中田永一

2018年12月31日 (月)

ダンデライオン

2841「ダンデライオン」 中田永一 小学館 ★★★

その日、11歳の下野(かばた)蓮司は20年後の世界にいた。蓮司の前に現れた西園小春によると、2019年の蓮司の意識は20年前に戻っているらしい。20年の時空を超えて意識が入れ替わるのは、事件に巻き込まれた幼い小春を救うため。とんでもない話に唖然とする蓮司だったが…。


2018年ラストは、中田永一。なんかもう、うわー、いかにも乙一じゃん!という感じでした(笑) この言い方は作者には不快かもしれませんが、でも、乙一時代に私が愛してやまなかった要素がたっぷり入ってるんです。

設定はSFだけど、人物の心情の揺れ動きから生じるせつなさが真骨頂。ちょっと頭が混乱しましたけど。未来を知ってしまった蓮司の兄・真一郎が闇落ちしないかヒヤヒヤしましたが、そんなこともなく。とにかく、未来を知った人間がどう生きられるか、蓮司が実に誠実な人間として描かれていました。

ちょっと薄味な感はありましたが、読後感の良さで、今年の読書のしめくくりは上々でありました。

2012年5月30日 (水)

百瀬、こっちを向いて。

1870「百瀬、こっちを向いて。」 中田永一   祥伝社   ★★★★

さえない高校生のノボルに、ある日彼女ができた。百瀬陽。彼女は、野良猫のような眼をした子だった。しかし、ノボルが彼女とつきあい始めたのには、ある事情があって・・・。

「百瀬、こっちを向いて。」「なみうちぎわ」「キャベツ畑に彼の声」「小梅が通る」の4編の恋愛小説。これが、中田永一名義のデビュー作になるのでしょうか。

いずれも高校生を主人公にした恋愛ものなのですが、ストーリーにも非常に作者らしい、独特のひねりが効いていて、甲乙つけがたかったです。

たとえば、「小梅が通る」では、主人公の柚木は雑誌モデルをしていたほどの美人なのに、わざとブスメイクをして学校に通っています。なんか嫌な感じ・・・と思うのですが、読むにつれて、彼女のトラウマの深さに共感できるし、それを軽々と飛び越えてしまうある男子の存在にはスカッとした気分にさせられます。

表題作でも、純真無垢な善人もいない代わりに、完全なる悪人もいない・・・というのを、しみじみと感じます。それでいて、あくまでも恋愛小説なんです。ちょっとだけせつない。

いやあ、いいですね。恋愛ものは苦手ですが、中田永一は好きです。さて、次は山白朝子にいってみたいですね。あちらはまた、趣が全然違うみたいなので・・・。

2012年5月21日 (月)

吉祥寺の朝日奈くん

1865「吉祥寺の朝日奈くん」 中田永一   祥伝社   ★★★★

吉祥寺の喫茶店で、カップルの派手なケンカに巻き込まれたのがきっかけで、店員の女性・山田真野と会話するようになった。けれど、彼女は人妻で、幼い子供もいる。それでも、たまに二人で散歩をするのが心地よくて・・・。

「交換日記はじめました!」「ラクガキをめぐる冒険」「三角形はこわさないでおく」「うるさいおなか」「吉祥寺の朝日奈くん」の5編を収録した、恋愛小説集。

冒頭の「交換日記~」でやられました。今はもう、交換日記なんてないでしょうね。つきあいはじめのカップルの他愛ないやりとり・・・と思っていたら、第三者たちが次々介入してきて、話は思わぬ展開を。時間が経過して初めて明かされる真実と、ノートが紡いでいく不思議な縁。いやあ、おもしろかったです。

「ラクガキ~」も、高校時代のある事件に関わった二人のほのかな思いと、意外な真実がなかなか素敵な恋愛ものに仕上がっています。「三角形~」は、そのまま三角関係もの。ベタな設定なのに、なんでこんなに嫌味なくピュアな話になるかなあ。ただ、最後の彼女の一言は余計な気がします。「うるさい~」は、「蹴りたい背中」を意識したタイトルでしょうか。一つ間違うとギャグなんですが、母親のエピソードと父親の存在がさりげなく物語を支えています。

そして、一番のお気に入りは「吉祥寺の朝日奈くん」。うわあ、やられた、と(苦笑) そういうことでしたか。途中でちょっと、「ん?」と思ったのですけどね。だからこそ、真野の気持ちにすんなり共感できたし、同時に朝日奈くんがどうしてああいう行動をとったのかも、納得できました。ラストシーン、とっても好きです。二人がギュッと抱き合うところ、こちらまで泣きそうになってしまいました。

人と人との出会いは、本当に奇跡。これだけたくさんの人がいて、それなのに自分だけの「たった一人」を見つけてしまう、奇跡。その不思議さと感動を、中田永一はずっと追い続けているのかもしれません。(それがはっきり描かれたのは、「暗いところで待ち合わせ」だったかも。)

恋愛モノって苦手なのであんまり読まないのですが・・・これはとっても素敵な一冊でした。

2012年5月 4日 (金)

くちびるに歌を

1860「くちびるに歌を」 中田永一   小学館   ★★★★★

長崎・五島列島の小さな中学校。女子ばかりだった合唱部に、突如男子が入部してきた。原因は・・・産休代理で来た柏木先生。先生にあこがれてという不純な動機で集まった男子と、純粋に歌が好きな女子部員は、不協和音を奏でながら、Nコンの県予選をめざすことに・・・。

田舎の中学校、合唱・・・という設定が、私にとってはリアルすぎて(苦笑)、読む気になれなかったのですが、「中田永一」があの人の別名義だと知って、慌てて図書館に走りました。(今さらでお恥ずかしい限り)

ええっと・・・泣きました。

ほんと、ベタだと思うのですが。男子と女子のあつれき。いくつかの恋・・・思いが届きそうなものもあり、一方通行のままもあり。産休に入った先生が、出産に命の危険を伴うことなどなど。これだけなら、あまりにもありがちな学園ものなのですが。

教室の片隅で、いつもひとりぼっちで、それを苦痛だとも思わない桑原サトル。彼は、美少女の長谷川コトミに恋していて(彼女の正体を知ってしまったから)、ふらふらと合唱部に入ってしまうのです。サトルは人とのコミュニケーションが苦手。そんな彼を絶対的に必要としているのは、自閉症の兄なのですが・・・。

この年の課題曲は「拝啓~十五の君へ」。それになぞらえて、合唱部員たちが書いた「15年後の自分への手紙」が、登場します。その中で、一番せつなかったのが、サトルの手紙でした。自分の人生を、そんなふうに規定していたのか、自分の存在をそんなふうに受け止めていたのか、と。サトルの人生はサトルのものだし、兄は兄でこの世に存在する意味がある。サトルの同級生・ナズナの心を救ったのが、サトルの兄だったように。

エピローグの会館外での自然発生的な大合唱。どうしてなんでしょうね。これはフィクションなのに、実際にこういうことって起こりうるなあ、と。歌の力、でしょうか。なんかもう、だめでしたね(苦笑) 涙が止まりませんでした。

どうして、中田永一という人は、人の心の琴線をこうも揺さぶってくれるのでしょう。かつて、別名義で発表した物語にも、かなりやられたなあ・・・と思い出しました。人の心の孤独。さびしさ。せつなさ。・・・そうであればこそ、人を求め、人とつながりたいと強く思うこと。

再び、そういう物語を世に出してくれたことに感謝、です。

余談ですが、この課題曲、当時はあまり好きじゃなかったのです。でも、あらためて歌詞を読んでみると、考えさせられるものがありますね。

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