須賀しのぶ

2019年4月 1日 (月)

くれなゐの紐

2879「くれなゐの紐」 須賀しのぶ   光文社   ★★★★

死んだと思っていた長姉のハルは生きている? 手がかりを追って田舎を出奔した仙太郎は、浅草の紅紐団という少女ギャング団の長・操に拾われる。ただし、女装するという条件で。男装の操をはじめ、副団長の倫子、女給をしている絹、花売りのあやたち、紅紐団の女性たちと関わる中で、仙太郎はそれまで見たことのない角度から世界をのぞくことになり・・・。

 

大正末期の浅草を舞台にした物語。かつては賑わいの中心であったろう浅草十二階こと凌雲閣はすっかり飽きられ、もはや展望台に登る人もまれ。そんな時代です。

仙太郎の上の姉・ハルは、優秀ながら女ゆえに上の学校に進めず、奉公に。やがて縁談が持ち上がったものの、嫁入りの矢先に崖から飛び降りてしまう。そんなハルが生きているらしいと知った仙太郎は、一路東京へ。そこでふとした縁で拾われたのが、今をときめく紅紐団。強い絆と操のカリスマ性に結び付けられた少女たちは、さまざまな手段で収入を得て、浅草で生き延びていた・・・というのが、基本設定。

とにかく、登場する女性たちがそれぞれに魅力的なのですが、皆、とても痛々しい。そして、女性特有の閉塞感が、読んでいてしんどい。前半は彼女たちの生き方と、それを見つめる仙太郎がどうにも歯がゆくて、爽快感がないのがつらかったのですが。

後半、仙太郎が内なる怒りに気づくと同時に、物語が大きく動き出して、第五章「白白明」はまさに息もつかせぬ展開! いや、だからといって彼女たちの人生に一気に光さすわけでなく、仙太郎がどう頑張っても、一朝一夕に何かが変わるわけでもないのだけれど。

それでも、そんな生きる術しか持たない女性たちがいることを仙太郎が知ったこと、そしてあやが新しい人生をスタートしたことは、救いでした。

2018年10月11日 (木)

夏空白花

2803「夏空白花」 須賀しのぶ ポプラ社 ★★★★

終戦と同時に混乱に陥った日本社会。そこから這い上がるために、新聞記者・神住匡が選んだ道は、「甲子園の復活」だった。しかし、道は想像以上に険しく、思いもかけない困難が神住の前に立ちはだかり…。

今年は夏の高校野球100回大会だったわけですが、それに合わせた礼讃本かよ…と思ってました。ごめんなさい。そんなんじゃありませんでした。

朝日新聞の記者、神住匡は、何のポリシーもなく、時勢にあった記事を適当に書きなぐっているような男。かつては甲子園のマウンドに立ったことがあるが、肩を壊し、大きな挫折を経験してもいる。

そんな神住の人生が、敗戦によって転換する。高校野球の復活を目指し、動き始めた神住。当初の動機は不純だったが、様々な立場の人間と関わることで、神住は自分の傷に向き合うことに。

真っ直ぐに正しいだけの主人公ではないところが何よりよかったです。それに、高校野球とプロとの関係、選手に背負わせてしまうものの重さ、都市と地方の格差、アメリカの野球との違いなど、現在の野球界にも無縁ではないことも、しっかり取り上げているのもとてもよかった。良かれと思ってやることにも、必ずマイナス要素は発生します。そこにも視点を当てているのが、高校野球を描いてきた須賀しのぶさんの覚悟だと感じました。

そして、これは再生の物語です。何かを失い、挫折した人が、もう一度歩き出す物語。それは、人が生きていく上での大事なテーマです。

高校野球が苦手…という人にこそ、一度読んでみてほしい一冊です。

2017年8月24日 (木)

夏の祈りは

2623「夏の祈りは」 須賀しのぶ   新潮文庫   ★★★★

高校野球の激戦区・埼玉県。県立北園高校野球部にとって、甲子園は「悲願」だ。今まで一度も手が届かなかった甲子園に向けて、白球を追い続けた野球部の姿を描くクロニクル。

帯のコピーに「感動の」とあったのでやめようかと思ったのですが、やっぱり気になったので買いました。

「敗れた君に届いたもの」「二人のエース」「マネージャー」「ハズレ」「悲願」の5話。昭和の終りから2017年にかけて、およそ10年ごとの北園高校野球部のクロニクル(年代記)。

もともと高校野球大好きで、高校を選ぶ基準も「甲子園に行けそうな学校」だった私には、ど真ん中ストライクな物語。なんというか、どの話も大好きなんですが、ちょっと変り種で印象的だったのが、第三話「マネージャー」。裏方に徹する女子マネの話・・・ではあるのですが、意外な展開が。そうか、そういう人もいるかもって考えたことなかったなあ、と。いい歳になった今だから、「そういうのもありだよね。いろんな立場から支えてるよね」と思えるけれど、若いときにそういう価値観を持てたかというと・・・? キャプテンの話、エースの話もいいけれど、こういうのもいいなあとしみじみ思えた話でした。

第四話「ハズレ」と第五話「悲願」は連続していて、北園野球部の歴史の大きな節目になります。これがもう・・・。私は高校3年の夏、甲子園に行かせてもらったのですが、そのときの野球部がやっぱり「ハズレ」の年と言われてました。下馬評にものぼらなかったチームがあれよあれよと県大会を勝ち抜いたときの感激を思い出しつつ、読み終えたときには思わず涙が・・・。

そして、この本が出た今年、夏の甲子園では、花咲徳栄高校が埼玉県勢初の優勝! こんなことってあるんですね。、

2017年4月15日 (土)

また、桜の国で

2562「また、桜の国で」 須賀しのぶ   祥伝社   ★★★★

第二次世界大戦直前のポーランドに赴任した外務書記生の棚倉慎は、戦争を回避するため、何より日本とポーランドの友好のために働いていた。しかし、ナチスドイツはポーランド侵攻をはじめ、国土は蹂躙される。友との約束を果たすべく、慎がとった行動は・・・。

直木賞候補作でしたね。読み応えありました。

ポーランドの歴史については、恥ずかしながらほとんど知りませんでした。これだけ周りの国々に裏切られ続け、何度も国土を失った歴史があったなんて。

主人公・棚倉慎は、白系ロシア人を父にもつ日本人。その生い立ちと、幼い頃偶然出会ったポーランド人の少年・カミルとの出会いが、慎の人生を決定付けます。外交の最前線で、後半は戦闘の最前線で、慎は果たして自分の信念を貫くことができるのか・・・。

慎の生き方は見事です。しかし、その結末はやはり悲しい。全編を通して流れる「革命のエチュード」が、印象的でした。

2011年10月 2日 (日)

北の舞姫 芙蓉千里Ⅱ

1765「北の舞姫 芙蓉千里Ⅱ」 須賀しのぶ   角川書店   ★★★★

哈爾濱では知らぬ者のないほどの芸妓になった芙蓉。その頃、ロシアでは革命が起こり、多くのロシア人が国境を越えてきていた。その中の一人、エリアナの「瀕死の白鳥」を見た芙蓉は衝撃を受ける。自分の舞を見失った芙蓉は何かを求めてシベリアへ向かうが、そこにはさらに過酷な運命が待っていた。

「芙蓉千里」続編です。波乱万丈のフミの運命は、2巻になってさらに舞台を広げるとともに、過酷さを増します。もう、なんと言ったらいいか・・・。

正直、最初はあまり乗れなかったのです。予想はできたことですが、けっこうベタな展開だったもので。しかし、フミが大連で舞を一からやり直すあたりから一気にはまりました(まあ、それもベタな展開ですが)。

1巻は基本的に妓楼の中で話が展開しましたが、今回は哈爾濱、シベリア、大連、ウラジオストックと、転々とします。それだけスケールも大きくなるし、山村や黒谷たちの過去も語られ、芙蓉の舞もとんでもない境地に達してしまいます。こっちは、物語の波に飲み込まれて、翻弄されるがまま。いやはや、堪能いたしました。

悲惨な話ではあるのですが、フミの生命力が救いだし、希望です。

この話、まだ続くのですね。うーん、楽しみ。

2011年8月27日 (土)

芙蓉千里

1749「芙蓉千里」 須賀しのぶ   角川書店   ★★★★

自ら望んで女衒に拾われ、大陸に渡ったフミ。天涯孤独、故郷をもたぬフミは、大陸一の女郎になると心に決めていた。東北の農家の娘タエとともに、ハルピンの女郎屋に引き取られたフミは、下働きに明け暮れる。しかし、フミには思いもかけない運命が待っていた。

本の表紙がなんとも言えない雰囲気を醸し出していて、前から気になっていたのですが・・・ケータイ小説なのですね。知りませんでした。

これぞエンタテイメント、これぞ大河ロマン、これぞメロドラマ!って感じで、とにかくおもしろくて一気読みしてしまいました。

主人公のフミが、とってもよいのです。なんと言ったらいいのか・・・まず、たくましい。そして、魂が自由。変に善人ぶらず、自分の気持ちに正直で。そんなフミが、ただの子供から少女になり、恋をして女になっていく姿が、実に嫌味なく描かれていて、とっても気持ちよく読めました。

決してきれいなことだけでなく、女郎屋の生々しさも書かれているし、伊藤博文の暗殺が描かれる通り、きなくさい時代なので、後半はフミたちの生活にも暗い影がさしてくるのですが。それでも、フミの生命力に引っ張られるように、最後までぐいぐい読まされました。

不思議な形で交錯するフミとタエの生きざま。フミの初恋の人・山村との出会いと別れ。姉女郎たちの悲惨な人生。フミの「旦那」となる黒谷の心の傷。さまざまなドラマが展開して、息つく暇もないという感じでした。

続編も出てるので、楽しみです。

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