吉村昭

2011年8月11日 (木)

関東大震災

1739「関東大震災」 吉村昭   文春文庫   ★★★★

大正12年9月1日、午前11時58分。関東大震災発生。首都を襲った直下型地震は、当時の日本に何をもたらしたのか。

「三陸海岸大津波」を読んだ流れで、こちらもつい購入。震災から5か月の一つの区切りに読もうとページを開きましたが・・・あまりに凄惨な記録に、何度も挫折しかけました。でも、「今日読まないと、きっと二度と読めなくなる」、と意地になって読破しました。

人間はなぜ歴史を学ぶのか。それは、同じ過ちを繰り返さぬようにするためではないでしょうか。もちろん、学んでも、人間は過ちを繰り返してしまいます。でも、せめて、「前よりはこういうところは改善できた」と言えなくては。・・・では、関東大震災の記録から、私たちは何を学べるのでしょう。

東日本大震災では、過去の大地震の経験がかなり生かされているとは思います。特に、阪神淡路大震災や中越地震の教訓や支援のノウハウは、いろいろなところで役に立っています。

しかし、関東大震災のおり、政府が不安定で、事実上なんの力も発揮できなかったことや、正確な情報を得る手段を国民がもたなかったことなど、現在との共通点もあります。それがもとで、治安維持のため、情報統制が必要になり、言論の自由が奪われていく過程など、背筋が寒くなるような心持ちでした。

地震そのものもひどかったですが、その後の大火災、さらに飛び交ったデマによる朝鮮人虐殺、大杉栄事件をはじめとする社会主義者の弾圧、その後の復興に向けた動きなどなど・・・関東大震災に関わる出来事がさまざまな角度から記されていて、あらためて自分が何も知らずにいたとわかりました。

子供のころは、関東大震災の話などを聞いた記憶はあるのですが・・・最近はすっかり語られなくなってしまったような気がします。風化したということなのでしょうか。あまりにも悲惨な記録ではありますが、日本人にとっては忘れてはならない記憶だと思うのですが・・・。

2011年6月12日 (日)

三陸海岸大津波

1715「三陸海岸大津波」 吉村昭   文春文庫   ★★★★★

明治29年の大津波、昭和8年の大津波、そして昭和35年のチリ地震津波。三陸を愛し、その海岸を歩き回った筆者が、三陸を何度も襲った津波の記録をまとめたこの本は、大震災の後、ものすごい勢いで売れている・・・というので、うちでも買ってきました。主人はすぐに読んでいましたが、私はどうしても読む気になれず。でも、震災から3カ月というのを一つの区切りとして、思い切って読んでみました。

この記録には、津波に関するデータと、被災者の言葉等がおさめられています。特にも、当時小学生だった人たちの作文は、子どもの視点であるだけに生々しく、胸を打ちます。私も内陸部とはいえ岩手県民なので、津波の話はそれなりに聞いて育ちました。今回読んでいて、「あ!」と思ったのは、この一文です。

「振返ると、まっ黒い大波が、のんのんと押し寄せてきた」

種市村(当時。その後、種市町を経て、現・洋野町)で津波に遭った方の言葉です。私は、これを子どもの頃読んだことがあります。この表現が子ども心に非常に恐ろしく・・・私の津波に対する恐怖心の原点がここにあるような気がします。

とにかく、なぜこういう記録文学が埋もれてしまっていたのか、と思わずにはいられません。津波がどれだけ「想像を絶する」ものなのか、それを私たちは忘れがちだったと言わざるを得ないでしょう。

私たちは何故歴史を学ばねばならないのか。それは、震災以降、私が考えていることの一つです。歴史は繰り返す、といいます。では、その「繰り返し」の中で、私たちはどうすればより良く生きていけるのか。その「知恵」を身につけるためなのではないか、と。

吉村さんの取材は、主に岩手県内です。今回の大津波で被災した地域の名が、何度も出てきました。まさに、津波の歴史は繰り返しなのです。もちろん、誰もが過去の記録をないがしろにしてきたわけではありません。むしろ、考えうる「備え」はじゅうぶんにやってきたはずです。それでも・・・。

最終章では、田老町(当時。現・宮古市)の巨大な防潮堤が何度も登場します。津波に対する備えとして建てた防潮堤。大津波の波高が数十メートルに及ぶことを危惧しながら、筆者は、それでもこのコンクリートの塊が多少なりとも津波の威力を軽減してくれるだろう、と複雑な思いを記しています。その危惧通り、防潮堤は津波になぎ倒されてしまいました。私たちは、このことから何を学ばねばならないのでしょうか。

もう一つ、とても印象的だったのは、昭和の大津波の時の政治家の対応です。岩手県の対応も迅速でしたが、各政党でも代議士を現地視察に次々派遣。被災地の窮状を知った国会では、被災者支援・復興のための議案が、満場一致で可決されたそうです。・・・今の政治家の行動との隔たりにめまいがしました。政争に明け暮れている人たちに、まずこれを読めと言ってやりたくなりました。

人として語り継がねばならないこととは何か。それをつくづく考えさせられました。今回の震災では、膨大な映像が記録されたはずです。それが、今後の人類のための「知恵」のもととなるようにしなければなりませんね。

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