海外の作家

2017年10月 1日 (日)

ねじの回転

2645「ねじの回転」 ヘンリー・ジェイムズ   新潮文庫   ★★★★

イギリスの古いお屋敷に住む二人の美しい兄妹。両親と死別したその子どもたちのために、家庭教師として雇われた若い女性は、恐ろしい幽霊を目撃する。子どもたちを悪の世界へ引きずり込もうとする幽霊は、他の誰にも見えることはなく・・・。

私にとって「ねじの回転」といえば、恩田陸なのですが(笑)、こちらが本家だときいて、いつか読もうと思ってはいたのです。が、なんだか難解だというし・・・と二の足を踏んでいるうちに、小川高義による新訳が出ました。今読まずしていつ読む?と、購入。

短い話なのですが苦戦しました。なかなか世界に入り込めなくて。でも、徐々に物語がまわりはじめると、家庭教師の「私」の視点に巻き込まれるように、一気に読んでしまいました。

両親を亡くして、叔父にひきとられたマイルズとフローラ。しかし、叔父は決して二人と一緒に住もうとはせず(それどころか会おうともせず)、家庭教師を雇う。その家庭教師が、この物語の語り手で、彼女が遭遇した「怪異」が語られるホラー小説。

美しく賢い兄妹だけれど、マイルズは学校を放校処分になり(理由はわからない)、一抹の不安を抱えたまま、「私」の家庭教師生活は始まります。子どもたちは聞き分けよく、お屋敷を取り仕切るクローズ夫人とも気が合い、順調に見えた生活は、「幽霊」の登場で不穏なものに一転する・・・。

ホラーといっても、「怖い」というより、薄気味悪いというか・・・幽霊よりも、子どもたちや家庭教師の方が怖く思えたりするのが怖い、という・・・(苦笑) そして、突然の幕切れで呆然としてしまいました。

読み終えてみると、なんだったんだろう・・・という感じなのですが、読んでいるうちは何かにとりつかれたように、物語にはまっておりました。 

2017年9月24日 (日)

アウシュヴィッツの図書係

2640「アウシュヴィッツの図書係」 アントニオ・G・イトゥルベ   集英社   ★★★★★

アウシュビッツ強制収容所の一隅に、囚人たちがこっそり作った「学校」。そこには、秘密の「図書館」も存在した。本は、たったの8冊。図書係に指名されたのは、14歳の少女・ディタ。彼女は命がけで本を守るが、収容所の状況はどんどん悪化していき・・・。

3月に半分ほど読んでいたのですが、引越し等でバタバタになり、そのまま放置していました。ようやく、読了。いやいや、早く読むべきでした。

ディタのむこうみずにも思える勇気にハラハラしっ放しでした。読むことを禁止されている本を隠しているだけでドキドキものなのに、時には自分の服の下に隠して持ち歩くなんて! 

でも、未来に明るい光なんて見えない状況で、ディタのように生きることがどれほど尊いか。もちろん、ディタはまだ14歳で、大人のことはよくわからないし、子どもというほど幼くもなく・・・だから、迷うことも悩むことも当然あるわけで。

明日生きているかわからないという極限の状況で、それでも本を読み、その中のユーモアを感じ取り、現実に立ち向かう糧とする、そんなディタや子どもたちに救われる思いでした。

帯には、翻訳家・鴻巣友季子さんの「言葉と想像力は人間の尊厳と生命力の礎だ」という言葉が記されています。本当に! この本を読むと、そのことを痛感します。

これは実話をもとにした物語だときいていましたが、「著者あとがき」を読んで驚きました。ここまで事実に近いとは! あとがきには、その後のディタたちのことも書かれています。なんかもう、感無量で、あとがきを読んで涙がこぼれました。

2017年9月22日 (金)

コードネーム・ヴェリティ

2639「コードネーム・ヴェリティ」 エリザベス・ウェイン   創元推理文庫   ★★★★★

第二次世界大戦中、ナチ占領下のフランスで、スパイとして逮捕された若い女性。彼女は、尋問をやめる代わりに、イギリスに関する情報を手記として書くことを強要される。そこに書かれたのは、友人の女性飛行士・マディの戦場での日々だった。彼女はなぜ、物語のような手記を書いたのか?

読んだ人たちの熱い感想をツイッターで見なければ、一生読まなかったであろう物語です(外国文学は基本的に読まないため)。

すごい。自分の語彙力のなさに呆然としますが、本当にすごかった。読み始めて5時間、ノンストップでした。

二つの手記で構成される物語は、第二次大戦中のイギリスとフランスが舞台。いきなりナチの尋問から始まるのでビビりますが、読み終えると二人の若い女性の青春物語でもあるのだ、と気づきます。

二人とも、自分の好きなことを追いかけ、気づくと戦争の真っ只中におかれることになり・・・。しかし、彼女たちはそれを嘆くでもなく、自分の夢を追い求めます。そして・・・。

第一部の手記を読んでいるときに感じた違和感は、第二部を読み進めるにつれて、徐々に解き明かされます。なぜ、彼女はあんな手記を書いたのか? それがわかる頃には、彼女たちは過酷な運命の中にいるのですが。

悲惨な・・・と言ってもいいような物語なのですが、彼女たちのなんと生き生きしていることか! 戦時下であっても、人は生きているのだと、そんなあたりまえのことに感動すら覚えました。

そして、私が何より心惹かれたのは、これが「手記」であったことです。書くこと。気も狂わんばかりの状況であっても、書くことで自分自身を保てるという、「書くこと」のもつ力。また、それは誰かに「読まれる」ことを前提にしている。・・・「書かれたもののもつ力」を、これだけ信じて書かれた物語が、おもしろくないはずがないのです。

とにかく読んでみて、と、いろんな人にすすめて歩きたいくらい、夢中になった物語でした。

2017年9月 9日 (土)

ある奴隷少女に起こった出来事

2632「ある奴隷少女に起こった出来事」 ハリエット・アン・ジェイコブズ   新潮文庫   ★★★★

アメリカの南部の町に奴隷の娘として生れたリンダは、フリント医師の家で働かされる。やがて年頃になったリンダに、フリントは卑猥な言葉を浴びせるように。自分の身を守るため、自由を得るため、リンダがした決断とは・・・。

奴隷だったハリエット・アン・ジェイコブズが発表した実話。フィクションと思われ忘れ去られていたこの文章は、発表から100年以上経って、実話であると証明され、アメリカでベストセラーに。

なんというか・・・想像を絶する世界でした。

奴隷制というのが、ここまで人間を堕落させ、残虐にさせるものだということに、愕然としました。リンダにつきまとったフリント医師はきわめて卑劣で陰湿な男ですが、彼だけでなく、いわゆる白人の人々の奴隷に対する態度がもう・・・。相手を人間として認めない。そのことに何の違和感も覚えないという社会が信じられませんでした。差別は、人間にとって決して良いことではないというのが、これを読むとよくわかります。

リンダは最終的には、二人の子どもと共に自由を得るのですが・・・そこに至るまでの過程は、本当にこれが事実なのか?と疑いたくなるようなことの連続です(それもまた、これが実話とみなされなかった理由の一つでもあるようです)。人が人として生きるという、当たり前のことを得るために、彼女はそれだけの苦難を乗り越えなければならなかった。その事実が、何より重いです。

思ったのは、これは果たして「過去の物語」なのだろうか?ということ。「分断」という言葉を、「差別」という言葉を、私たちは今、この耳で聞いているではないか。人として決してしてはならないことを、私たちは繰り返してしまっているのではないか。

また、「訳者あとがき」では、堀越ゆきさんが、なぜこの本を訳そうと思ったのか、その動機が記されています。今、日本で生きる少女たちが置かれている閉塞的な現状。それもまた、私たちが自覚せねばならないことなのだと思うのです。

2017年7月25日 (火)

彼女たちはみな、若くして死んだ

2610「彼女たちはみな、若くして死んだ」 チャールズ・ボズウェル   創元推理文庫   ★★★★

若い女性が犠牲となった10の犯罪。なぜ彼女たちは殺されなければならなかったのか。犯人は、誰か。事件を解き明かす刑事たちの捜査からその結末までを描いた犯罪ノンフィクション。

1949年に発表された本が、今回初めて日本語訳されて出版。ミステリー界に変革をもたらした一冊。・・・と聞けば、読んでみたくなります。

犯罪ノンフィクションといえばそれまでですが、筆者は感情を煽るような言葉を一切使わず、わかった事実を淡々と記しています。それが、下手なミステリを読むより、ずっとおもしろいのです。

被害者、加害者、遺族、捜査員・・・事件に関わったあらゆる人々のドラマが、浮かび上がってくる感じ。この本にインスパイアされて生れたミステリがあるというのも、頷けます。

「ボルジアの花嫁」「ランベスの毒殺魔」「死の部屋」「殺人の契機」「青髭との駆け落ち」「サラ・ブリマー事件」「死のタンゴ」「6か9か」「彼女が生きているかぎり」「絞殺された女」の10編。

2017年7月16日 (日)

そして誰もいなくなった

2606「そして誰もいなくなった」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

兵隊島に集められた十人の男女。初日の夕食後、それぞれの犯した罪を告発する声が。そして、一人、また一人と、童謡の歌詞の通りに、人が殺されていき・・・。

久しぶりに再読しました。今年、テレビドラマにもなりましたし、犯人もわかっているのですが、まったく退屈しませんでした。

裁かれぬ罪を犯した十人が殺されていく過程の緊迫感。徐々に人が減っていき、お互いへの疑惑が最高潮に達して・・・。初めて読んだときは、「そして誰もいなくなった」最後の場面が、ものすごい衝撃的だったのですが、今回はそこに至るまでの「犯人」の巧妙な仕掛けを堪能しました。

ストーリーテラーとしてのクリスティの才能を、あらためて実感しました。

読んでいるあいだ、ずっとひどい雨が降っていて、「嵐の島」の気分をちょっとだけ味わいました。

2017年3月13日 (月)

葬儀を終えて

2548「葬儀を終えて」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」・・・リチャード・アバネシーの葬儀を終えた後、末妹のコーラが放った一言。そして、翌日、コーラは死体となって発見された。ポアロが見出した真実とは。

名作との評価が高いということで、おおいに期待して読みました。そして、期待は全く裏切られませんでした。

クリスティの構成・描写の巧みさにうならされました。うーん、すごい。見事にしてやられました。そういうことか・・・。読み終えると、すべて納得できるのです。

最初は登場人物の人間関係が頭に入ってこず、冒頭の家系図を何度も見ながらでしたが、前半はエントウイッスル弁護士がうまく人物紹介をしてくれて、ポアロが登場する中盤以降はするすると物語の中に入っていけました。

リチャードは本当に殺されたのか? コーラを殺したのは誰なのか? 次々続く「事件」の犯人は? ・・・すべてがわかったときには、ちょっと鳥肌がたちました。

今まで読んだポアロものの中でも、一、二を争うおもしろさでした。

2017年2月 1日 (水)

鏡は横にひび割れて

2532「鏡は横にひび割れて」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

セント・メアリ・ミード村にも、新しい時代の波は押し寄せてくる。新興住宅地に、新しい住人たち。そして、アメリカの女優がゴシントン・ホールに引っ越してきた。そこで行われたパーティで、招待客が不審な死に方をし・・・。本当に狙われたのは、誰だったのか? ミス・マープルが事件に挑む。

このタイトルになっているテニスンの詩。この一節を描いた絵が好きで。(その絵自体は、この話とは何の関係もありません。)なので、ずっと気になっていた作品だったのでした。

いやあ、おもしろかった。ミステリで、ここまで振り回されると、かえって気持ち良いですね。犯人は?手段は?動機は?と、次々と作者が繰り出してくるあの手この手に、すっかり翻弄されてしまいました。で、こういう事件には、ミス・マープルがよく似合います。

今回は、セント・メアリ・ミード村にも都会化の波が押し寄せてきて、我らがマープルもだいぶ年老いてしまって、ちょっともの悲しい気もしますが、事件が起こってからというもの、マープルが生き生きと活動するのが、なんともほほえましく。

それに、主人公にちゃんと歳を重ねさせて、「老い」もしっかり描くというの、私は嫌いじゃないです。

事件そのものはやりきれないのですが、ミス・マープルのキャラクターに救われる思いでした。

2016年12月22日 (木)

スリーピング・マーダー

2513「スリーピング・マーダー」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

新婚のグエンダは、イングランドに新しい家を買って住み始めた。それから、奇妙なことが続き、ふいにある「記憶」がよみがえった。この家では、かつて人が殺された?・・・グエンダは、真相を究明しようとするが・・・。

学生時代、クリスティ読みの友人から借りて読んだはずなのですが・・・見事に覚えてませんでした(苦笑) おかげさまで、新鮮な気分で読むことができました。

ミス・マープルものの、「眠れる殺人」。グエンダが記憶をよみがえらせていく過程は、なかなかサスペンスフルで、ストーリーテラーとしてのクリスティの面目躍如。

そして、グエンダが夫・ジャイルズと謎解きを始めると、登場するのが我らがミス・マープル。若い人たちのことを心配しながら、世知に長けたその頭脳を活かして、グエンダたちをリードしていきます。

次々現れる「容疑者」たち。そして、現実の殺人まで・・・。まあ、読み応えのある展開で、最後まで少しも飽きることなく、引っ張っていかれました。

久しぶりにクリスティーを読みましたが、やはりいいですね。解説が恩田陸というのも、ナイスでした。まだ、いくつか気になっているものや、再読したいものがあるので、これからもちょこちょこ読んでいこうと思います。

2016年11月23日 (水)

戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊

2497「戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊」 モリー・グプテル・マニング   東京創元社   ★★★★

第2次世界大戦の中、戦地の兵士に本を送ろうとした人たちがいた。それは、国家プロジェクトとして、図書館員・軍・出版業界が挑んだ史上最大の図書作戦だった。いったいどのようにして、本は戦地へ届けられたのか。

話題のノンフィクションです。えらく時間がかかってしまいましたが、ようやく読了。

ナチスは焚書を行った。それに対して、アメリカは、本を兵士に与えようとした。すべてはそこから始まります。兵士の士気を高めるためというのが目的だったのですが、本は予想以上に兵士たちに「必要」とされます。彼らは、戦場でむさぼるように本を読んでいたのです。それは、退屈しのぎでもあり、現実逃避でもあり・・・ともかく、「本を読む」ことが、彼らの最高の娯楽だったのです。

やがて、「兵隊文庫」という戦地用ペーパーバックが作られ、戦地に配給されるようになります。これができるまで、あるいはその後も、数々の困難が立ちはだかるのですが、一貫して「兵士のために本を送る」ことをやりぬく関係者の姿勢には圧倒されます。

何より、胸を打つのは、戦地から送られてきた兵士たちの手紙です。彼らがどれだけ本を必要としていたかがひしひしと伝わってきます。人間にとって本がどれほど大切なものか・・・。

以前読んだ「親愛なるブリードさま」を思い出しました。強制収容所に送られた若者たちに本を送り続けた女性の話。私たちはつらいときほど、心の支えになる何かを必要とするものです。そして、「本」はその支えになり得るものなのですね。

訳者・松尾恭子さんのあとがきに、日本にも「兵隊文庫」があったことが書かれていました。江戸川乱歩とかだったそうな。どんな本があったのか、それを兵士たちはどんな思いで読んでいたのか知りたいものです。

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