夢見る帝国図書館
2963「夢見る帝国図書館」 中島京子 文藝春秋 ★★★★
上野公園で偶然知り合った喜和子さん。彼女は、小説家のわたしに、上野の図書館の小説を書けという。題は「夢見る帝国図書館」。喜和子さんのちょっと変わった生い立ちと、図書館の歴史は奇妙に溶け合っていて・・・。
やっと図書館で借りられました。いやあ、待った、待った(苦笑)
図書館と聞いただけでピクッと反応してしまうのに、中島京子さんが書き手って、なんかもう好きにきまってるじゃないですか!・・・と、読み始めたら、予想を上回る私好みの物語でした。
喜和子さんという一風変わった老婦人と知り合った「わたし」。喜和子さんは、宮崎の家を飛び出して、東京で暮らしている、らしい。なんでも幼いころ、上野のバラックで、親戚でもない復員兵と暮らしていた、らしい。その人が図書館に連れて行ってくれたし、図書館のお話を書いていた、らしい。「わたし」も人のことを根掘り葉掘り追及するたちでもないらしく、喜和子さんの人生はなんとも曖昧模糊としたまま、断片的に提示されるのみ。
喜和子さんの元愛人の古尾野教授や、ホームレスの五十森さん、喜和子さんの部屋の二階の住人・雄之助くんなど、周囲の人々もなんだか個性的かつとらえどころのない人が多くて、不思議だけれど心地よい世界が広がるかと思いきや。
後半は、喜和子さんの死後、彼女が語らなかったさまざまなことがわかってきて、生前の突拍子もない言動が何を意味していたのかが少しだけわかってきます。なぜ、喜和子さんは上野を愛していたのか。図書館に足を踏み入れなかったのは。喜和子さん自身が残したわずかな手がかり(暗号と小説)をもとに、見えてきた喜和子さんの切実な思いは、せつなく、哀しく、いとおしいものでした。
同時に語られる「帝国図書館」の歴史は、それだけでもなんだか胸がいっぱいになるような、いろんなものが詰め込まれていて。歴史の中で顧みられることのない「図書館」の立ち位置や、そこに存在した人間の足跡を想像すると、もう涙が出てくるようでした。
ただそこにいることを許してくれる「図書館」という場所に救われる人というのもたしかにいて。そして、「真理がわれらを自由にする」という言葉に、その人は何を見出して生きたのだろうと、涙しながら本を閉じました。
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