海外の作家

2020年8月 8日 (土)

ハーリー・クィンの事件簿

3074「ハーリー・クィンの事件簿」  アガサ・クリスティ      創元推理文庫      ★★★

他人の人生の観察者であり続けた老紳士サタスウェイト。しかし、ある日ハーリー・クィンと名乗る人物に出会ったことがきっかけで、サタスウェイトはその観察眼を生かし、事件の謎を解きはじめる。


ポアロともミス・マープルとも違う、ハーリー・クィンものの短編集。12編を収録。

「三幕の殺人」に登場したサタスウェイトは、こちらのシリーズの事実上の探偵役なのですね。

何者なのかよくわからないハーリー・クィンが触媒となって、サタスウェイトがその観察眼を生かした推理を展開するといった、一風変わったミステリ。ちょっとホラー風味もあって、クリスティのストーリーテラーぶりが楽しめます。


2020年4月29日 (水)

三幕の殺人

3030「三幕の殺人」  アガサ・クリスティー      ハヤカワ文庫      ★★★

引退した俳優・チャールズのホームパーティーで、牧師が不可解な死を遂げた。さらに、第二の殺人が。チャールズとその友人たちは真相を明らかにしようと奔走するが、事態は難航する。真実の鍵は、エルキュール・ポアロに託される。


地元図書館も閉館しちゃったので、これからは積ん読消化&再読期間です。幸い、本だけは山のようにある…(笑)

というわけで、これは積ん読本。久しぶりのクリスティです。

まあ、犯人はわかっちゃうんですが、こういう芝居がかった構成が、クリスティは上手いですね。実に「読ませる」のです。

俳優のチャールズ、その友人で芸術のパトロンであるサタースウェイト、チャールズに恋する若いエッグという3人がメイン。彼らのやりとりや、それぞれのキャラ設定がなかなかおもしろかったです。



2020年2月25日 (火)

償いの雪が降る

3007「償いの雪が降る」  アレン・エスケンス      創元推理文庫      ★★★★

大学の授業で身近な年長者の伝記を書かねばならないジョーは、介護施設で元服役囚のカールを紹介される。三十数年前に少女をレイプし殺したという老人は、末期がんにおかされていた。カールの話を聞くうちに、ジョーは事件の真相を知りたいと思うようになるが…。


いろんな意味で予想が覆されました。

物語の重苦しさの質とか、ジョーの抱えているものの重さとか(母のこと、弟のこと、祖父の死のこと)、事件の決着のさせ方とか。こんな感じかなと漠然と予想していたことは、ほぼ外れました。  当たっていたのは、真相くらい(苦笑)  でも、不快ではなく。面白かったのです。

読み終えて感じたのは、非常にアメリカっぽいストーリーだということ。タフな主人公がひどい目に遇いながら事件を解決し、最後には大団円を迎え、笑顔で終わる。どちらかというと苦手なタイプの話なのに、かなり夢中になって読みました。

理由は、訳者・務台夏子さんのあとがきを読んでわかりました。務台さんは、主人公のジョーに惚れ込んでいるようで。生活力のない母と自閉症の弟ジェレミーを抱え、必死でお金を貯めて大学生になった苦労人。言動はイマドキの青年だけど、妙なタフさとしぶとさがあり、ピュアなところもある。たしかに、なんだか応援したくなるのです。それが、この物語の原動力になっているのでした。

去年は海外ミステリをあまり読めなかったので、今年は積ん読本から片付けていこうと思ってます。


2019年10月21日 (月)

チェルノブイリの祈り

2959「チェルノブイリの祈り」 スベトラーナ・アレクシエーブッチ   岩波現代文庫   ★★★★

1986年、チェルノブイリ原発事故。未曾有の危機に否応なしに直面させられた人々の声を集めたドキュメント。

 

ノーベル文学賞受賞作家の作品ということで購入したものの、長いこと積読してました。でも、先日読んだ「戦争は女の顔をしていない」がすごかったので、その勢いで読破しました。

まず、冒頭の消防士の妻・リュドミーラ・イグナチェンコの証言に、頭をぶん殴られた気がしました。以前「朽ちていった命」(東海村臨海事故のドキュメント)を読んで、被曝した人がどうなるか知っていたつもりでしたが・・・すさまじかった。信じられないことの連続で、言葉を失うとはまさにこのこと。

そこから、さまざまな立場でチェルノブイリに関わった人たちの証言が続くのですが・・・。感じたのは、福島の原発事故と同じだということ。

知らない。だから、理解できない。起こるはずがない。そもそもそういう想定をしていない。受け止められないから、なかったことにする。・・・私を含め、あの事故当時(そして、現在までも)、私たちが直面した「わけのわからなさ」「言葉で説明できない不安」が、ここにすでにあったのです。

つまり、私たちは過去の事例から何も学ばず、同じことを繰り返してしまっているのだ、と。

「戦争は女の顔をしていない」は、すさまじい独ソ戦の証言集でした。読むのはけっこうしんどかったのですが、それでもこの本よりは楽でした。なぜか。自分と直接つながるものではないから(第二次大戦は、「近い過去」のことでしかない)。そして、「戦争」というテンプレートを、すでに我々はもっているから。しかし、原子力がもたらず被害について、我々はまだ語る言葉と、一般化して考えうるだけの経験をもたないのです。

そう、チェルノブイリに関わった人々の言葉から、一番強く感じたのは怒りより悲しみより、「困惑」でした。これはいったい何なんだ?という。わからないのです。経験したことがないから。こういう事態に対する、人類の経験値は低いから。

読み終えても、何かがわかるわけでもなく、読者もまた困惑・混沌の中に放り込まれたまま。それでも、生きていく人間として、私たちは何を見出せばよいのでしょうか。

ただ、「祈り」という題名をつけた意味、そして「未来の物語」という副題の意味は、わかった気がします。

2019年9月19日 (木)

戦争は女の顔をしていない

2948「戦争は女の顔をしていない」 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ   岩波現代文庫   ★★★★★

第二次世界大戦中、ソ連では百万人を超える女性が従軍した。自ら志願した者、兵士として前線に立った者、戦争の修羅場をくぐり抜けて生還した者。しかし、彼女たちは戦後は沈黙を強いられた。五百人以上の従軍女性から聞き取りを行い、見えてきた戦争の真の姿とは。

 

ツイッターでこの本の存在を知り、書店で手に取りました。著者は「チェルノブイリの祈り」でノーベル賞を受賞した方。(「チェルノブイリ~」は積読中)

ソ連軍に女性兵士がけっこういた・・・というのは知っていましたが、こんなにたくさん! しかも志願した十代の少女たちも! 最前線にも多数の女性兵士が! という事実にただただ唖然とさせられました。

対ドイツの戦争で、ソ連に攻め込んだドイツ軍を追い返そうと、復讐しようと、自国の勝利を信じて、従軍した女性たち。中には、年齢が足りないのに志願した人たちも多かったのです。徴兵担当の部局に直訴したという人が、少なからずいました。そんな彼女たちが送られた前線では、もちろん容赦ない戦闘が。彼女たちは、否応なしに戦争の現実に直面します。そして、戦争から生きて帰った彼女たちを待っていたのは、理由なき差別。戦争について語ることはもちろん、兵士であったことすら語れない人たちも。

「戦争は女の顔をしていない」というタイトルが、実にさまざまな意味をもって、重くのしかかってきます。

著者が、元兵士たちにインタビューをし、彼女たちの語り口調をできるだけ再現する形でまとめたのが、本当に意味あることだったと思います。感じ方はそれぞれで、過去のことをどう受け止めているかもさまざまで。それでも、彼女たちの生の声が聞こえてくるような文章を読んでいると、今、目の前で元兵士の女性が語っているような気がしてくるのです。本当に、こんなことがあったのだ、と。

著者がこの本を世に出すまで、想像を絶するような苦難があり、現在も故郷のウクライナで生活できないこと。これをどうにかして日本で出版したいと和訳に取り組んだ三浦みどりさんの思い。いろんな重いものを抱えつつ、それでも読む価値のある作品だと、声を大にして言いたいのです。

 

 

2019年4月16日 (火)

風と共に去りぬ 第1巻

2886「風と共に去りぬ 第1巻」 マーガレット・ミッチェル   新潮文庫   ★★★★

アメリカ南部の大農園「タラ」の娘として生まれたスカーレット・オハラ。何不自由ない生活をしていた彼女だが、想い人のアシュリがメラニーと結婚すると聞き、愕然とする。思い余って、アシュリに思いを告げるが玉砕。その一部始終をレット・バトラーに目撃されてしまう。激怒したスカーレットは、好きでもない男と結婚してしまうが、夫は南北戦争へ参戦、戦地で病死してしまう。未亡人となったスカーレットは、アトランタでレット・バトラーと再会するが・・・。

 

この新訳版の訳者・鴻巣友季子さんの「謎とき『風と共に去りぬ』 矛盾と葛藤に満ちた世界文学」があまりにもおもしろかったので、読まずにいられるかー!と、勢いで読み始めました。(夫には「旧訳ならあるよ~」と言われましたが、鴻巣訳を読まねば意味がない!と却下)

映画は何度も観ましたが、原作は初めて。「謎とき~」で下準備ができていたので大丈夫でしたが、いきなり読んだら挫折したかもしれません。スカーレットの両親の生い立ちも、こんなに詳しく描かれていたのですねえ。スカーレットがアトランタに行く前後のことが、よくわかっていなかったのですが、今回、やっと納得しました。(というか、人間関係もよくわかってなかった・・・)

しかし、スカーレットって・・・。けっこうとんでもないお嬢さんなんですけど(苦笑) ただ彼女には不思議なたくましさがあるのですよね。生きるためのたくましさ。ふてぶてしいとも言うけれど。やはり、そこには惹かれるのです。

まだまだ物語は序盤なので、ぼちぼち読んでいこうと思います。全巻読み終えたあと、何をどう感じているのか、楽しみです。

 

2019年3月18日 (月)

82年生まれ、キム・ジヨン

2874「82年生まれ、キム・ジヨン」 チョ・ナムジュ   筑摩書房   ★★★★★
キム・ジヨンの言動がおかしくなったのは、2015年秋。33歳、一児の母であるジヨンにいったい何があったのか。


とにかく話題になっているので、書店でちょっと立ち読み。あっという間に20ページほど読んでしまって、これは続きを読まねば!と。

「二〇一五年秋」から始まって、「一九八二年~一九九四年」「一九九五年~二〇〇〇年」「二〇〇一年~二〇一一年」「二〇一二年~二〇一五年」「二〇一六年」という区分で、キム・ジヨンという女性の人生が記録されていきます。

おそらく、女性ならば、他人事とは思えないでしょう。私は登場する女性たちとは微妙に世代がずれるのですが、私が経験したこと、母の世代が経験したことなど、何かしら「思い当たる」ことがありました。一つならず。読んでいて思ったのは、「私だけではなかった」ということ。それから、「日本だけではなかった」ということ。なぜ、女だというだけでこんな悔しさを味わうのかと思ったことがあるのは、実は世界のどの国でも起こっているのだということ、でした。

これは小説ですが、決して感情的に読者に訴えるのではなく、事実を淡々と記録しているような文体です(それは、理由があるのですが)。それゆえ、こちらもしごく冷静に、ジヨンたちが直面する理不尽を受け止められました。もっとも、最後の最後には愕然とさせられましたが。

要するに、経験したことのないことは、わからないのだということなのですね。ジヨンの夫、チョン・デヒョンだって、決して悪い夫ではありません。むしろ、ジヨンを愛しているし、大事にしようとしている。でも、彼には決定的に理解できないところがあるのです。しかし、わからないで終わるのではなく、声を上げること。また、それを聞くこと。どうすれば生きやすい世の中になるのか、皆で考え、行動していくことが大事。難しいけれど。

筆者のあとがきには、こんなくだりがあります。
『娘が生きる世の中は、私が生きてきた世の中より、良くなっていなくてはなりません』

同感です。


2019年3月 5日 (火)

クロストーク

2867「クロストーク」 コニー・ウィリス   早川書房   ★★★★★

携帯電話メーカー・コムスパン勤務のブリディは、恋人のトレントに誘われて、EEDという脳外科手術を受けることに。パートナーの気持ちがダイレクトに伝わることになるという画期的なその手術を受けることは、口うるさい親族たちにはもちろん内緒。コムスパン一の変人・CBには反対されたが、それを押し切って処置を受けたブリディ。しかし、彼女が接続した相手は!?

コニー・ウィリスは「ドゥームズデイ・ブック」を読んで圧倒されて以来、ご無沙汰していました。ほかのも読んでみたいけれど、どれも長くて(苦笑) もともとSFはそれほど得意じゃないし。「クロストーク」は図書館で見つけたので、思い切って手に取った次第(ちょうどほかに読みたい本がなかったし)。

いやーーーーーおもしろかった! アメリカの恋愛コメディを見ているような。主人公のブリディが、次から次へと「なぜそうなる!」という方向へ進んでいったり、ここでひと段落・・・と思った瞬間に意外な展開が降ってきたり。正直言うと、私好みの話ではないのですが、苦手な要素がことごとく楽しめたという意味で、これはすごかったです(笑)

とにかく、CB! 彼が最高でした。それから、ブリディの姪のメイヴ。彼らがとってもキュートで、途中からはニマニマしっぱなしでした。

「ドゥームズデイ~」のときは、もっと重苦しい印象があったけど(まあ、あれはペストの話だったし・・・)、こんなポップな話も書くのですね。

何を書いてもネタバレしてしまう気がするので、自粛します。2段組700ページ超で、読むのに4、5日要しましたが、それでも全然ダレることなく、最後まで楽しんで読みきれました。

2019年2月26日 (火)

ずっとお城で暮らしてる

2865「ずっとお城で暮らしてる」 シャーリイ・ジャクスン   創元推理文庫   ★★★

メアリ・キャサリン・ブラックウッド(メリキャット)は、家族が殺されたお屋敷で、姉のコンスタンス(コニー)と暮らしている。その満ち足りた暮らしを崩壊させたのは、従兄のチャールズの来訪だった。

深緑野分さんがおすすめしていたし、解説は桜庭一樹さんだし・・・と、つい手にとってしまいました。あまり長くなさそうだし(笑)

なんというか・・・美しい悪夢を見ているような、不思議な物語でした。

どこまでが現実? というか、そもそも何が現実?という。読んでいるうちに、自分が物語の中に飲み込まれてしまう感じがしました。

外界の悪意は不快だけれど、屋敷の中ではとりあえず幸せな時間が流れているブラックウッド家。ところが、チャールズの登場で、メリキャットとコニーのバランスが崩れ、やがて思わぬ事件に発展する。いや、そもそも物語の発端である殺人事件の犯人とは・・・?

恐怖小説の書き手として名を馳せた作家らしく、明快な謎解きや解決というのではなく、まさに「ずっとお城で暮らしてる」という題名にふさわしいラストを迎えます。

なんというか・・・好きな話ではないけれど、ずっと忘れられない物語になることは確かです。

2019年1月30日 (水)

禁忌

2854「禁忌」 フェルディナンド・フォン・シーラッハ   東京創元社   ★★★

すべてのものに人が知覚する以上の色彩を認識し、文字にも色を感じる共感覚の持ち主ゼバスティアン・フォン・エッシュブルク。写真家として成功した彼は、若い女性を誘拐した容疑で逮捕される。女性の殺害を自供するが、それは捜査官に脅されたためだったと判明。エッシュブルクの弁護を依頼されたビーグラーは、意思の疎通がうまくできない相手に苛立つが・・・。

シーラッハ作品は「犯罪」「コリーニ事件」と読みましたが、今回が一番難しかったかも・・・。なんというか、今もまだ頭の中は半分「?」が飛び交っています。

前半は、ゼバスティアンの視点でその半生がつづられ、後半は一気に彼が殺人容疑をかけられ、その法廷で罪が問われる内容へと転換します。後半は、もう一人の主人公・敏腕弁護士ビーグラーが登場し、果たしてゼバスティアンは人を殺したのか、「死体なき殺人」が展開します。

私にはとうていゼバスティアンがわからないし、それはもう読みながら「ひゃあ、何なの~?」と言いたくなるほどなのですが。そういう何かから目を背けず、じっと注視していくシーラッハの視点は、実におもしろいのです。

この事件は意外な着地点を見出すのですが・・・。それ以上に驚かされたのは、訳者・酒寄進一さんのあとがきです。翻訳出版の条件として、この表紙の写真を使うことというのがあったそうで(ドイツ語の原書も同じ写真が使われているよし)。ふうん・・・と思ってみてみると・・・あっっっ!!! 読んだ人には、これが何かわかる、のです。でも、読む前はそんなこと思いも寄らなかった・・・。鳥肌たちました。遠く感じていたゼバスティアンの物語は、自分のすぐそばにあったようです。

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