中島京子

2019年10月30日 (水)

夢見る帝国図書館

2963「夢見る帝国図書館」 中島京子   文藝春秋   ★★★★

上野公園で偶然知り合った喜和子さん。彼女は、小説家のわたしに、上野の図書館の小説を書けという。題は「夢見る帝国図書館」。喜和子さんのちょっと変わった生い立ちと、図書館の歴史は奇妙に溶け合っていて・・・。

 

やっと図書館で借りられました。いやあ、待った、待った(苦笑)

図書館と聞いただけでピクッと反応してしまうのに、中島京子さんが書き手って、なんかもう好きにきまってるじゃないですか!・・・と、読み始めたら、予想を上回る私好みの物語でした。

喜和子さんという一風変わった老婦人と知り合った「わたし」。喜和子さんは、宮崎の家を飛び出して、東京で暮らしている、らしい。なんでも幼いころ、上野のバラックで、親戚でもない復員兵と暮らしていた、らしい。その人が図書館に連れて行ってくれたし、図書館のお話を書いていた、らしい。「わたし」も人のことを根掘り葉掘り追及するたちでもないらしく、喜和子さんの人生はなんとも曖昧模糊としたまま、断片的に提示されるのみ。

喜和子さんの元愛人の古尾野教授や、ホームレスの五十森さん、喜和子さんの部屋の二階の住人・雄之助くんなど、周囲の人々もなんだか個性的かつとらえどころのない人が多くて、不思議だけれど心地よい世界が広がるかと思いきや。

後半は、喜和子さんの死後、彼女が語らなかったさまざまなことがわかってきて、生前の突拍子もない言動が何を意味していたのかが少しだけわかってきます。なぜ、喜和子さんは上野を愛していたのか。図書館に足を踏み入れなかったのは。喜和子さん自身が残したわずかな手がかり(暗号と小説)をもとに、見えてきた喜和子さんの切実な思いは、せつなく、哀しく、いとおしいものでした。

同時に語られる「帝国図書館」の歴史は、それだけでもなんだか胸がいっぱいになるような、いろんなものが詰め込まれていて。歴史の中で顧みられることのない「図書館」の立ち位置や、そこに存在した人間の足跡を想像すると、もう涙が出てくるようでした。

ただそこにいることを許してくれる「図書館」という場所に救われる人というのもたしかにいて。そして、「真理がわれらを自由にする」という言葉に、その人は何を見出して生きたのだろうと、涙しながら本を閉じました。

 

2018年8月21日 (火)

ゴースト

2785「ゴースト」 中島京子   朝日新聞出版   ★★★★

「おそらく僕は幽霊に会ってるんですよ」・・・ある男性が語り始めたのは、奇妙な物語だった。彼が青年時代、原宿で偶然出会った女とは・・・。

「原宿の家」「ミシンの履歴」「きららの紙飛行機」「亡霊たち」「キャンプ」「廃墟」「ゴーストライター」の7話。いずれも「ゴースト」が登場します。

どの話もどこかとぼけたおかしみがあるのに、せつなくて。特に第二話「ミシンの履歴」でつかまれました。この話に出てくるのは、ミシンの幽霊。意外な設定ですが、その「履歴」は波乱万丈で、その時代の空気をリアルに伝えてくれます。

第一話から第六話まで、ゴーストたちのベースになっているのは「戦争」です。その時代に生き、それぞれの形で戦争に関わった彼らの人生が、やりきれない思いが、描き出されます。

第七話では、ゴーストたちが何を求めているのかが、彼らの口で語られます。彼らの声は、誰にも届かない「声なき声」なのです。でも、それを「声なき声」にしてしまうのか、どうにかしてすくいあげようとするのか・・・それは、生きている私たちに委ねられているのでしょう。

私はこれ、かなり好きです。中島作品のベスト3に入るかも。

2018年4月 7日 (土)

樽とタタン

2732「樽とタタン」 中島京子   新潮社   ★★★★

母親の仕事が終わるまで、小さな喫茶店で時間を過ごしていた子ども時代。その店で、私は「タタン」と呼ばれていた。そこで出会った人々は、それぞれがちょっと変わっていて・・・。

世の中というのは、大人たちの世界。その世界に存在しているけれど、構成員とは認められていなくて、「世界」を片隅からじっと観察している。大人から見た子どもの立ち位置ってそんなものかもしれません。でも、子どもには子どもの視点があって、「世の中の常識」を知らないからこそ、見えてくるものがあって。

「タタン」と呼ばれる女の子は、周囲の環境に順応するのに時間がかかるタイプらしい。いろいろあって、放課後の時間を、母親の迎えを待ちながら小さな喫茶店で過ごすことに。そこにやってくる一風変わった大人たちを通して、タタンは世の中を知っていく。

その喫茶店に集う人たちは(マスターも含めて)、あまり世渡りが上手そうではありません。世間からちょっとだけはみ出してしまっているような。ちょっぴり孤独を抱えているような。そんな人たちが、小さなタタンを邪魔にせず、ちやほやもせず、あるがままのタタンを尊重してくれている空気が、とても気持ちいいのです。

はみ出し者たちに対する、作者の目は決して甘くない。でも、そういう人たちをふんわり抱き取ってくれるような温かさを同時に感じるのです。

2014年9月28日 (日)

かたづの!

2178「かたづの!」 中島京子   集英社   ★★★★

江戸時代初期。八戸南部藩主の妻・祢々は、一本角の羚羊と出会う。その羚羊は祢々の良き友となり、その死後は、南部の秘宝「片角」となる。一方、夫と息子の相次ぐ死により、女大名・清心尼となった祢々は、次々と降りかかる困難に立ち向かっていく。

書店でこの本を見つけた時、ビックリしました。どうして中島京子さんが、こんなマイナーなネタを・・・と。一応、地元(?)なもので、興味があり、買いましたが・・・八戸藩のことはあまりよく知らないしなあ、それに歴史ファンタジーってどういうもの?と、やや不安を覚えながら読み始めました。

いきなり「貴婦人と一角獣」が出てくるのには驚かされました。それがどういうことかは、最後にわかるのですが・・・。その後も予想外の展開に、驚かされることたびたび。片角だけでなく、河童も活躍するし。そういう意味でファンタジーなんですが。

祢々の人生は、決して幸せなものではありません。女性としても、大名としても、思うに任せないことの方が多く、読んでいてつらいことも多かったです。しかし、自分の信念に従って、ひたすら懸命に前に進み続けたその強さ、自分の人生をまっとうした生き方には、感銘を受けました。ちょっとしたことですぐへこんでしまう自分が情けなくなりました(苦笑)

2013年7月24日 (水)

桐畑家の縁談

2021「桐畑家の縁談」 中島京子 マガジンハウス ★★★

美人だけど、転職した上、現在無職で妹のところに居候している露子。研修医の恋人もいるけれど、何か物足りない。

妹・佳子は、露子の陰で地味に生きてきたタイプ。日本語学校の事務をしているが、そこの学生の台湾人と「結婚します」と宣言したことから、物語は動き出す。

正反対の気性の姉妹の対比がおもしろく、スルスルと読んでしまいました。すごくリアルなようでいて、なんとなく非現実な感じが、心地よい物語でした。

2013年4月28日 (日)

女中譚

1992「女中譚」 中島京子   朝日文庫   ★★★★

アキバのメイド喫茶に通う90すぎのばあさんが語る、かつて「女中」をしていた頃の思い出とは・・・。

「小さいおうち」も女中が主人公でしたが、これは女中の「すみ」が語る思い出話が中編3つに収められています。そして、それぞれ元ネタ(?)になる小説があるという趣向。

「ヒモの手紙」は、林芙美子「女中の手紙」、「すみの話」は吉屋信子「たまの話」、「文士のはなし」は永井荷風「女中のはなし」。

3編とも、元の小説を実にうまくアレンジして(解説によると、ですが)、戦争へと向かっていく時代の空気を織り込んでいます。元の小説も読んでみたくなりました。

2010年9月 2日 (木)

小さいおうち

1556「小さいおうち」中島京子   文藝春秋   ★★★★

昭和5年、山形から上京したタキは、女中奉公を始めた。そうして巡り合った「奥様」と、山の手の赤い三角屋根の家。ご主人さまと奥様と、坊ちゃんと・・・彼らとともにすごした充実した日々には、実は秘密があった。老境に入ったタキが思い出す、幸せな日々とは・・・。

こちらは、直木賞受賞作。中島京子さん、おもしろそうだなあとチェックし始めた矢先の受賞だったので、ビックリしました。で、これも新着図書を即ゲットしてきました。

期待にたがわぬおもしろさ、でした。女中という仕事に誇りをもっているタキ。戦前から戦中の山の手の生活が、その手記から浮かび上がってきて、それを読んでいるだけでも楽しいです。手記を盗み読みするタキの甥の息子の健史は、「当時の国民生活がこんな楽しく、のんきなはずがない!」とタキを責めますが、タキの実感と、健史の歴史上の知識との隔たりはものすごく大きいのです。それでも、徐々に、タキたちの生活にも戦争の色は濃くなっていくのですが・・・。

その狭間に起こる事件が、奥様の恋愛です。板倉という夫の会社に勤める若い男性と、どうやら道ならぬ恋に落ちたらしい・・・という気配が伝わってきます。やがて、板倉は徴兵されるのですが・・・。タキは、敬愛する奥様のことを思い、どうするのが女中として正しいあり方なのか、思い悩みます。そして、彼女がとった行動は・・・。

構成が、実にいいです。幸せな象徴のようなおうちの中で起こっていた秘密。そして、誰も知らなかった、ある事実。それが明らかになるラストは、なんとも言えないようなせつなさで胸が満たされ、それでいて幸せなような、不思議な気分になりました。

「聖なるもの/守られたもの」とは、いったい何だったのでしょう。それぞれが、本当に「守りたかったもの」とは、いったい・・・。そして、守りたいものがある場所が、それぞれの幸せのある場所なのでしょうか。タキにとって、それがあの赤い三角屋根の小さな家だったように。

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