夏目漱石

2019年3月12日 (火)

三四郎

2869「三四郎」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★

熊本から上京し、東京の大学に入学した小川三四郎は、新時代の女性とも言うべき里見美禰子に出会い、強く惹かれてゆく。田舎とは何もかもが違う都会に翻弄される三四郎に、美禰子は、「ストレイシープ」という言葉を与えるが・・・。

大河ドラマ「いだてん」にハマっています。その中の登場人物で、主人公と共に上京し、東京高等師範学校に入る美川くんという人物が、上京の車中でずっと抱えているのが、この「三四郎」。美川くんは、漱石をはじめとする文学にかぶれ、「落第生」というレッテルを貼られるのですが・・・。

ン十年前に「三四郎」を読んだときの感想は、「へ?これで終わり?」「つまらん・・・」だったことは、鮮明に覚えています(苦笑) それなのに、筋は全く記憶になく。覚えているのは、美禰子の「ストレイシープ」と、彼女にふられた三四郎がラストでその言葉を繰り返すことだけ。

で、読み返してみました。ン十年ぶりに。すると、意外とおもしろかったのです。

三四郎があれこれ頭の中で考えていることや、広田先生が話す理屈は、おおそらく漱石が頭の中でぐるぐる思考していることがそのまま文字になっているんだろうなと思うと、それはそれで楽しかったし(ただし、理解できない、めんどくさいところも多々あり)、美禰子たちが絡んできて、話が動くようになってからは、けっこうサクサク読めました。

とは言え、それほどドラマティックな事件も起こらないし、要は三四郎が田舎にはいないような美禰子に恋をして、それなりに脈はあったかに思えたのが、美禰子はほかの男(三四郎よりよほどしっかりした大人の男)にあっさり嫁いでしまう・・・という、青年の失恋話なんですが。ただ、こういうありふれた「何者でもない青年」の、上京してきた高揚や女性に振り回されるさまなどを、小説にするというのが当時としては画期的だったのだろうなというのは、わかる気がします。「いだてん」で熊本から上京する美川君が、自分と三四郎を同一視しただろうことは、想像に難くない。

それにしても、「三四郎」読もうかな~と言うと、すぐ出てくる夫の本棚に感謝です。

2016年1月 6日 (水)

坊っちゃん

2396「坊っちゃん」   夏目漱石           岩波文庫         ★★★

親譲りの無鉄砲で、子供の頃から損ばかりしている…。そんな主人公が、数学の教師として松山へ。そこで待っていた騒動とは。

先日のドラマを見ながら、旦那と二人、「どんな話だったっけ?」  お互い、読んだのが大昔で、すっかり忘れていたのでした。というわけで、ン十年ぶりに再読。

ドラマでは随分良いように作ってましたが、「坊っちゃん」ってそんないい話じゃないよなあという印象だけはあって。やっぱり、結局坊っちゃんと山嵐は負けるんですよね。まあ、意趣返しはしますけど。彼らの行動で何か変わるかといったら変わらない。

それでも読後感が決して悪くないのは、テンポの良い文体と、清(きよ)の存在ゆえでしょう。

強がっているけど、坊っちゃんにとって、清が大切な存在だというところが、この物語の肝ですね。ドラマはその辺をなかなかうまく描写していたと思います。ただ、マドンナの扱いだけはいただけませんが。

 

2012年10月30日 (火)

こころ

1933「こころ」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★★

「私」は、ある夏の日、鎌倉で「先生」と知り合った。仕事にもつかず、妻と二人で暮らしている先生の人柄に不思議と惹かれた「私」は、足しげくその家を訪れるようになる。先生がもつ奇妙な影のようなものが気になるのだが、先生はその具体的な内容をなかなか語ろうとしなかった。

↓の「話虫干」を読んだために、ついついこれにも手を出してしまいました。全巻通して読んだのは、中学3年の時以来、です(何年前かは、あえて計算しない・・・)。

これが、明治の人が書いた物語か・・・(これが発表されたのは大正に入っていますが、漱石はやはり「明治の文豪」でしょう)。その事実に、とにかく圧倒されます。

「先生と遺書」の後半、Kが自殺するあたりは高校の教科書に載っていて、さらにその前後は繰り返し読んだのですが、そこまでのくだりはほとんど記憶の外でした。特に、「先生と私」「両親と私」の部分は、この物語には不要なんじゃないかと思っていました。浅はかでした、私。

「先生」の過去(親類の裏切りと断絶、Kと御嬢さんとの三角関係と、Kの自殺)が語られる「先生と遺書」の部分がメインなのはもちろんですが、それによって「先生」がその後どういう生き方をせざるを得なかったのか、それが「先生」にだけ起こることではなく、人間の普遍的な性質なのだということを語るうえで、前段部分は、決して欠くことのできないものでした。

根っからの悪人はいない。しかし、人間は自分の利のために、一瞬にして悪魔になれる。その恐ろしさ。叔父に裏切られ、人を信じられなくなった「先生」は、自らの裏切りによって唯一信じていた「自分」をも信じられなくなってしまう。その恐ろしさは、現代にいたるまですべての人間に共通するものでしょう。

しかし、漱石の書く物語の普遍性にはただただ驚くばかりです。もっと読まなきゃ・・・。

2012年10月18日 (木)

吾輩は猫である

1926「吾輩は猫である」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」・・・英語教師の苦沙弥先生の家に居ついた一匹の猫による、人間観察記。

今さら紹介するまでもない、小説家・夏目漱石のデビュー作。

中学3年の時、ふと思い立って読み始めたものの、わずか数ページでリタイア。それ以来、決して手を出さなかったのですが・・・漫画「先生と僕」の影響で、なんとなく頁を開いてみたら、けっこうおもしろい。で、読み始めたのですが、さすがに一気読みは無理で、ほぼ一日一話のペースで、ちまちま読みました。

近代文学なるものがまだ確立されていなかった時に、こういう文章を書けるというのがすごい。どちらかというと、江戸戯作というか、落語のようなというか、滑稽味があって(でも、文章はけっこうくどい)、さらに「猫」の視点で世の中を批判してみせるわけで・・・そりゃあ、これが載った「ホトトギス」が売れるはずです。

正直、ところどころよくわからず、読んでいてうとうとしてしまう時もあったのですが、意外なおもしろさでした。よく言われることですが、古さを感じないのです。うーん、やはり読み継がれる作家、文豪と呼ばれる作家には、それなりの理由があるのだなあと痛感した次第です。

2012年8月19日 (日)

1906「門」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

裕福な生家に生まれ、前途洋々たる青年だった宗助。しかし、彼は親友・安井の妻であった御米を奪ってしまった。今では御米と二人、世間をはばかるようにひっそり暮らしている宗助だったが、思いがけず安井の消息を聞き、動揺してしまう。救いを求めた宗助は、禅寺の門を敲く。

「それから」に続く三部作の最後。夫から借りたまましばらく放置していましたが、ようやく読みました。読み始めたら意外なくらいおもしろくて・・・。

と言っても、それほど大きな事件が起こるわけではないのです。宗助と御米の夫婦仲はいたって良く、二人の世界は非常に穏やかに完結しているように見えます。宗助の弟・小六が叔母からの学資援助を失って宗助宅に転がり込んできて、多少気まずい思いはするものの、それだけ。御米が体調を崩し、ドキリとさせられますが、それも無事におさまるし。安井の名を聞いて動揺する宗助は悟りを求めますが、全くそんな境地に達することもなく。安井との対面があるわけもなく。

いたって「普通の」日常が展開されるだけなのです。それなのに、なぜおもしろいのか。それは、「普通」だからではないでしょうか。ありきたりな毎日。どこにでもある普通の生活。その水面下に起こる小さなさざなみや、嵐。決して不幸ではないのに、満たされない何か。あるいは、背負わねばならない荷物の重さ。

読んでいて、何度も「これが本当に明治に書かれたものなのか」と思いました。

柄谷行人の解説がすばらしく、何を書いてもそれの引き写しになりそうなので、このくらいにしときます。

漱石先生、もうちょっと続けて読んでみようかな・・・。

2012年7月16日 (月)

それから

1893「それから」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

三十歳にもなって仕事もせず、思索にふけり、親の金で遊民生活を送る代助。しかし、彼の生活は、友人の平岡とその妻三千代が東京に戻ってきたことで、大きな変化を迎える。

我ながら単純だと思うのですが・・・(苦笑) ↓の「先生と僕」を読み、やっぱりどうしても漱石を読んでみたくなり。かと言って、どこから手を付けていいかわからず、夫にセレクトしてもらいました。何故これだったのかは、よくわかりませんが(笑)

あらすじだけは知っていたものの、読んだのは初めて。代助・三千代・平岡の三角関係の話と言ってしまえばそれまでですが、その件自体はある意味シンプルに展開します。それなりの名家に生まれた代助に縁談がおこるというのも、まあベタな展開。それだけなら、あっという間に終わってしまいそうな内容ですが。

代助の思考が延々と続き、しかもそれが多岐にわたっているのにビックリ。これって、やっぱり作者の思考が反映されているのでしょうね。こんなに頭を使っていたら、そりゃ病むでしょうよ・・・と思ってしまいました。

同時に、我々現代人がいかに頭を使わなくなったか・・・物事をつきつめて考えようとしなくなっているか、を痛感させられました。私は特にもその傾向が強いので。なんとなく、情けなくなってきました。

そして・・・鷗外・漱石はすでに古典になっていると思うのですが、この小説、意外にも古さを感じなかったのです。すごく、おもしろかった。読んでいて全然あきませんでした。これは、「先生と僕」のおかげかな。森田草平の「煤烟」をくさしてるくだりでは、笑ってしまったり。

ところで、代助の叔父が幕末に京都で殺された・・・なんてエピソードがちょっと出てくるのですが、江戸時代と地続きの時代なのだなあ、と実感。近代日本人の代表のように言われる漱石ですが、そのバックボーンにある「江戸」を感じました。

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