冲方丁

2019年2月12日 (火)

麒麟児

2860「麒麟児」 冲方丁   角川書店   ★★★★

勝海舟と西郷隆盛。江戸無血開城を実現させた二人の「麒麟児」は、その時、何を思っていたのか。歴史の転換点に大きな足跡を残した二人の覚悟と決断とは。

「徳川の殿軍」という言葉が、ふっと脳裏に浮かびました。どこで見たのだったか・・・。まさに、徳川幕府の終焉に立ち会い、最後の最後まで戦い続けた男・勝海舟。かねてから興味のあった人物です。

この物語は、江戸無血開城を決めた西郷・勝の会談がいかになされたのか、勝の視点で描かれていくものです。勝海舟は、あの幕末においてとんでもない貧乏くじを引かされたような人ですが、その渦中において異様な有能さを発揮した人物。それでいて、言動については毀誉褒貶も激しく、なんともつかみどころのない人だったのですが。

いやあ、おもしろかったです。一番おもしろかったのは、徳川慶喜との関係性です。あくまで小説なので、作者の想像になるものなのはわかっていますが、勝の慶喜に対する見方が、実に興味深かった。私の中でずっとモヤモヤしていた「慶喜像」に、一つの方向性を見出した気分です。

それから、いわゆる「新政府」とは何だったのか、大政奉還、さらに王政復古とは何だったのかという思いに対する勝の答えも、すごく腑に落ちるものでした。

もっと勉強しないと、知らないことがたくさんありすぎだなあ。

2018年1月 7日 (日)

戦の国

2691「戦の国」 冲方丁   講談社   ★★★★

戦国の世はいかにして成ったのか。歴史に名を残した6人・・・織田信長、上杉謙信、明智光秀、大谷吉継、小早川秀秋、豊臣秀頼、それぞれの視点から描く、戦の国とは。

歴史に名を残さない人たちがつくる歴史に興味をもつようになってきたのですが、今回はあえて真逆の方向のものを。歴史好きなら(そうでなくても)名前を知っているだろう6人が、どのような目で「時代」を見ていたのかを描いた連作。「決戦!」シリーズに別々に掲載された6篇ですが、見事に連作になっています。

ある意味、書き尽くされた感のある人々なので、どんなふうに新鮮味を出すのかなあと思っていました。斬新な解釈はなかったですが、その時代にいる人の視点で書いているようで、説得力がありました。

戦というものの特異性。指揮官であるがゆえに必要なこと。戦の中でこそ生きる才能もあるということ。太平の世が来ることの意味を考えさせられました。

2014年6月 8日 (日)

はなとゆめ

2136「はなとゆめ」 冲方丁   角川書店   ★★★★

清少納言と呼ばれた彼女は、なぜ「枕」を書くに至ったのか。中宮定子に仕えた清少納言が見た、この世の華とは。

「天地明察」「光圀伝」ときて、いきなり平安時代ということでとまどいましたが・・・いやあ、よかったです。

森谷明子さんに「源氏物語」を書いた紫式部を主人公にしたミステリ三部作がありますが、それと対をなすようなおもしろさでした(もちろん、こちらはミステリではありません)。

なんとなく、「枕草子」を「源氏物語」より軽く見ていましたが、まったく新しい形の文学を世に出したという点において、すごいことなんですね。随筆というジャンルといい、和歌や漢詩といった規制の感性にとらわれない視点といい。

そして、清少納言が自分のために、あるじのために、書かずにいられなかったというのは、ものすごい説得力がありました。

やはり、千年読み継がれるというのは、並大抵のことではないですよね。そんなことをしみじみ考えさせられました。

それから、中宮定子という人物に、俄然興味がわいてきました。悲劇のプリンセスというイメージだったのですが、この物語の中の定子の雄々しいこと! 素敵でした。

2013年9月 5日 (木)

光圀伝

2047「光圀伝」 冲方丁   角川書店   ★★★★

徳川光國、字は子龍。初代水戸徳川家の頼房の世子。しかし、彼は人知れずある悩みを抱えていた。やがて、自ら信じる「義」のために生きる決意をする・・・。

「天地明察」に登場していた光圀さま。彼を主人公にした長編を執筆中・・・というのはすでに公表されていましたが、いざ刊行されると、あまりの分厚さに手に取るのをためらって、今に至りました。

光圀が「水戸黄門」のイメージそのままの好々爺でなく、むしろ過激なまでの「天下の副将軍」であったことは知っていますが、具体的にどのような人生を送った人物なのか、知りませんでした。徳川御三家のひとつ、水戸家の当主として何の不足もない一生を送ったようでいて、闘いの連続であった光圀。この物語は、戦国の世から文治の時代に移行する中で、詩で天下をとらんとする人物として光圀を描いていきます。その設定が、ものすごく新鮮かつ魅力的でした。

これほど長い物語なのに、読ませる力はすごいものがあります。さすがに一気に読むことはできませんでしたが、750ページ、少しもだれることなく読み切りました。

光圀の生涯も読みごたえがありましたが、それ以上に、この物語の大きなたくらみにめまいがしました。・・・そういうことでしたか。もちろん、その後を知っているから書けることではありますが。

堪能しました。

2010年6月20日 (日)

天地明察

1516「天地明察」 冲方丁   角川書店   ★★★★★

碁の芸をもって幕府に仕える二代目安井算哲こと渋川春海は、碁の勝負よりも算術に心を惹かれていた。ある日、算術の奉納絵馬を見に行った神社で、春海がなかなか解けなかった問題を一瞥即解、たちどころに解いてしまった人物がいた。「関」という署名を頼りに、春海はその人物を追うが、それは春海を自分でも想像もしなかった高みへ昇らせる、運命との出会いでもあった。

なんだ、これは!

それが読み終えての、正直な感想です。読みながら何度も胸が熱くなり、時に涙し、ドキドキし、せつなくなり、感動し・・・。熱にうかされたようになって読み終えました。

本屋大賞1位。吉川英治文学新人賞。納得です。歴史小説にして、青春小説、そして壮大なスケールの人間ドラマで、上質のエンタテイメントでした。

碁打ちにして数学者でもある渋川春海が、新しい「暦」を作るまでの約20年の物語。若い春海は碁打ちとしての才能を認められながら、そこに生きる意味を見いだせず、算術にのめりこみます。そこで、のちの「和算」の発明者・関孝和と出会い、勝負を挑んでいくのですが・・・。この二人の天才の勝負が、実によいのです。わかりあえる仲間がいるというのは、人生の宝だなというのを、つくづく感じます。

そして、春海は幕府の命により、日本全国をまわり、天体観測をする一隊に加わります。それには算術の知識が必要で、関との勝負で大失態を演じた春海は、その旅で気力を取り戻し、壮年の建部や伊藤にある夢を託されます。それが、のちに改暦という一大事業につながっていくのです。

とにかく、物語のスケールの大きさに圧倒されますが、ヨタヨタしていてすぐ弱気になる春海が、自分の人生を挫折を繰り返しながら切り開いていく姿に、とにかく感動します。そして、春海を支える人たち・・・友であり、師であり、先輩であり、後援者であり、妻であり・・・そういう人たちの人生が春海とクロスすることで、渋川春海が人として成熟していき、誰も成し得ないような大事業をやりとげる。春海の純粋さと、人々が春海に対して見せる思いの深さに、何度も涙腺が緩みました。

序盤の算術の部分は、みなが楽しんで学問をしている様子が、読んでいても楽しかったです。学問というか・・・好きで好きでしかたないのですね、彼らは。子供のように算術に取り組んでいる。ものすごい情熱を傾けている。思わずこちらまでにこにこしてしまいました。

碁よりも算術を、やがて暦を作ることを己の使命とした春海ですが、彼の改暦事業がまた碁のような乾坤一擲の大勝負になっているところが、なんとも心憎いというか・・・春海のように柔軟な心で生きていれば、無駄になることなどないのではないかと感じました。

登場人物の9割が男性ですが、2人の女性・・・「こと」と「えん」が、とても素敵でした。特に、えんと春海のやりとりは、とても好きです。

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