閣寺放火事件に想を得て書かれたこれらの作品を比較していくと、二人の作家の立ち位置の違いと、日本人のもつ相反する心情が見えてくる。三島ファンの酒井順子による書き下ろしエッセイ。

遅ればせながら三島デビューをした今年。新聞の広告でこの本の存在を知って、「おお!読みたい!」と思ったのです。私がどうにも「変な人」としか思えない三島を、酒井さんがどんなふうに料理してくれるのかな、と。

文芸評論ではなく、あくまでもエッセイという形を保っていますが、三島作品・水上作品とその土壌を取材し、それぞれの作家論になっています。この二人の作家、見事なまでに対照的な生き方をした人たち。酒井さんは、彼らを「金閣寺」「母と故郷」「寺と戦争」「美と女」「生と死」というキーワードをもとに比較していきます。

東京の上流家庭に育った三島と、若狭の貧しい村で育った水上。学習院に通い、それゆえ平民であるコンプレックスを抱えた三島と、口減らしのために寺の小僧になった水上。彼らの生い立ちや、育った環境から生まれた価値観が、その著作の方向性の違いにもなっています。放火事件の犯人・林養賢の供述から、ただ一点のみを拾い上げ、自らの価値観を投影させて物語を構築した三島。それを読んで、「違う」と感じ、取材を重ね、林養賢に寄り添うようにして「金閣炎上」を書いた水上。前者は、養賢への共感はなく、後者は我が身の分身のような強い共感があったようです。(水上勉は、事件を起こすずいぶん前に、養賢本人と顔を合わせたことがあったらしい)

酒井さんのエッセイというと、けっこう毒舌だったりして、それも楽しみなのですが、これはかなり毒を抑えて、二人の作家の姿を描き出しています。それでも、三島に対するツッコミにはちょっと笑ってしまいましたが。

私はやはりどうにも三島由紀夫という人がわからないのですが、酒井さんもわからないと言います。「三島の文章を読んでいると、本人にだけ理解できていることを、懸命に筆で負っている印象があります。(中略)他人が追随することができないそのスピード感を彼は楽しみ、また誰もついてくることができないことにイラつき、そして深い孤独を感じていたのではないか。」・・・なるほど。

このエッセイは、二人の作家論にとどまらず、最後に日本人の中にある「三島的なもの・水上的なもの」の話になります。その点はちょっと浅いような気もしましたが、でも、うなずけるところもありました。

とりあえず、水上勉は「五番町~」と「雁の寺」しか読んでいないので、「金閣炎上」も読んでみなくちゃ、と思ったしだいです。

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