原田マハ

2019年2月20日 (水)

常設展示室

2862「常設展示室」 原田マハ 新潮社 ★★★★

ニューヨーク、メトロポリタン美術館に勤務する美青は、それなりに充実した毎日を過ごしている。好きなアートに関わる仕事に就けたのは幸せ。そう思っていた美青に異変が…。


「群青」「デルフトの眺望」「マドンナ」「薔薇色の人生」「豪奢」「道」の6編。

特別展の目玉になるようなものではないけれど、その美術館に行けば会える作品。そんな「常設展示室」の作品をと一瞬交わる名も無き人たちの人生。

アートはとくべつなものじゃないよ。でも、アートには人を動かす力があるよ。…原田マハさんのそんな声が聞こえてくるような作品集でした。

物語としては「道」がよく出来ていて、印象に残るのですが、「デルフトの眺望」「マドンナ」あたりもすごく好きです。親の老いに直面するのってキツいよねぇ…と思いながら読んでました。「薔薇色の人生」の展開にはびっくりしましたが(笑)、ラストがいいですね。先日読んだ「フーテンのマハ」で知ったマハさんのお茶目さを思い出しました。

2018年11月14日 (水)

フーテンのマハ

2817「フーテンのマハ」 原田マハ   集英社文庫   ★★★

しょっちゅう旅をしている「フーテンのマハ」こと原田マハさん。友人との「ぼよグル」旅や、編集者との取材旅行、アートを題材にした小説の取材旅行まで、マハさんの旅行エッセイ。

マハさんの生き方って、すごく憧れるんですけど(笑) 自分には絶対できないという思いもあるから、よけいに。

そんなマハさんが作家デビューするきっかけになった沖縄旅とか、取材旅行の話が、やっぱりおもしろかったです。キュレーター時代のバリバリだったマハさんがやらかした話も好きですけど(笑)

私はどちらかというと、ひとところにじっとしていたい方で、旅行はたまにでいいや・・・と思うのですが、じっとしてられない人もいますものねえ。寅さんのように。そういうの、私にとっては憧れなのです。だから、とても楽しんで読ませていただきました。

しかし、ラストの話がそうくるとは思ってませんでした。全くノーガードだったので、ちょっと「うっ」となりました。めぐりあわせって、あるんですねえ・・・。

2018年6月14日 (木)

たゆたえども沈まず

2757「たゆたえども沈まず」 原田マハ   幻冬舎   ★★★★

パリに行きたい。19世紀末、その夢をかなえてパリにやってきた加納重吉。日本での先輩・林忠正が助手として呼び寄せてくれたのだ。林は、パリで画商として活躍していた。折も折、空前のジャポニズムのブームにわくパリで、林と重吉は、浮世絵の販売で確固たる地位を築いていく。彼らは、浮世絵を通して、画廊の支配人・テオドルス・ファン・ゴッホと兄のフィンセントと知り合う。「画家の卵」のフィンセントを支えるテオと、重吉は急速に親しくなっていくが・・・。

原田マハさんアートもの新作、やっと読めました! なんたって、ゴッホ! 表紙が大好きな「星月夜」! ゴッホをどんなふうに描いてくれるんだろうと、楽しみで仕方ありませんでした。

意外だったのは、林忠正と加納重吉という、二人の日本人が絡んでくること。しかも、フィンセントとテオの兄弟にとって、林たちはなくてなならない存在になっていくのです。

まだまだ日本人が侮蔑の対象であった時代、花の都パリで商売をするのは並大抵の苦労ではなかったでしょう。それをやりとげた林忠正という人物(参考文献を見るに、実在したのですね)の凛とした生き方が、新しいアートの芽を育み、ゴッホという大樹になるまでに育てたのだという構成が、実に見事でした。

もちろん、フィンセントと双生児のように魂を分け合った弟・テオのことも、存分に描かれています。テオなくしては、ゴッホは生まれなかったでしょう。

そして、林の助手でありながら、兄弟の良き友人となった重吉の視点は、私たち読者のそれに最も近く、ごく自然に19世紀のパリに、新しいアートの世界に、私たちを誘ってくれます。

最後まで読み終えて、もう一度冒頭の場面に戻ると、あの老人が何者だったのかがわかります。そして、彼が持っていたあの手紙。いったいいつ、あの手紙は書かれたのでしょう。日付を頼りに本文に戻っても、見つけられなかったのですが・・・。そんなふうにして、彼は兄弟を励まし、支えていたのだと、胸が熱くなりました。

2017年9月21日 (木)

いちまいの絵

2638「いちまいの絵」 原田マハ   集英社新書   ★★★★

アートを愛し、アートに関わって生きていた作家・原田マハによる、26点の絵画の紹介。

副題「生きているうちに見るべき名画」というのがちょっと鼻について、なかなか手が出せずにいました。「~すべき」と言われると逆らいたくなるへそ曲がりなもので(苦笑)

でも、原田さんの目は確かだし、美術ものの小説も好きだし、やっぱり読んでおこうかな、と。

原田さんの小説のモチーフになった作品はもちろん、原田さんが強い印象を受けた絵画が26点、カラー図版つきで紹介されています。

絵画について詳細に語るというよりは、原田さんが感じたことと画家の紹介等がさらりとした文章で綴られています。そこには「見るべき」という押しつけがましさはなく・・・。

おもしろかったのは、原田さんが、どこで、どんな状況でそれらの絵画と出会ったのか、どんな状態で展示されていたのかなどが説明されていること。まるでこちらもその場で、絵画と対面しているような気持ちになりました。

2017年2月25日 (土)

星がひとつほしいとの祈り

2542「星がひとつほしいとの祈り」 原田マハ   実業之日本社文庫   ★★★★

道後温泉で盲目のマッサージ師と出会ったコピーライターの文香。その人は、かつて令嬢と呼ばれるような生活を送っていたのだという。彼女の若き日の恋と、献身的に仕えてくれた女中との絆を聞いた文香は・・・。(「星がひとつほしいとの祈り」)

原田マハは好きな作家ですが、主に読むのは美術系の作品。それも、図書館で借りて・・・と、なんとなく決めています。ところが、これは書店でたまたま見つけて、買ってしまいました。帯のコピーに引かれたからです。

「人生の節目に何度も読み返したい一冊です!」

それなら、手元においてみようか、と。

収録されているのは、7つの短編。20代から50代まで、さまざまな年齢の女性が主人公。

2話目の「夜明けまで Before the Daybreak Comes」でやられました。シングルマザーとしてひかるを生み育ててきた母・あかりが死去。女優だった母は、奇妙な遺言をひかるにのこしていた。遺言どおり、ある町を訪ねると、そこには・・・という物語。それぞれに自分の思いを引き裂かれながら、懸命に生きてきた人たちの姿に、思わず涙してしまいました。

どの話の主人公も、何か思い通りにいかないぎくしゃくしたものを抱えていて、あるいは大きな喪失を抱えていて・・・ある人はそれをなんとか笑い飛ばそうとしていたり、ある人はそこで立ち止まってしまっていたり。それでも、過ぎていく日々の営みの中で見せる彼女たちの表情は、決して他人事とは思えないのでした。

そして、彼女たちにもたらされる、ほんの少しの救い。それが、こちらの心までふっと緩ませてくれる、そんな物語なのです。この感じ、どこかで知ってる・・・と思ったら、藤田香織さんの解説を読んで、「あっ!」と。「旅屋おかえり」でした。納得。

この短編集も、日本各地を舞台にしています。私が土地鑑があるのは、「寄り道」の男鹿半島・白神山地くらいでしたが。

たしかに、これは「何度も読み返したい」本かもしれません。

2016年8月12日 (金)

暗幕のゲルニカ

2462「暗幕のゲルニカ」 原田マハ   新潮社   ★★★★

ニューヨーク近代美術館のキュレーターである瑤子は、ピカソの「ゲルニカ」を、プラド美術館から借り受けるべく奔走していた。それは、9・11のテロで亡くなった夫のためでもあった。しかし、交渉はうまくいかず、さらに衝撃的な出来事が・・・。

「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」を経て、ここにたどり着いたのね・・・と、感慨深く読みました。

「ゲルニカ」制作中のピカソを、その愛人・ドラの目を通して描くパートと、MoMAのキュレーター・瑤子がその「ゲルニカ」を借りるために奔走する現代のパートとが交互に描かれ、物語が展開していきます。

なんといっても圧巻なのは、「創造主」パブロ・ピカソの人物像です。1937年から1945年までの彼が描かれますが、決して「いい人」ではないのに、その魅力にとらわれてしまいました。また、彼の愛人として後世に名を残したドラ・マール(「泣く女」のモデル)の存在感も、物語に強い力を与えています。

彼らが「ゲルニカ」を制作する過程は、実に興味深く、原田マハ渾身の筆だったのではないでしょうか。

一方、現代パートは、ちょっとなじめない感じで読んでいたのですが、途中で「過去」と「現在」がつながったときには、鳥肌が立ちました。そういうことだったのか、と。

読み終えて、作品冒頭に掲げられたピカソの言葉の意味が、重く胸に残りました。

「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」

2016年1月17日 (日)

ロマンシエ

2403「ロマンシエ」  原田マハ         小学館          ★★★★

見た目はイケメン。だけど心は乙女な美智之輔は、アーティストに憧れる美大生。そんな美智之輔に、パリ留学のチャンスが!  そして、そこでは思わぬ出逢いが待っていた。

美智之輔のキャラに最初はドン引きしてたのですが(苦笑)
…だって、妄想力すごいんですもん。でも、日本では息が詰まってたんだろうなとか、ハルさんやムギさんの前で見せる素の表情とか、だんだんいとおしくなってきちゃいました。

だから、高瀬君に失恋した場面では、思わずもらい泣きしてしまいました(苦笑)  なんというか、ハルさんが書きたい小説そのままですね。参りました。

それから、リトグラフというものに対する価値観が変わりました。単なる印刷物ではないのですね。現代アートについての考え方にも、ハッとさせられました。

とってもキュートで、読むとちょっと元気になれるような、そんな物語でした。

 

2015年6月17日 (水)

モダン

2310「モダン」 原田マハ   文藝春秋   ★★★★

ニューヨーク近代美術館MoMAを舞台にした5つの短編集。

「中断された展覧会の記憶」「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」「私の好きなマシン」「新しい出口」「あえてよかった」の5編。

いちばん印象的だったのは、「中断された~」です。これって、実際にあった話なのでしょうか。3.11で中止になった展覧会の目玉作品を福島に引き取りに行く話です。作者がひどく冷静にこれを書こうとしているのが、抑制された文章から伝わってきました。それが、ラストでぶわっとあふれる感じが、とても好きでした。

「ロックフェラー~」は、MoMAの警備員が見た「幽霊」の話。それにつながるように、「私の好きなマシン」が配置されています。どちらもいい話でした。

「新しい出口」は、9.11の話で、読んでいてつらくなることも。ただ、「楽園のカンヴァス」とのリンクがあって、思わずニンマリ。マティスとピカソの関係、おもしろそうです。

「中断された~」でとりあげられていた、ワイエスの「クリスティーナの世界」を見たくてたまらなくなりました。

「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」がお気に召した方にはおすすめの一冊です。

2015年6月 3日 (水)

異邦人(いりびと)

2301「異邦人(いりびと)」 原田マハ   PHP   ★★★

銀座の老舗の画廊の専務・篁一輝と結婚した菜穂。出産を控えて京都に滞在していた菜穂は、退屈しのぎに京都の画廊に出かける。自らも美術館の副館長で審美眼には自信のある菜穂は、一枚の絵に心奪われる。まだ無名の若き女性画家・白根樹(たつる)の作品だった。彼女は美しい人だったが、声を失くしていた・・・。

「異邦人」と書いて「いりびと」と読みます。

原田マハの絵画ものときいて飛びついたのですが、絵そのものよりも、絵画にとりつかれ、ふりまわされる人間の業のようなものがテーマでした。ちょっと私の好みとは違ったようです。

だいたい、登場人物の誰ひとりとして共感できないのです。菜穂も、一輝も、なんというかついていけない・・・。樹の生い立ちもあっさり書かれていて、彼女の境遇にもあまり感情移入できず。というか、樹って怖い。

それぞれの美に対する執着とか、菜穂の出生の秘密とか・・・業の深さはひしひしと伝わって、息苦しいような思いで読みました。

舞台になっている京都の四季の風情は、とっても素敵でした。でも、京都の異邦人は、一輝たちだったのですね。

2015年4月 2日 (木)

翼をください

2260「翼をください」 原田マハ   毎日新聞社   ★★★★

暁星新聞社の青山翔子は、ひょんなことから戦前、自分の社の飛行機が世界一周飛行を成し遂げたことを知る。その飛行機に乗っていたというカメラマン・山田順平をアメリカに訪ねた翔子は、アメリカの女性パイロット、エイミー・イーグルウィングにまつわる想像を絶する話を聞かされ・・・。

綿密な取材に基づいた、壮大な物語です。ただし、あくまで人間のドラマです。飛行機による世界一周がとんでもない冒険だった時代、飛ぶことに憑かれた人々の。

開戦2年前に毎日新聞社が海軍の飛行機の提供を受けて、世界一周飛行をしたという事実があるのだそうです。それは、GHQによって抹消された事実であるらしい。この事実を徹底的に調べて小説化したのが、この作品です。、さらに当時アメリカで有名なパイロットだったアメリア・イアハートの失踪事件を絡め、スケールの大きな物語になっています。

前半は、エイミーの話。次々に飛行記録をたたき出す女性パイロットとして世間の注目を集めるエイミー。女性の社会における権利がまだ低かったころ、彼女の活躍はさまざまな人に勇気を与えます。大統領とも謁見し、いよいよ世界一周飛行に挑戦するさなか、彼女の周りに不穏な空気が。国家の陰謀に気づいたエイミーは、太平洋上で機体とともに「失踪」します。

後半は、山田順平ら「ニッポン号」の世界一周飛行の話。選ばれた7人のメンバーのほかにもう一人、謎の搭乗員が現れます。それは、失踪したはずのエイミーで・・・。

もちろん、小説なのでフィクションです。ただ、エイミーのモデルになったアメリア・イアハートのことと、ニッポン号の存在が、物語にすさまじい力をもたせています。飛行の場面の臨場感はすばらしかったです(私は飛行機のことはわかりませんが)。

エイミーと順平たちが力を合わせて一緒に飛ぶこと、それこそが「世界は一つ」を実証していたのかもしれません。

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