朝井まかて

2017年12月18日 (月)

御松茸騒動

2681「御松茸騒動」 朝井まかて   徳間書店   ★★★★

尾張藩の定府藩士・榊原小四郎は、家督を継いで以来、己の利発さと学問を頼りに、出世を目指し、職務に励んできた。しかし、亡父の幼なじみで遠縁の「三べえ」たちに振り回され、国もとの「御松茸同心」に左遷されてしまう。松茸を上納するお役目とはいえ、山のことなど何一つ知らぬ小四郎は右往左往するばかり。果たして、小四郎の出世の夢はかなうのか。

「天声人語」で取り上げられていたので、今年ちょっと話題になった一冊。

それなりに頭がきれ、学問や算術も人よりまあまあ出来。それゆえ正論を吐き、人を見下してしまう、そんな青二才なんです、主人公の小四郎という人(笑)。まあありがちな、こういう青年の成長譚なのですが、彼を成長させるものが、「松茸」。

人間の力の及ばない「自然」の産物である松茸は、自分の力で何でも変えられると思い込んでいる若い小四郎の思い上がりを、たたきのめしてくれます。もっともその過程が厳しいながらもユーモラスで、肩の力を抜いて読める物語になっています。

欲を言えば、もう少し小四郎が苦労してもよかった気がするのですが・・・枚数の都合でしょうかね。小四郎のものの見方が変わるにつれ、かつては軽蔑していた父の姿に、違う意味を見出せるようになったのは、ほっとしました。

物語の背景に、幕府に蟄居を命じられた前藩主・徳川宗春が描かれています。なぜ、宗春は藩主の座を追われ、今なお自由の身になれないのか。その推量が、なかなかおもしろかったです。

2017年9月 7日 (木)

最悪の将軍

2631「最悪の将軍」 朝井まかて   集英社   ★★★★

「犬公方」と呼ばれた将軍・徳川綱吉。その在位は大地震や富士山噴火といった天災に見舞われ、赤穂浪士の討ち入りが起こった元禄の世。果たして、綱吉は暗愚であったのか、それとも名君か。

先日、NHKの「歴史秘話ヒストリア」で富士山噴火を扱っていて、その時の将軍が綱吉だった、と。その二つを結びつけてみたことがなかったので、ちょっと意外な気がしたのでした。だいたい、綱吉について知っていることといえば、「生類憐れみの令」くらい。これはいかんなと思い、とりあえずこれを読むことに。

綱吉が館林藩主から将軍になろうとする時から物語りは始まり、綱吉とその正室・信子の視点で交互に話は展開し、綱吉の死で幕を下ろします。

戦国の世から文治政治への移り変わりの時期に将軍になった綱吉は、その変化に自覚的であり、意図的に「武」から「文」への移行を進めようとします。しかし、綱吉はあまりにも潔癖であり、それゆえに人に憎まれもします。

綱吉の目指したものは正しいのだけれど、それを人の心に届けるのがいかに難しいか・・・なんともやりきれない気持ちになりました。自分の意思をなんとか民に届けようとして、かえって溝を深くしていく綱吉の絶望たるや。このようにしか生きられない人間が、それでも必死に己の役目を全うしようとする生き方は、見事ではありましたが、痛々しいものでもありました。

これはあくまでフィクションなので、実際の綱吉がどんな人物だったのかはわからないのですが・・・。私たちは歴史で「誰が、何をしたか」は学びますが、「なぜそのようなことをしたのか」は、あまり考えてこなかったのだなあと、つくづく思いました。そういう視点で歴史を見れば、もっと違うものが見えてくるのかもしれません。

2017年7月13日 (木)

落陽

2605「落陽」 朝井まかて   祥伝社   ★★★★

明治天皇崩御。その直後、東京に神宮をという動きが急速に起こった。完成まで百五十年。人々は、何を思って神宮創建に挑んだのか・・・。

明治天皇の人生に、ずっと興味がありました。明治維新を境に、あまりにも激変したその境遇を、どのように受け止めたのだろうか、と。神格化された「天皇」は、どんな人間だったのだろうか、と。

この物語は、明治神宮創建の物語でもあり、同時に明治天皇という一人の人間の姿を追う物語でもあります。

明治神宮がこういう経緯で創られたものだということを初めて知りました。しかも、「神宮の杜」が人工のものだったなんて(もともとあった森を切り開いたものとばかり思っていました。たしかに、東京のあんな場所にあんな杜があるわけないですね)。国民からの献木十万本。勤労奉仕のべ十一万人。人々を突き動かし、百五十年の壮大な計画を実現させたものは何だったのか。

それを突き詰めていくと、見えてきたのは明治天皇という人物でした。明治という時代を支え続けた、一人の人間。その生き様が、当時の人々には感銘を与えずにはいられなかったのでしょう。

いつか、朝井まかてさんの筆で、かの人の一生を描き出してほしいと思います。

2017年4月 5日 (水)

2554「眩」 朝井まかて   新潮社   ★★★★

葛飾北斎の娘にして、絵師の応為ことお栄は、女だてらにと言われつつ、絵筆をとり続けてきた。父であり、師である北斎のもとで、絵師として生きたお栄がたどりついた境地とは。

題名は「眩」と書いて「くらら」と読みます。

お栄の存在を初めて知ったのは、杉浦日向子「百日紅」で、北斎にはなんとおもしろい娘がいたんだろう、と。いつかお栄を主人公にした小説を読みたいものだと思っていたら、朝井さんがやってくれました。

幼い頃から絵を描き始め、女らしいことは一切できないお栄。母が心配して無理やり縁談をまとめたものの、絵師の夫とはうまくいかず、家を飛び出してしまう。その後は、父・北斎のもとで、ひたすら絵を描き続けた人生。その中には、英泉こと善次郎との恋もあり、甥の時太郎との確執もあり、思うにまかせないこともたくさん。それでも、お栄の芯は、絵であり、伸吟しながらも描き続けるのです。

北斎の死後のお栄の生き様のあっぱれなこと。最近では「江戸のレンブラント」の異名をもつそうですが、表紙絵の「吉原格子先之図」を描いたのは、五十もすぎてから。北斎ともまた違う、応為独特の光と影の使い方が印象的な絵は、ひたすら画業に打ち込んだ人生ゆえに到達した一つの境地なのかもしれません。

2015年1月25日 (日)

阿蘭陀西鶴

2224「阿蘭陀西鶴」 朝井まかて   講談社   ★★★★

歴史に残る著作の数々を遺した井原西鶴。彼はどんな人物だったのか。娘・おあいの目を通して描く、人間・井原西鶴。

直木賞受賞第1作。

帯のコピーには、こういう著者の言葉があります。

「日本初のベストセラー作家にして娯楽小説の祖・井原西鶴。娘との日々の暮らしから、謎に包まれたその人生に迫りたいと思いました。」

たしかに、西鶴とはどういう人なのか、全然知らないです。知識としてその作品のタイトルくらいは知っていても、読んだことないし。

盲目の娘・おあいを通して描かれる西鶴の物語は、その妻の死から始まります。談林派の俳諧師としての活躍。「好色一代男」をはじめとする草紙ものの執筆。何より破天荒で、常に異端児であり続け、それでいて人たらしな、なんとも「はた迷惑」な男の姿がつづられていきます。西鶴に反発するおあいの存在が効いていて、西鶴の放埓さと、その陰の隠された思いとが、印象的に描かれています。

なぜ芭蕉に異様なまでの対抗心を燃やしたのか、なぜ俳諧から戯作へと転じたのか、いったい何を描きたかったのか・・・不器用な男の生き様が、なんとも言えない余韻をもって胸にせまってきました。

2014年12月23日 (火)

ぬけまいる

2208「ぬけまいる」 朝井まかて   講談社文庫   ★★★★

「馬喰町の猪鹿蝶」と名を馳せた、お以乃、お志花、お蝶も今や三十路目前。幼なじみの三人が、ひょんなことから「抜け参り」に出ることに。お伊勢様を目指す三人の珍道中やいかに。

「恋歌」とは全く趣の異なる、ユーモアたっぷりの道中ものでした。

それぞれに鬱屈を抱えた三人が、いろんな出来事に巻き込まれつつ、それらを力づくで(?)解決しながら旅をしていく、なかなか痛快な物語。

小間物屋の女主・お蝶は、べっぴんで目端が利くけれど、常にトラブルメイカー。旗本の奥方になったお志花は、いちばんのしっかり者だけれど、何やら思いつめた様子で。そして、唯一の独り者・一善飯屋の娘お以乃には、旅の途中でロマンスも・・・。

旅の中で出会う人たちとも、ドラマがあったり、丁々発止のやりとりがあったり、とにかく飽きることなく、一気読みでした。

三人とも、旅から帰っても、したたかに生きていくんだろうなあ。

2014年5月25日 (日)

恋歌

2129「恋歌」 朝井まかて   講談社   ★★★★★

江戸の旅籠・池田屋の一人娘である登世は、水戸藩の若侍に激しい恋をし、その情熱のまま、水戸藩に嫁ぐ。しかし、幕末の水戸藩は天狗党と諸生党に二分し、内紛が絶えない状態が続いていた。登世の夫・林以徳もまた、天狗党の一員であった。水戸藩の動乱は、登世の人生をも否応なしに揺り動かして・・・。

第150回直木賞受賞作。ずっと気になっていた一冊です。

天狗党の乱の顛末を知っていれば、ハッピーエンドはありえないとわかっていましたが・・・。あらためて水戸藩の混乱を知ってみると、その凄惨さに言葉を失いました。

その中で登世が生き抜いたのは、いつか夫に会いたい一念に支えられて。武家の出ではなかったのことが、「生き延びる」選択を自然にしていたから。登世の野放図にも思える性質は、同時に生きる力でもあったのでしょう。

のちに女流歌人・中島歌子として名を成した登世の手記を、弟子の花圃と澄が偶然読んでしまう・・・という構成。こんな必要があるのか、登世を主人公にシンプルな物語にした方がよかったんじゃないの?と思いながら読んでいましたが・・・いや、ちゃんと意味がありました。登世の遺言の「鎮魂」という言葉に、思わず涙してしまいました。

なぜ、登世が歌を学ぼうとしたのか、その理由もせつなかったです。

戦というものが、人に何をもたらしてしまうのかということも、考えさせられます。憎しみの連鎖を断ち切るのは、簡単なことではないのです。

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