佐藤賢一

2019年1月25日 (金)

新徴組

2851「新徴組」 佐藤賢一   新潮社   ★★★★

新選組には沖田総司が、新徴組にはその義兄・林太郎がいた。清河八郎の浪士組に端を発し、袂を分かち江戸に戻った一派が新徴組。庄内藩預かりとなり、江戸市中見廻りを役目としたが、薩摩藩邸焼討をきっかけに庄内藩と運命を共にした新徴組。林太郎とその息子・芳次郎は、その中心となって活動するが・・・。

先日読んだ「遺訓」の前段階の話なわけで、こちらは芳次郎の父・沖田林太郎が主人公。

っていうか、こっちを先に読むんだった・・・。

もちろん、独立した物語としても読めますが、「遺訓」ですっかり落ち着いて冷静沈着な人物になっていた鬼玄蕃こと酒井吉之丞がまだ若く、戦場にて鬼であろうと必死になっていて、ああ、この人にはこういう紆余曲折が・・・と思うと、もうそれだけで胸がいっぱいになってしまったのでした。

沖田総司を描いたものはいくつもあって、姉のミツは弟思いの優しい姉としてよく登場しますが、その婿の林太郎はあまりお目にかかったことはありません。その林太郎がなかなかおもしろい人物として立ち現れてきて、彼の目を通して描かれる総司、近藤勇、土方歳三というのも、実におもしろかったです。特に、江戸に戻ってきた総司との再会の場面は、泣かされました。

後半は庄内藩の戦が描かれますが、一度も負けなかった庄内藩が降伏するに至った過程と、降伏に反対する吉之丞を説得したものが何だったのかというくだりは、とても印象的でした。

「新徴組」は戊辰戦争を、「遺訓」は西南戦争を描いていると同時に、前者は沖田林太郎の、後者は息子・芳次郎の青春物語でもあります。

それにしても、去年は明治維新150年とやらでしたが、明治維新とは何だったのでしょうね。その効用と同時に影の部分も冷静に総括すべきだと思うのですけれど。

2019年1月 8日 (火)

遺訓

2843「遺訓」 佐藤賢一   新潮社   ★★★★

沖田総司の甥・芳次郎は、幕末に新徴組に属し、その縁で明治の世を旧庄内藩で迎えていた。その家老たちから庄内藩との縁の深い西郷隆盛の護衛を命じられた芳次郎は、鹿児島に赴く。下野した西郷をめぐり、さまざまな思惑が交錯する中で、芳次郎が見たものとは。

去年の「西郷どん」はあっという間に脱落したのですが、ツイッターでみなさんの感想は追っていました。その中で、「庄内藩のことは取り上げないのか!」という怒りの声が。なんのことやらわからなかったのですが、「西郷と庄内藩のことが知りたいなら、これがおススメ」という書評家大矢博子さんのツイートで、手に取ったのがこれ。

いやあ、全然、知りませんでした。幕末のことは、新選組を中心に幕軍側に興味があり、いわゆる官軍側のことは通りいっぺんの知識しかない私。つくづく、興味関心のあることには没頭するけれど、それ以外は見事にスルーする自分の体質を思い知らされました。

沖田芳次郎という青年を通して、彼の挫折と成長を描くのが骨格になってはいますが、やはり強い印象を受けたのは、西南戦争の場面です。

ある意味、日本人にとって非常に苦い記憶であり、いまだにタブーになっているところがあるのかな、と。戊辰戦争・明治維新という成功体験ゆえに道を誤ったとも言える旧薩摩藩士たち。明らかに卑劣な手段で西郷たちを排除しようとした政府側。日本人同士(あるいは薩摩藩士同士)で憎みあい、殺しあった凄惨な戦場。いずれも悲惨な歴史であり、少なくとも私にとってはあまり直視したいものではありませんでした。

でも、ここを直視しないことが、その後の日本の道を誤らせたのではないかと思えてならないのです。去年は「明治維新150年」と喧伝されていましたが、維新の「失敗」から目をそらし続けて150年・・・私にはそんな思いがつのる一年でもありました。

それにしても、同じ幕軍側でも、新徴組のことも全然わかってません・・・。これは、佐藤賢一さんの「新徴組」も読まねばならない・・・かな?

2013年8月29日 (木)

フランス革命の肖像

2043「フランス革命の肖像」 佐藤賢一   集英社新書   ★★★

表紙を飾るのは、ルイ16世、マリー・アントワネット、ロベスピエール、そして、ナポレオン。フランス革命を彩った人物の肖像画80点を手がかりに、革命の足跡をたどる一冊。

「フランス革命は1789年」・・・中学校の歴史で暗記したことくらいしか、実は知らなかったのです。その後も混乱をきわめたこととか、大人になってから「そういうことがあったのか・・・」とビックリしたくらいで。・・・私の世界史オンチも、筋金入りです。

というわけで、少しずつお勉強しなきゃ・・・と思っているのですが、難しい。で、佐藤賢一さんの書くものは、小説家だけあってわかりやすいので、選んで読んでいます。

が、これはよくわからない人がたくさんいました(涙) 木原敏江の漫画「杖と翼」で、サン・ジュストやダントンのことを知ったのですが・・・肖像画のインパクトに感動してしまいました。

「顔」をめぐる著者の考察が、なかなかおもしろかったです。たしかに、革命後、いろんな顔が登場している・・・。人間、見た目がすべてではないけれど、外見も侮れないものがありますね。

2013年2月23日 (土)

黒王妃

1973「黒王妃」 佐藤賢一   講談社   ★★★★

イタリアのメディチ家からフランス王家に嫁いできたカトリーヌ・ド・メディシス。夫であるアンリ二世に先立たれてからずっと黒衣で通していること以外は、地味で目立たない王母として宮廷で生きてきた。しかし、息子・フランソワ二世の急逝により、少年のシャルル九世が王位に就くや、事実上の摂政として国政をとりしきることになった。おりしも欧州諸国は宗教戦争の真っただ中。「黒衣の王妃」は、激動の時代をいかに生きたのか。

新聞の書評を見て、おもしろそうだと手に取ってみました。

世界史音痴ですが、興味だけはあるのです。佐藤さんの小説は、素人でもなんとかついていけるようにわかりやすく、おもしろく、書かれているのですが・・・。いかんせん、同じ名前の人が複数出てくると、もう頭が混乱してしまって(苦笑) 日本人なら、漢字表記の違いなどで区別できることが多いのですが、カタカナでは・・・。しかも、「フランスでは○○、イギリスでは△△」なんていう呼び方の違いが出てくると、混乱しまくりです。やれやれ。

それでも、なんとかかんとか読み切りました。16世紀の西洋史はもう全くわかりませんが、「カトリーヌ・ド・メディシス」は、なんとなく知っていました。黒衣の王妃ということも。そして、たぶん、宗教がらみの大虐殺をさせてしまった人じゃなかったかな、と。

なので、どんな怖い人だろうと思いながら読んでいったのですが・・・。2章に一回の割合で、カトリーヌの独白が入るのですが、これがとってもおもしろかったのです。カトリーヌが異国の宮廷でどうやって生きてきたか。出来事の裏で、何を思っていたのか。何が、カトリーヌを支えているのか。

実は、カトリーヌの価値観は非常に単純で、しかも彼女は自分を偽りません。カトリーヌは、普通の「女」だっただけ。しかし、その結果が、「聖バルテルミーの大虐殺」につながっていったというのが、恐ろしくてたまりませんでした。

2012年7月19日 (木)

英仏百年戦争

1894「英仏百年戦争」 佐藤賢一   集英社新書   ★★★★

それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。・・・世界史に名高い「英仏百年戦争」とは、いったい何だったのか。そもそもの事の発端から、結末に至るまでを丁寧に解き明かす一冊。

世界史に疎い私ですが、興味はあるのです。ただ、歴史学者のような方が書いたものは、どうも敷居が高くて、なじめない。何かわかりやすい本はないか・・・と、いつも探しているのですが。そうして巡り合ったのが、この一冊。小説家の佐藤賢一さんなら、わかりやすく書いてくれているのではないか、と期待して手にしました。

実際、期待を裏切らない一冊でした。私みたいに基礎知識が欠落していても、なんとかついていけました。

そもそも、私の認識では、「英」と「仏」は全く別の国。それなのに、どうしてイングランド王がフランスの王権を主張したり、領地があっちにあったりこっちにあったり・・・? と、ヨーロッパ史に題材をとった小説を読んだりするたびに頭の中に「?」が飛び交っていたのですが、ようやく疑問が氷解。なるほど、現代の国家の感覚では理解できないのですね。

とは言え、一度読んだだけでは「わかった」とは言えないのも事実。でも、疑問が生じた時には、ここに戻ればよさそうです。

2007年8月 4日 (土)

女信長

1154「女信長」佐藤賢一   毎日新聞社 ★★★ 

 織田信長は、実は女だった。
 織田家の跡取りとして育てられた御長(おちょう)は、「泰平の世」を目指して闘い続けていた。女であるからこそ、乱世の幕引きをし、新しい世の中を創り出せる。そう信じていた御長であったが・・・。

 佐藤賢一の時代物は「西洋もの」という印象だったのですが、これは和もの。おもしろそうだなあと、図書館で借りてきました。
 エンタテイメントとして、純粋に楽しめました。信長の言動や政策が、「女性だから」という観点で見ると、妙に納得できたりするんですね。
 例えば、妹婿の浅井長政を信長はたいそうかわいがっていて。そのせいか、長政が裏切った時の信長の怒りは尋常ではなかったようなんですが・・・。これが、御長が長政に恋していたから、ということになっているのです。そうやって肉付けしていった物語が、史実と符合していくのがおもしろい。
 また、信長にとってのキーパーソン・明智光秀の描き方も興味深かったです。
 ただ、女であるがゆえに世の常識を打ち破っていくうちはいいのですが、後半、さまざまな重責に御長が耐えられなくなっていくさまは、なかなかつらかったです。御長はわがままだし、けっこう厄介な性格の女ですが・・・結局、彼女は報われなかったのかしらと思うと、複雑な気分でした。

じょせ > まゆさん、こんばんは。
織田信長が女だったら・・・考えたことがありませんでした。しかしその場合、濃姫とのことはどういうふうになっているのでしょう?一つ何か考え始めてしまうとあれがどうでこれがどうなんだと尽きないですね。うちの近くの図書館にはあるかなあ。 (2007/08/05 01:21)
nanao > 毎日新聞の連載時から読んでいたのですが、毎回楽しみでした。あの信長が女性だったらという発想は奇抜でしたが、あり得ない話でもないな、と思わされました。 (2007/08/05 20:29)
まゆ > じょせさん、まずこの発想がすごいですよね。私も考えたことありませんでした。日本史マニアの私は、信長にもかなり入れ込んだ時期があったのですが。濃姫はちゃんと登場しますよ!いったいどういうポジションになるのかは、秘密(笑)ぜひ読んでみてください。 (2007/08/05 20:46)
まゆ > nanaoさん、「ありえない話でもない」と思わせるところが、さすがですよね。女性の視点で読むと、「それはどうだろう」と思わないでもないところもあったのですが・・・まあ、エンタテイメントとして楽しみました。 (2007/08/05 20:47)

2004年4月11日 (日)

王妃の離婚

493「王妃の離婚」佐藤賢一   集英社   ★★★★

 フランス王ルイ12世が、王妃ジャンヌとの離婚を申し立てた。裁判がおこなわれるものの、王の威勢を恐れた弁護側は腰がひけるばかりで、ジャンヌにとって不利な証言ばかりが蓄積されていく。かつて一流のインテリとして名をはせた弁護士フランソワは、王妃の弁護を買って出るのだが・・・。

 世界史は苦手な私ですが、「ベルばら」世代なもので、王室ものには興味があるのです。ただ、ルイ12世と言われてもいつ頃のことなのか、ピンとこないわけで。時代背景もよくわからないし。
 ・・・と思ってずっと手を出さずにいたのですが、これが見事な「食わず嫌い」でした。難しい歴史のことなんか知らなくても楽しめる、見事なエンタテイメントでした。もっと堅苦しい小説かなあと思っていたのです。
 キャラクターがとっても生き生きしていて魅力的。主人公のフランソワは一癖ある人物ですが、法廷での胸のすくような弁護なんか最高です。かつての恋人のべリンダや、その弟で近衛隊長のオーエンも、一つ間違えばありがちな人物設定になりかねないのに、不思議とかっこいいのです。それから、王妃のジャンヌ! この人がかっこよくて、かわいくて、私はいちばんのお気に入りです。
 これは徹底して男性の視点で語られた物語なので、読んでいて「そうかなあ」と思うところもあったのですが、それが気にならないくらいおもしろかったのでした。特に、フランソワが法廷に立ってからは、もう一気読みでした。緩急自在な言葉のやりとり、緊張感、民衆の熱狂。どきどきしながら読みました。
 この人の作品では「傭兵ピエール」も気になっているのです。いつか読んでみようかなあ。 

あさこ > 佐藤さんの作品は『カルチェ・ラタン』しか読んでないのですが、とても面白かったので色々と読んでみたいと思ってます。この作品はたしか直木賞受賞作ですよね。まゆさんの評価も高いので、気になります~!いずれ読んでみたいです。 (2004/04/12 00:51)
ふく > 僕の初・佐藤作品もこれでした。多少下世話な部分も含めて、キャラが「生きてる」感じがとても強く感じられました。『傭兵ピエール』も面白いですよ。 (2004/04/12 11:55)
まゆ > あさこさんのおっしゃる通り、直木賞受賞作です。なぜか堅そうな印象をもってました。なんでだ? 「カルチェ・ラタン」はどんな話なのでしょう。この話でも、学生の町カルチェラタンが重要な場所としてでてくるのです。
ふくさん、そうそう、キャラが「生きてる」んですよね。主要人物から名もない庶民に至るまで。なんとなく藤本ひとみの歴史ものの男性版という印象をうけました。「傭兵ピエール」もいつか読みますね。 (2004/04/12 19:11)
たばぞう > これ、確かふくさんの日記で見て読みたいなぁと思っていた1冊でした。そのままになっていたけれど・・・読まなきゃ~!。 (2004/04/12 23:13)
まゆ > 予想していた以上におもしろかったです。全然堅苦しくないし、おすすめですよ~。 (2004/04/13 00:10)

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