原田マハ

2017年2月25日 (土)

星がひとつほしいとの祈り

2542「星がひとつほしいとの祈り」 原田マハ   実業之日本社文庫   ★★★★

道後温泉で盲目のマッサージ師と出会ったコピーライターの文香。その人は、かつて令嬢と呼ばれるような生活を送っていたのだという。彼女の若き日の恋と、献身的に仕えてくれた女中との絆を聞いた文香は・・・。(「星がひとつほしいとの祈り」)

原田マハは好きな作家ですが、主に読むのは美術系の作品。それも、図書館で借りて・・・と、なんとなく決めています。ところが、これは書店でたまたま見つけて、買ってしまいました。帯のコピーに引かれたからです。

「人生の節目に何度も読み返したい一冊です!」

それなら、手元においてみようか、と。

収録されているのは、7つの短編。20代から50代まで、さまざまな年齢の女性が主人公。

2話目の「夜明けまで Before the Daybreak Comes」でやられました。シングルマザーとしてひかるを生み育ててきた母・あかりが死去。女優だった母は、奇妙な遺言をひかるにのこしていた。遺言どおり、ある町を訪ねると、そこには・・・という物語。それぞれに自分の思いを引き裂かれながら、懸命に生きてきた人たちの姿に、思わず涙してしまいました。

どの話の主人公も、何か思い通りにいかないぎくしゃくしたものを抱えていて、あるいは大きな喪失を抱えていて・・・ある人はそれをなんとか笑い飛ばそうとしていたり、ある人はそこで立ち止まってしまっていたり。それでも、過ぎていく日々の営みの中で見せる彼女たちの表情は、決して他人事とは思えないのでした。

そして、彼女たちにもたらされる、ほんの少しの救い。それが、こちらの心までふっと緩ませてくれる、そんな物語なのです。この感じ、どこかで知ってる・・・と思ったら、藤田香織さんの解説を読んで、「あっ!」と。「旅屋おかえり」でした。納得。

この短編集も、日本各地を舞台にしています。私が土地鑑があるのは、「寄り道」の男鹿半島・白神山地くらいでしたが。

たしかに、これは「何度も読み返したい」本かもしれません。

2016年8月12日 (金)

暗幕のゲルニカ

2462「暗幕のゲルニカ」 原田マハ   新潮社   ★★★★

ニューヨーク近代美術館のキュレーターである瑤子は、ピカソの「ゲルニカ」を、プラド美術館から借り受けるべく奔走していた。それは、9・11のテロで亡くなった夫のためでもあった。しかし、交渉はうまくいかず、さらに衝撃的な出来事が・・・。

「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」を経て、ここにたどり着いたのね・・・と、感慨深く読みました。

「ゲルニカ」制作中のピカソを、その愛人・ドラの目を通して描くパートと、MoMAのキュレーター・瑤子がその「ゲルニカ」を借りるために奔走する現代のパートとが交互に描かれ、物語が展開していきます。

なんといっても圧巻なのは、「創造主」パブロ・ピカソの人物像です。1937年から1945年までの彼が描かれますが、決して「いい人」ではないのに、その魅力にとらわれてしまいました。また、彼の愛人として後世に名を残したドラ・マール(「泣く女」のモデル)の存在感も、物語に強い力を与えています。

彼らが「ゲルニカ」を制作する過程は、実に興味深く、原田マハ渾身の筆だったのではないでしょうか。

一方、現代パートは、ちょっとなじめない感じで読んでいたのですが、途中で「過去」と「現在」がつながったときには、鳥肌が立ちました。そういうことだったのか、と。

読み終えて、作品冒頭に掲げられたピカソの言葉の意味が、重く胸に残りました。

「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」

2016年1月17日 (日)

ロマンシエ

2403「ロマンシエ」  原田マハ         小学館          ★★★★

見た目はイケメン。だけど心は乙女な美智之輔は、アーティストに憧れる美大生。そんな美智之輔に、パリ留学のチャンスが!  そして、そこでは思わぬ出逢いが待っていた。

美智之輔のキャラに最初はドン引きしてたのですが(苦笑)
…だって、妄想力すごいんですもん。でも、日本では息が詰まってたんだろうなとか、ハルさんやムギさんの前で見せる素の表情とか、だんだんいとおしくなってきちゃいました。

だから、高瀬君に失恋した場面では、思わずもらい泣きしてしまいました(苦笑)  なんというか、ハルさんが書きたい小説そのままですね。参りました。

それから、リトグラフというものに対する価値観が変わりました。単なる印刷物ではないのですね。現代アートについての考え方にも、ハッとさせられました。

とってもキュートで、読むとちょっと元気になれるような、そんな物語でした。

 

2015年6月17日 (水)

モダン

2310「モダン」 原田マハ   文藝春秋   ★★★★

ニューヨーク近代美術館MoMAを舞台にした5つの短編集。

「中断された展覧会の記憶」「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」「私の好きなマシン」「新しい出口」「あえてよかった」の5編。

いちばん印象的だったのは、「中断された~」です。これって、実際にあった話なのでしょうか。3.11で中止になった展覧会の目玉作品を福島に引き取りに行く話です。作者がひどく冷静にこれを書こうとしているのが、抑制された文章から伝わってきました。それが、ラストでぶわっとあふれる感じが、とても好きでした。

「ロックフェラー~」は、MoMAの警備員が見た「幽霊」の話。それにつながるように、「私の好きなマシン」が配置されています。どちらもいい話でした。

「新しい出口」は、9.11の話で、読んでいてつらくなることも。ただ、「楽園のカンヴァス」とのリンクがあって、思わずニンマリ。マティスとピカソの関係、おもしろそうです。

「中断された~」でとりあげられていた、ワイエスの「クリスティーナの世界」を見たくてたまらなくなりました。

「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」がお気に召した方にはおすすめの一冊です。

2015年6月 3日 (水)

異邦人(いりびと)

2301「異邦人(いりびと)」 原田マハ   PHP   ★★★

銀座の老舗の画廊の専務・篁一輝と結婚した菜穂。出産を控えて京都に滞在していた菜穂は、退屈しのぎに京都の画廊に出かける。自らも美術館の副館長で審美眼には自信のある菜穂は、一枚の絵に心奪われる。まだ無名の若き女性画家・白根樹(たつる)の作品だった。彼女は美しい人だったが、声を失くしていた・・・。

「異邦人」と書いて「いりびと」と読みます。

原田マハの絵画ものときいて飛びついたのですが、絵そのものよりも、絵画にとりつかれ、ふりまわされる人間の業のようなものがテーマでした。ちょっと私の好みとは違ったようです。

だいたい、登場人物の誰ひとりとして共感できないのです。菜穂も、一輝も、なんというかついていけない・・・。樹の生い立ちもあっさり書かれていて、彼女の境遇にもあまり感情移入できず。というか、樹って怖い。

それぞれの美に対する執着とか、菜穂の出生の秘密とか・・・業の深さはひしひしと伝わって、息苦しいような思いで読みました。

舞台になっている京都の四季の風情は、とっても素敵でした。でも、京都の異邦人は、一輝たちだったのですね。

2015年4月 2日 (木)

翼をください

2260「翼をください」 原田マハ   毎日新聞社   ★★★★

暁星新聞社の青山翔子は、ひょんなことから戦前、自分の社の飛行機が世界一周飛行を成し遂げたことを知る。その飛行機に乗っていたというカメラマン・山田順平をアメリカに訪ねた翔子は、アメリカの女性パイロット、エイミー・イーグルウィングにまつわる想像を絶する話を聞かされ・・・。

綿密な取材に基づいた、壮大な物語です。ただし、あくまで人間のドラマです。飛行機による世界一周がとんでもない冒険だった時代、飛ぶことに憑かれた人々の。

開戦2年前に毎日新聞社が海軍の飛行機の提供を受けて、世界一周飛行をしたという事実があるのだそうです。それは、GHQによって抹消された事実であるらしい。この事実を徹底的に調べて小説化したのが、この作品です。、さらに当時アメリカで有名なパイロットだったアメリア・イアハートの失踪事件を絡め、スケールの大きな物語になっています。

前半は、エイミーの話。次々に飛行記録をたたき出す女性パイロットとして世間の注目を集めるエイミー。女性の社会における権利がまだ低かったころ、彼女の活躍はさまざまな人に勇気を与えます。大統領とも謁見し、いよいよ世界一周飛行に挑戦するさなか、彼女の周りに不穏な空気が。国家の陰謀に気づいたエイミーは、太平洋上で機体とともに「失踪」します。

後半は、山田順平ら「ニッポン号」の世界一周飛行の話。選ばれた7人のメンバーのほかにもう一人、謎の搭乗員が現れます。それは、失踪したはずのエイミーで・・・。

もちろん、小説なのでフィクションです。ただ、エイミーのモデルになったアメリア・イアハートのことと、ニッポン号の存在が、物語にすさまじい力をもたせています。飛行の場面の臨場感はすばらしかったです(私は飛行機のことはわかりませんが)。

エイミーと順平たちが力を合わせて一緒に飛ぶこと、それこそが「世界は一つ」を実証していたのかもしれません。

2015年3月28日 (土)

あなたは、誰かの大切な人

2256「あなたは、誰かの大切な人」 原田マハ   講談社   ★★★★

文字通り「髪結いの亭主」の父は、母の最期をみとることもしなかった。そして、告別式が始まろうとしているのに、斎場にも現れない。そんな父への母からの「最後の伝言」とは・・・。(「最後の伝言」)

「最後の伝言」「月夜のアボカド」「無用の人」「緑陰のマナ」「波打ち際のふたり」「皿の上の孤独」の6篇。

昨日の地元紙に原田マハさんのインタビューが載っていました。この本のテーマは「喪失」なのだそう。

「失うからこそ大切さに気づく。失うことを避けられないのだとしたら、それをどう肯定的に捉えていけるかを考えたい。」

いずれも大きな喪失を経験した主人公が、それと向き合い、生きていく・・・そんな物語です。

印象的だったのは、「最後の伝言」と「月夜のアボカド」。前者はろくでなしの夫をもった母の話。後者はたった4年の結婚生活を送った夫婦の話。人それぞれにいろんなドラマがあって、だからこそ人は生きていけるのだと思わされます。

「緑陰のマナ」では、「母の味」がとりあげられていました。真似してみても、どうしても作れない母の味。それが食べられなくなる日がいつか来るのだと思うと、どうしようもなく心細くなります。

原田さんは、4年がかりであちこち旅をして、そこで拾ったものを書いたのだそうです。だから、物語の舞台も、日本、海外とさまざま。でも、どの話も、心にふうっと優しい風を吹き込まれたような気持ちになる素敵な話ばかりです。ちょっとせつないけれども。

2015年1月 6日 (火)

奇跡の人

2213「奇跡の人」 原田マハ   双葉社   ★★★★

明治20年、弘前。一人のアメリカ帰りの女性・安(あん)が、一人の少女のために、この地に降り立った。見えない、聞こえない、話せない・・・三重苦の少女・れんとともに、人生を歩いていくために。

「奇跡の人」というのはヘレン・ケラーのことではなく、アン・サリバンのことなのだと、最近何かで読んだ気がします(何で読んだのか、どうしても思い出せず)。この物語はヘレン・ケラーとアン・サリバンの「奇跡の人」を、日本に翻案したもの。とはいえ、単なる引き写しではなく、人の心を打つ何かを宿しています。

「奇跡の人」は「ガラスの仮面」での知識しかないのですが(苦笑)、おおむね舞台と同じ展開をします。

主人公・去場安は士族の娘で、弱視ゆけに将来を案じた父に、アメリカへの留学生として9歳で洋行を経験。現地で教育を受け、成人した女性です。女子教育に情熱を燃やして帰国した安は、ある縁で津軽の介良(けら)男爵家の長女・れんの養育を託されます。そのれんは、幼い時の病気がきっかけで視力・聴力を失い、話すこともできない娘。蔵の中でまるでけものの子のように生きている・・・。

二人の闘いと交流、安の「授業」とれんの変容の過程は、ほぼ舞台の通りですが、よりすさまじい場面があったり、日本の旧家ならではの陰もあったり、独特のアレンジがほどこされています。

大きく違うのが、れんの成長を促す存在として登場する、三味線弾きの少女・キワです。彼女との交流が、この物語を貫く大きな柱となっています。

人には無限の可能性がある。生きる意味がある。それを信じることができれば。・・・そんなことを考えさせられました。

2014年6月21日 (土)

ユニコーン

2141「ユニコーン」 原田マハ   NHK出版   ★★★

サブタイトル「ジョルジュ・サンドの遺言」。中世美術の傑作、「貴婦人と一角獣」のタピスリー。そこに描かれた貴婦人は、ジョルジュ・サンドに助けを求めていた。幻想的で魅惑的な物語。

ジョルジュ・サンドといえば、ショパンとの恋愛というイメージだったのですが、こういう生涯を送った人だったのですね。彼女の感性がとらえた「貴婦人と一角獣」というのが、とても魅力的でした。

実際、あのタピスリーに魅せられたジョルジュ・サンドの著作も併せて収録されています。

短くて断片的な物語なので、ちょっと物足りない感もありましたが、「貴婦人と一角獣」のカラーページが素敵でした。

2014年6月16日 (月)

永遠をさがしに

2138「永遠をさがしに」 原田マハ   河出書房新社   ★★★★

有名な指揮者の一人娘・和音(わおん)。元チェリストだった母に、幼いころからチェロを仕込まれたが、もうやめてしまった。そして、音楽にすべてを傾ける父に愛想をつかしたのか、母は出て行ってしまった。心通わぬ父と取り残された和音の前に、ある日「新しいお母さん」が現れた。

題名は「とわをさがしに」と読みます。ウェブで連載されていたもののようですね。主人公が高校生で、YAっぽい話でした。

登場する女性が、みんな素敵です。和音の母・時依。新たに母として和音の前に登場する真弓。タイプは違うけれど、どちらも強く、そして音楽を心から愛している。そういう人たちに囲まれて、和音が音楽に目覚めないはずはないですね。

しかし、彼女たちは過酷な運命に見舞われるのですが(そこまで?と言いたくなるほど)、その中でも凛とした姿で生きる彼女たちは、とても魅力的でした。

チェロという楽器は、以前は興味がなかったのですが、ロストロポーヴィチの生演奏を聴いてから、大好きな楽器になりました。あの音色の豊かさと切なさが、この物語に実にマッチしていると感じました。

クライマックスでは、ちょっとうるうるきてしまいました。

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