彩瀬まる

2017年2月18日 (土)

骨を彩る

2537「骨を彩る」 彩瀬まる   幻冬舎文庫   ★★★★

十年前に妻を病気で亡くした津村。心惹かれる女性と出会ったが、妻に対する罪悪感が消えない。「だれもわかってくれない」・・・妻が手帳にのこした言葉が、津村を縛っていた。

「指のたより」「古生代のバームロール」「ばらばら」「ハライソ」「やわらかい骨」の5編から成る連作。

いつもながら、彩瀬さんの書く物語は、ひりひりと痛い。あえてそこに触れなくても・・・というところに触れてくる。日常にまぎれて気づかないふりをしていることや、こちらの感覚が鈍磨していてスルーしてしまっていることに、ぴたりと焦点をあててくる。

登場人物と自分はまったく違うのに、どこかしら似たところを見つけてしまって、ひどく居心地の悪い思いをしてしまう。でも、気になるから読まずにいられない。

私にとって、彩瀬まるというのは、そういう作家です。「骨を彩る」も、やはりそうでした。津村の交際相手だった光恵が、千代紙細工をせずにいられない思いに、ドキリとさせられたり(「古生代のバームロール」)。「しっかり者」と言われる玲子が自分を追い詰める姿に共感したり(「ばらばら」)。

そうして、それぞれの登場人物たちに心揺さぶられながらたどりついたラストで、ぶわっと涙腺決壊しました。生きていくことって、いろんな欠落に気づかされることだし、思うに任せないこともたくさんあるけれど、何かが通じることもたまにだけどあるんだよな、と。

ひりひり痛いのだけれど、読んだあと、ほんの少し温かい気持ちになれる、そんな物語を書いてくれる彩瀬さん。やはり、これからも読み続けたい作家さんです。

2016年11月24日 (木)

神様のケーキを頬ばるまで

2498「神様のケーキを頬ばるまで」 彩瀬まる   光文社文庫   ★★★★

ふるぼけた雑居ビルに関わる人たち。シングルマザーのマッサージ師。カフェの店長。平凡なOL.。・・・彼らは、傷つきながらも、前を向いて生きようとしている。

「泥雪」「七番目の神様」「龍を見送る」「光る背中」「塔は崩れ、食事は止まず」の5編。雑居ビルと、「深海魚」という映画が5つの話をゆるくつないでいます。

もう、一話目から泣いてました(苦笑)

どうして、こんなにせつない生き方をせずにはいられないのだろう。いや、そういう人は案外たくさんいるのだと思う。でも、自分のせつなさから目をそらしてしまえず、傷つき、苦しむ人たちは少ないのではないだろうか。

彩瀬まるの物語は、そういう人たちを容赦なく描き出す。それでいて、優しい。もがく姿を徹底的に描きながらも、どこかでふんわりと抱きとめるような優しさ。その厳しさと優しさに、すっかりやられてしまいました。

シングルマザーのマッサージ師が主人公の「泥雪」が好きなのですが、その主人公が他の話では「白髪交じりの中年女性」という表現をされていて、ちょっと愕然としました。「泥雪」のイメージでは、もっとかっこいい女性のような気がしていたけれど、他者の視点ではただのオバサン・・・。自分の思い込みの甘さと、彩瀬さんの目の厳しさを痛感した瞬間でした。

やっぱり、彩瀬さんいいなあ。

2016年1月 4日 (月)

暗い夜、星を数えて

2395「暗い夜、星を数えて」   彩瀬まる         新潮社         ★★★★

副題「3・11被災鉄道からの脱出」。

一人旅の最中に、福島県内で東日本大震災に遭遇した筆者。福島から脱出するまでと、その後二度福島を訪れた時の記録。

これを書くのは勇気が要っただろうと思うのです。彩瀬さんは、事実を事実として書くことに、実に誠実に取り組んでいます。その中には、筆者自身の気持ちも含まれていて、不安も惑いも何もかもを正直に記す姿勢に、言葉を失いました。

地震と津波と放射能。この3つに襲われた福島の人々。偶然、震災からの5日間を共有し、たまたま知り合った人たちにたすけられた彩瀬さん。その後も福島に寄り添おうとしつつ、その難しさに悩むことにもなります。

そこから目をそらさず、悩み続ける彩瀬さんの姿は、ときに痛々しい。けれど、その真摯な姿には、私たちが失ってはいけないものがある、と思うのです。

震災から五年がたとうとしています。人間はつらいことを忘れなければ生きていけません。でも、それでも忘れてはいけないこともあると思います。そういう意味で、きこの本を手に取りました。決して後味はいいわけではありません。が、読んでよかったです。

2015年11月14日 (土)

あのひとは蜘蛛を潰せない

2375「あのひとは蜘蛛を潰せない」 彩瀬まる   新潮文庫   ★★★★

梨枝、28歳。ドラッグストアの店長をしながら、実家で母と二人で暮らしている。母との息の詰まりそうな生活に倦んでいたころ、バイトの学生・三葉くんとつきあいはじめ、家を出る。一人暮らしを始めた梨枝だったが、母の言葉が呪縛のように梨枝をとりまき・・・。

読むのがしんどかったです。いえ、おもしろくなかったわけではなく。

おそらくたいていの人は(もちろん私も含めて)、そこにはふたをしておいて、適当にやり過ごすのに・・・と思うところをつきつめていくような物語でした。いや、私もふたをしておきたいけれど、やっぱり気になっていて、流してしまえず、ずっと抱え込んでいるものを目の前にさらされたような。・・・だから、しんどかったのです。

梨枝がいちばんこだわっているのは、母との関係。梨枝にとっては簡単に語ることができないほど複雑なものなのに、それが他の人には伝わらないと思っていて、それが梨枝をよけいに苦しくさせているようです。母の言う「ちゃんとした」生き方をするのが習い性になっていた梨枝は、他人との関係でも「いい子」でいるのが癖になっていて・・・。

梨枝のことが他人事と思えなくて(苦笑) ひたすら「痛いなあ」と思いながら読んでいました。でも、いっぱい間違えながら、少しずつ自分の歩き方を見つけていく梨枝に、なんだか救われる思いでした。それに、梨枝が出会ったのが三葉くんでよかった。

蜘蛛を潰すことすらできない、消えた「あのひと」のようにダメな大人でも、器用に生きていけなくても、私たちは生きていけるんだ、と思えました。

2015年5月 3日 (日)

桜の下で待っている

2282「桜の下で待っている」 彩瀬まる   実業之日本社   ★★★★

新幹線で北へ。そこに待っているふるさとや家族は、いとしいはずなのに、どこかめんどくさかったり、うっとうしかったり・・・。5人それぞれの「ふるさと」と「家族」の物語。

今すごく気になっている彩瀬まる。地元図書館に唯一入った作品、ダッシュで借りてきました。

「モッコウバラのワンピース」(宇都宮)、「からたち香る」(郡山)、「菜の花の家」(仙台)、「ハクモクレンが砕けるとき」(花巻)、「桜の下で待っている」の5編。4つめまでは、それぞれの主人公が新幹線でその地に出かけ、「家族」と再会する話。最終話は、その新幹線の車内販売のお姉さんが主人公。

ああ、わかる・・・と思えることがいっぱいあって。家族なんだけど、わかっていなかったこと。生まれた家に帰ると、ちょっと人がかわったようになること。家族だからこそのいさかい。久しぶりに訪れた町の変化。

どの話も好きだったのですが、鷲掴みにされたのは、「ハクモクレンが砕けるとき」でした。主人公は小学生の知里。かわいがっていた下級生が事故で死んでしまったことを、うまく受け止められないまま、叔母の結婚式のために花巻へ向かうのです。ちょっとほかの話とは雰囲気が違っていて・・・。読んでいるうちに、私自身、小学校の時、隣のクラスの子が事故で亡くなったこと、それをずっと引きずっていたことを思い出しました。知里がちょっと不思議な経験をして、彼女の死と折り合いをつけたときには、なんだか涙があふれてしかたなかったです。

★は4つにしましたが、4.5という感じ。彩瀬まる、要チェックです。

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