奥泉光

2019年4月12日 (金)

雪の階

2884「雪の階」 奥泉光   中央公論新社   ★★★★★

二・二六事件前夜の東京。堂上華族の娘・笹宮惟佐子は、親友の宇田川寿子が青年将校と心中したことに違和感を抱き、その真相を追う。かつて惟佐子の「おあいてさん」を務め、今はカメラマンになっている牧村千代子に協力を仰ぐが・・・。

 

まず、冒頭の一文で「うわぁ」となりました(苦笑) 一文が長い。私が苦手なタイプ。でも、奥泉さんっていつもこうじゃないよなあと思ったので、きっと何か意図があるに違いないと覚悟し、力づくで読み進めました。

五章から成るのですが、一章ごとに物語の雰囲気ががらりと変わり、さらに主人公の華族令嬢の惟佐子の雰囲気が変わるのです。それは、視点の変化にもよるのですが、冒頭から繰り返し描写される惟佐子のとらえどころのなさが、その変容を是とするような・・・。それでいて、読み終えてみると惟佐子だけが何も変わらなかったのではないかと思わせる。不思議な物語でした。

ミステリなので、寿子の心中をはじめ、いくつか起こる事件の真相を解き明かすことが物語の推進力になっています。それが、この複雑な物語を読み進めるには必要なエネルギー。しかし、ミステリだけでなく、若い女性の恋愛小説でもあるし、当時の社会情勢や華族社会、あるいは世界を席巻しようとしていたヒトラーの思想など、はらんでいる物語は巨大で、いったいどこに運ばれていくのか、先が全く見えませんでした。

そして、この文体が、この物語世界を形作り、支え、読者を幻惑しつつ、終着点へと誘う。作者が、文章の技術を意図的に行使しているのは明らかで、あの技量にただただ圧倒されました。参りました。

すらすら読むのは不可能で、5日間かけてようやくラストにたどり着きました。しかし、なんと豊かな時間だったことか。

ただ一つだけ気になっているのは、惟佐子の弟・惟浩さんのこと。別人のように変貌してしまった彼は、その後どうなったのでしょうか。

2015年1月30日 (金)

東京自叙伝

2225「東京自叙伝」 奥泉光   集英社   ★★★★

6人の人物がそれぞれ語る東京の近現代史。それは、大都市・東京そのものの見た歴史なのか・・・。幕末から明治・大正・昭和、そして平成。変わりゆく東京と、変わらぬものとは。

谷崎純一郎賞受賞作。

おもしろかったのですが、感想が書きにくい本です。東京の地霊に憑かれた(?)人物が、「私」の歴史を語り、それが近現代史になっていく。幕末の御家人、陸軍参謀、やくざなどなど、歴史の表舞台のちょいと脇にいたような人物の視点で語られていく歴史は、文句なしにおもしろいのです。

ただ、これをおもしろがっていいのかという気が、どこかでする。それは、主人公たちがあまりにも恬淡としていて、人間の情みたいなものが欠落しているからです。まあ、それも仕方ない設定なのですが・・・。自分に近い時代になってくるほど、背筋がうすら寒いような不気味な感じが強くなってくるのです。私自身も、「私」と同じなのではないか?と。私たちは気づかぬふりで、「なんとかなる」「なるようにしかならない」と過ごしているけれど、この町はとっくに廃墟になっているのではないか?と。

もう一つ、なんとも複雑な気分になったのは、バブルの頃から個人の特性が薄まっていったというところ。個人の強烈な個性が消え、みんな画一化していったというのは、すごくわかる気がします。この物語の前半の登場人物のような、その人の生き様が固有の物語になるような個性派、私たちの世代にはない。その代わり、「ああ、わかるわかる」という感覚にはなりやすいけれど。・・・それが、ものすごくリアルに描かれていて、ちょっと気味悪かったです。

なんとなく、ざらざらしたような後味が残る物語でした。

2011年11月 9日 (水)

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活

1781「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」 奥泉光   文藝春秋   ★★★

クワコーこと桑潟幸一准教授は、大阪の底辺の短大から、千葉県の「たらちね国際大学」に転任してきた。ところが、研究室に幽霊が出るという話を着任早々に聞かされ・・・。

いろんな方のブログで見かけたので、気になって借りてきました。なるほど、「シューマンの指」とは全く異なる雰囲気で(笑)

っていうか、一応主人公はクワコーですが、なんにもしてないですよね、彼。名探偵は文芸部のホームレス女子大生・ジンジンですから。

はじめのうちは、クワコーはうっとうしいし、文芸部の面々は誰が誰だか区別つかなくて、もう読むのやめちゃおっかなあ(クワコー風に)と思ったりしましたが、この文章のリズムに慣れてきたら、けっこういけました。

全然「スタイリッシュ」じゃないクワコーですが、続きが読みたい気がするから不思議です(笑)

2010年10月12日 (火)

シューマンの指

1588「シューマンの指」奥泉光   講談社   ★★★

高校3年の春、目の前に現れた天才ピアニスト・永嶺修人。シューマンに傾倒し、独特の音楽論を語る修人に僕はすっかり魅了されてしまう。なかなか人前で演奏したがらない修人のこの世のものとは思えない演奏を偶然聞いてしまった夜、起こった殺人事件。その真相とは・・・。

初読みです。前から気になっていた作家さんでした。

ミステリとしては、なかなかおもしろかったです。謎解きされてもなんとなくしっくりこなくて、???と思っていたら、ああ、そういうことか・・・と。いろんな矛盾が、すべて伏線になっていたというのもわかって、納得。

ただ、クラシックに関する専門的な(と、素人には感じてしまう)話、時に楽曲に関する考察が非常に多くて、つらかったです。もちろん、それも必要な部分ではあるんですが・・・音楽に詳しくない人がこれ読んでついていけるんでしょうか。・・・このタイトルなら、そういう人は手に取らないか。

読んでいて、非現実の世界に引き込まれているようで、なんだかクラクラしました。最後の最後でようやく現実に帰ってこれたという気分です。

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