柚木麻子

2019年5月 8日 (水)

マジカルグランマ

2895「マジカルグランマ」 柚木麻子   朝日新聞出版   ★★★

 

元女優の正子、75歳。シニア俳優として再デビューを果たし、CMで人気を博すも、夫の死に際してのコメントで大バッシング。仕事を失い、生活にも余裕がない正子は、どうにかして収入を得ようと奮闘する。

 

やられたなあ、という感じです。

「おばあちゃん」が主人公の小説というので、なんとなく手にした本。漠然と「こういう感じだろう」という思い込みを、見事に粉砕されました。

とにかく、主人公の正子が、どうにもしっくりこないのです。なんだろう?と思っていたのですが、途中のこの言葉で納得。

「自分が一番で、自分だけが特別で、自分が一番目立ちたいのが、正子さんなんだから。」

そうなのです。正子は、わがままで、自己中心的。とにかく自分が大事。それが、いわゆる「お年寄りのあるべき姿」と一致しないから、気持ち悪かったのです。でも、年を取ったからといって、一歩ひいて、若い世代に道を譲るべき、次の世代を温かく見守るだけ・・・なんて、誰が決めたんでしょうね?

この物語は、徹底的にそういう「あるべき姿」「理想像」みたいなものを粉砕していきます。「おばあちゃんが主人公の話だから、きっとこんな感じだろう」という私の思い込みが粉砕されたのもむべなるかな。

パブリックイメージのために生きて、みんなに認められようという生き方の虚しさ。そもそも「理想の姿」なんて、誰が決めたというのでしょう。今の世の中が息苦しく、生きづらいものになっているのは、そういう「あるべき姿」に囚われ、「いい子」になっている人が多いからかもしれません。

「アッコちゃん」シリーズを彷彿とさせるようなコメディタッチですが、なかなか鋭くえぐってきます。さすが、柚木さん。

2017年9月25日 (月)

さらさら流る

2641「さらさら流る」 柚木麻子   双葉社   ★★★★

28歳の井出菫は、自分のヌードがネットで拡散されていることを知り、愕然とする。それは、かつての恋人・垂井光晴に求められ、一度だけ撮影させたもの。なぜ6年も前の写真が? 菫は親友の百合の助けを得て、状況に立ち向かおうとするが・・・。

柚木さん、今度はこう来たか・・・と。いろんな意味で痛かったです。

菫と光晴がつきあうきっかけになった「暗渠めぐり」から始まる過去と、28歳の現在とが交互に描かれる構成。初めは光晴が意図的にネットに流したのかと思いきや、光晴も知らなかったことが判明し、ではいったい誰が?という話になるのですが。

まず、光晴がかなりめんどくさい。家庭で愛された実感がなく育った彼は、それを認識しているだけに、かなりゆがんでいます。でも、そのゆがみに菫が惹かれてしまった気持ちは、わからないでもない。

そして、菫の家族がまた実にユニーク。家族というより、集合体という印象。その中で育った菫は、おとなしそうでいて、実はすごく芯がしっかりしている。しなやかでいて、自分を曲げない感じ。そんな菫が打ちのめされたというのは、その衝撃の大きさを物語るわけで。

実際、こんな目に遭ったら平常心でいられるわけはないし、菫にじゅうぶん共感できたのですが・・・やっぱり、こういう時に女性に理解してもらえないのって、堪えますね。あの場面読んだあとは、こっちまでどんよりしちゃいました。

それでも、物語はある地点にたどり着き、一応の終わりを迎えます。菫の姿に救われましたが、うまく言葉にできないいろんな思いが、いまだに胸の底でざわざわしています。

2017年8月20日 (日)

BUTTER

2622「BUTTER」 柚木麻子   新潮社   ★★★★

週刊誌の記者・里佳は、連続殺人犯・梶井真奈子(カジマナ)の取材に取り組む。若くも美しくもない彼女は、どうやって男たちを篭絡したのか。なぜ彼女は自信に満ちているのか。面会を重ねるうちに、里佳はカジマナに操られるように心身ともに変貌していく。

本を読んで胃もたれしたのは初めて(笑) とにかく食べ物の描写が多くて、おいしそうなんだけど、最後の方はもう勘弁して・・・という感じでした。

仕事の上では女を捨てて勝負している里佳が、女を武器にしたように中高年の男たちに貢がせていたカジマナと面会し、どんどん変わっていく。カジマナに指示された場所に行き、指示されたものを食べ。スレンダーだった里佳はどんどん太っていき、考え方も変化していく。まるでカジマナにマインドコントロールされているかのような里佳。そこに、里佳の親友で専業主婦の伶子が絡んできて、三人の関係性が歪んでいく。

この物語で描かれる三人の女性、里佳・伶子・カジマナがそれぞれに抱えている生きづらさは、私にも覚えのあるもので・・・たぶん、世の女性の多くが、どこかしら共感できるものではないか、、と。作者はそこからいっさい眼を背けずに、最後まで書ききったという印象を受けました。

もしかしたら、里佳や伶子が呪縛から解き放たれるための通過儀礼なのかもしれないし、これだけの代償を支払っても、本当に「生きやすく」なんてなれないのかもしれない。それでも、自分で自分をがんじがらめにするような生き方は、やはり苦しいのだと、つくづく感じました。

その他のカテゴリー

「あ」行の作家 「か」行の作家 「さ」行の作家 「た」行の作家 「な」行の作家 「は」行の作家 「ま」行の作家 「や」行の作家 「ら」行の作家 「わ」行の作家 あさのあつこ いしいしんじ こうの史代 さだまさし その他 たつみや章 ほしおさなえ よしもとばなな アンソロジー 万城目学 三上亜希子 三上延 三島由紀夫 三木笙子 三浦しをん 三浦哲郎 三谷幸喜 上橋菜穂子 中山七里 中島京子 中田永一 中野京子 乃南アサ 乙一 井上ひさし 京極夏彦 伊坂幸太郎 伊藤計劃 伊集院静 佐藤多佳子 佐藤賢一 俵万智 倉知淳 光原百合 冲方丁 初野晴 加納朋子 加門七海 北大路公子 北山猛邦 北村薫 北杜夫 北森鴻 原田マハ 司馬遼太郎 吉村昭 吉田修一 向田邦子 坂木司 夏川草介 夏目漱石 大倉崇裕 大崎梢 太宰治 奥泉光 宇江佐真理 宮下奈都 宮尾登美子 宮部みゆき 小川洋子 小川糸 小路幸也 小野不由美 山崎豊子 山本周五郎 山白朝子 岡本綺堂 島本理生 川上弘美 平岩弓枝 彩瀬まる 恩田陸 愛川晶 戸板康二 日明恩 日記・コラム・つぶやき 有川浩 朝井まかて 朝井リョウ 木下昌輝 木内昇 朱川湊人 杉浦日向子 村山由佳 東川篤哉 東野圭吾 松本清張 柏葉幸子 柚木麻子 柳広司 柴田よしき 栗田有起 桜庭一樹 梨木香歩 梯久美子 森博嗣 森絵都 森見登美彦 森谷明子 横山秀夫 橋本治 氷室冴子 永井路子 永田和宏 江國香織 池波正太郎 津原泰水 津村記久子 浅田次郎 海堂尊 海外の作家 深緑野分 湊かなえ 漫画 澤村伊智 澤田瞳子 瀬尾まいこ 田中啓文 田丸公美子 畠中恵 石田衣良 磯田道史 福井晴敏 笹尾陽子 米原万里 米澤穂信 芥川龍之介 若竹七海 茅田砂胡 茨木のり子 荻原規子 菅野彰 菅野雪虫 藤沢周平 藤谷治 西條奈加 西澤保彦 角田光代 誉田哲也 辺見庸 辻村深月 近藤史恵 酒井順子 重松清 金城一紀 門井慶喜 阿部智里 青崎有吾 須賀しのぶ 額賀澪 高城高 高橋克彦 髙田郁 鷺沢萠

2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

カテゴリー