夏目漱石

2016年1月 6日 (水)

坊っちゃん

2396「坊っちゃん」   夏目漱石           岩波文庫         ★★★

親譲りの無鉄砲で、子供の頃から損ばかりしている…。そんな主人公が、数学の教師として松山へ。そこで待っていた騒動とは。

先日のドラマを見ながら、旦那と二人、「どんな話だったっけ?」  お互い、読んだのが大昔で、すっかり忘れていたのでした。というわけで、ン十年ぶりに再読。

ドラマでは随分良いように作ってましたが、「坊っちゃん」ってそんないい話じゃないよなあという印象だけはあって。やっぱり、結局坊っちゃんと山嵐は負けるんですよね。まあ、意趣返しはしますけど。彼らの行動で何か変わるかといったら変わらない。

それでも読後感が決して悪くないのは、テンポの良い文体と、清(きよ)の存在ゆえでしょう。

強がっているけど、坊っちゃんにとって、清が大切な存在だというところが、この物語の肝ですね。ドラマはその辺をなかなかうまく描写していたと思います。ただ、マドンナの扱いだけはいただけませんが。

 

2012年10月30日 (火)

こころ

1933「こころ」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★★

「私」は、ある夏の日、鎌倉で「先生」と知り合った。仕事にもつかず、妻と二人で暮らしている先生の人柄に不思議と惹かれた「私」は、足しげくその家を訪れるようになる。先生がもつ奇妙な影のようなものが気になるのだが、先生はその具体的な内容をなかなか語ろうとしなかった。

↓の「話虫干」を読んだために、ついついこれにも手を出してしまいました。全巻通して読んだのは、中学3年の時以来、です(何年前かは、あえて計算しない・・・)。

これが、明治の人が書いた物語か・・・(これが発表されたのは大正に入っていますが、漱石はやはり「明治の文豪」でしょう)。その事実に、とにかく圧倒されます。

「先生と遺書」の後半、Kが自殺するあたりは高校の教科書に載っていて、さらにその前後は繰り返し読んだのですが、そこまでのくだりはほとんど記憶の外でした。特に、「先生と私」「両親と私」の部分は、この物語には不要なんじゃないかと思っていました。浅はかでした、私。

「先生」の過去(親類の裏切りと断絶、Kと御嬢さんとの三角関係と、Kの自殺)が語られる「先生と遺書」の部分がメインなのはもちろんですが、それによって「先生」がその後どういう生き方をせざるを得なかったのか、それが「先生」にだけ起こることではなく、人間の普遍的な性質なのだということを語るうえで、前段部分は、決して欠くことのできないものでした。

根っからの悪人はいない。しかし、人間は自分の利のために、一瞬にして悪魔になれる。その恐ろしさ。叔父に裏切られ、人を信じられなくなった「先生」は、自らの裏切りによって唯一信じていた「自分」をも信じられなくなってしまう。その恐ろしさは、現代にいたるまですべての人間に共通するものでしょう。

しかし、漱石の書く物語の普遍性にはただただ驚くばかりです。もっと読まなきゃ・・・。

2012年10月18日 (木)

吾輩は猫である

1926「吾輩は猫である」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」・・・英語教師の苦沙弥先生の家に居ついた一匹の猫による、人間観察記。

今さら紹介するまでもない、小説家・夏目漱石のデビュー作。

中学3年の時、ふと思い立って読み始めたものの、わずか数ページでリタイア。それ以来、決して手を出さなかったのですが・・・漫画「先生と僕」の影響で、なんとなく頁を開いてみたら、けっこうおもしろい。で、読み始めたのですが、さすがに一気読みは無理で、ほぼ一日一話のペースで、ちまちま読みました。

近代文学なるものがまだ確立されていなかった時に、こういう文章を書けるというのがすごい。どちらかというと、江戸戯作というか、落語のようなというか、滑稽味があって(でも、文章はけっこうくどい)、さらに「猫」の視点で世の中を批判してみせるわけで・・・そりゃあ、これが載った「ホトトギス」が売れるはずです。

正直、ところどころよくわからず、読んでいてうとうとしてしまう時もあったのですが、意外なおもしろさでした。よく言われることですが、古さを感じないのです。うーん、やはり読み継がれる作家、文豪と呼ばれる作家には、それなりの理由があるのだなあと痛感した次第です。

2012年8月19日 (日)

1906「門」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

裕福な生家に生まれ、前途洋々たる青年だった宗助。しかし、彼は親友・安井の妻であった御米を奪ってしまった。今では御米と二人、世間をはばかるようにひっそり暮らしている宗助だったが、思いがけず安井の消息を聞き、動揺してしまう。救いを求めた宗助は、禅寺の門を敲く。

「それから」に続く三部作の最後。夫から借りたまましばらく放置していましたが、ようやく読みました。読み始めたら意外なくらいおもしろくて・・・。

と言っても、それほど大きな事件が起こるわけではないのです。宗助と御米の夫婦仲はいたって良く、二人の世界は非常に穏やかに完結しているように見えます。宗助の弟・小六が叔母からの学資援助を失って宗助宅に転がり込んできて、多少気まずい思いはするものの、それだけ。御米が体調を崩し、ドキリとさせられますが、それも無事におさまるし。安井の名を聞いて動揺する宗助は悟りを求めますが、全くそんな境地に達することもなく。安井との対面があるわけもなく。

いたって「普通の」日常が展開されるだけなのです。それなのに、なぜおもしろいのか。それは、「普通」だからではないでしょうか。ありきたりな毎日。どこにでもある普通の生活。その水面下に起こる小さなさざなみや、嵐。決して不幸ではないのに、満たされない何か。あるいは、背負わねばならない荷物の重さ。

読んでいて、何度も「これが本当に明治に書かれたものなのか」と思いました。

柄谷行人の解説がすばらしく、何を書いてもそれの引き写しになりそうなので、このくらいにしときます。

漱石先生、もうちょっと続けて読んでみようかな・・・。

2012年7月16日 (月)

それから

1893「それから」 夏目漱石   新潮文庫   ★★★★

三十歳にもなって仕事もせず、思索にふけり、親の金で遊民生活を送る代助。しかし、彼の生活は、友人の平岡とその妻三千代が東京に戻ってきたことで、大きな変化を迎える。

我ながら単純だと思うのですが・・・(苦笑) ↓の「先生と僕」を読み、やっぱりどうしても漱石を読んでみたくなり。かと言って、どこから手を付けていいかわからず、夫にセレクトしてもらいました。何故これだったのかは、よくわかりませんが(笑)

あらすじだけは知っていたものの、読んだのは初めて。代助・三千代・平岡の三角関係の話と言ってしまえばそれまでですが、その件自体はある意味シンプルに展開します。それなりの名家に生まれた代助に縁談がおこるというのも、まあベタな展開。それだけなら、あっという間に終わってしまいそうな内容ですが。

代助の思考が延々と続き、しかもそれが多岐にわたっているのにビックリ。これって、やっぱり作者の思考が反映されているのでしょうね。こんなに頭を使っていたら、そりゃ病むでしょうよ・・・と思ってしまいました。

同時に、我々現代人がいかに頭を使わなくなったか・・・物事をつきつめて考えようとしなくなっているか、を痛感させられました。私は特にもその傾向が強いので。なんとなく、情けなくなってきました。

そして・・・鷗外・漱石はすでに古典になっていると思うのですが、この小説、意外にも古さを感じなかったのです。すごく、おもしろかった。読んでいて全然あきませんでした。これは、「先生と僕」のおかげかな。森田草平の「煤烟」をくさしてるくだりでは、笑ってしまったり。

ところで、代助の叔父が幕末に京都で殺された・・・なんてエピソードがちょっと出てくるのですが、江戸時代と地続きの時代なのだなあ、と実感。近代日本人の代表のように言われる漱石ですが、そのバックボーンにある「江戸」を感じました。

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