阿部智里

2018年7月 3日 (火)

烏百花 蛍の章

2765「烏百花 蛍の章」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

八咫烏たちが支配する世界・山内。その歴史の中で、語られなかったそれぞれの思いとは。

「八咫烏外伝」です。「しのぶひと」「すみのさくら」「まつばちりて」「ふゆきにおもう」「ゆきやのせみ」「わらうひと」の6篇。

ああ、こういうのが読みたかった!という(笑) 本編を読んでいて気になったところ、本編では語られないだろう部分が、見事に。これぞスピンオフの醍醐味ですね。

「しのぶひと」「わらうひと」がとにかく好きなのですが(真赭の薄が好きなもので)、浜木綿の子ども時代の「すみのさくら」、雪哉の母親たちの話「ふゆきにおもう」も印象的でした。

こういうスピンオフが成り立つのは、登場人物それぞれがしっかり生きているからですね。ただ話を盛り上げるために出てくるのではなく、一人ひとりに人生があり、それぞれの思いがあり・・・。そういう重層的に構成されている物語世界が好きです。

「蛍の章」ってことは、外伝はまだ続くのでしょうか。楽しみ・・・。

2017年9月20日 (水)

弥栄の烏

2637「弥栄の烏」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

「真の金烏」としての記憶を探し求める若宮。しかし、山内を大地震が襲い、禁門の扉が開く。神域を訪れた若宮が目にしたものは・・・。ついに猿との決戦を迎え、参謀となった雪哉はある作戦をたてるが・・・。

シリーズ第6作にして、第一部(?)完結。

第1作「烏に単は似合わない」を読んだ時は、こんなところまで連れてこられるなんて、思いもしませんでした。

今回は、浜木綿と真赭の薄(ますほのすすき)という第1作の中心人物たちも活躍してくれて、いろんな意味で感無量でした。

失った記憶とは何なのか。なぜ記憶を失ってしまったのか。烏たちの世界はどうなってしまうのか。・・・今までの物語で残されてきた「謎」が、全て語られます。エピソード0と銘打っていた「玉依姫」がこんなふうにフィードバックされていくんですね。鳥肌たちました、いい意味で。

雪哉が戦いに向けて、ひたすら冷徹になっていくさまが恐ろしく・・・。若者たちを戦いへと煽る場面では、心底ゾッとしました。為政者や軍の統率者が兵士を戦場に送るときは、こんななのかなと思ってみたり。

それだけに、終章「こぼれ種」に救われました。ほんとうに、この場面があってよかった・・・。

何度か書いたことですが、このシリーズの魅力は、物語を読む楽しさを味わえることにあります。ワクワクしながら本を開き、物語に一喜一憂した子どもの頃の純粋な気持ちを、思い出させてくれるのです。

2017年4月 9日 (日)

玉依姫

2558「玉依姫」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

かつて、祖母は母を連れて、その村を飛び出したという・・・。山内村を訪れた志帆は、村松祭りの晩、生贄として山神に捧げられるはめに。逃げようとする志帆をとめたのは、奈月彦と名乗る青年だった。奈月彦は、志帆に山神の母となるように諭すのだった。

シリーズ5作目は、エピソード0とも言うべきもの。今まで舞台になってきた異世界ではなく、現代日本がスタート地点です。

主人公は、普通の高校生の志帆。ちょっと度が過ぎるお人よしなところのある彼女は、生贄の儀式に巻き込まれ、そのまま、山神の母として山の禁域で生活することに。そこから物語は二転三転していくわけですが・・・。

金烏としての過去の記憶を失った奈月彦も登場して、過去の金烏と山神や猿との間に何があったのかも徐々に明らかになります。シリーズのスピンアウトのようでいて、中核に触れる大事な物語です。

それにしても、志帆(もしくは玉依姫)のたくましさには参りました。シリーズ第1作の女子たちのたくましさをちょっと思い出しましたよ。

そして、夏には続編が!しかも、「第1部完結編」って! まだまだ続くのですね、このシリーズ。物語を読む楽しみを存分に味わわせてくれるこのシリーズが大好きなので、続くのはうれしいかぎりです。

2015年10月10日 (土)

空棺の烏

2365「空棺の烏」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

若宮殿下を守るため、山内衆の養成機関・勁草院に入った雪哉。そこは、若宮派と兄宮派がいがみあう世界でもあった。厳しい訓練のなか、雪哉は信頼に足る仲間を得るのだが・・・。

八咫烏シリーズ第4弾。思ったよりも早く借りられました。そして、一気読みしてしまいました。今回も、「物語を読む楽しみ」を満喫させていただきました。

帯にあったのが「陰謀、青春、冒険、友情、逆転、活劇、そして世界の秘密。」・・・おいおい、という感じでしたが、たしかにこれだけの内容、てんこ盛りでした。

武人の養成学校に集う少年たち。平民出身の茂丸、大貴族の御曹司・明留、下人の千早、そして言わずと知れた雪哉。いずれも個性的で、なおかつ勁草院に入らねばならぬ理由をもった彼らが、活躍します。今まででいちばん青春ものというか学園ものテイストが強くて、個人的にはそこがツボでした。

雪哉も痛々しいほどの決意をしていたのですね・・・。茂丸が雪哉を「おつかいに行く子供」にたとえたところは、ちょっとうるっときてしまいました。でも、頼りがいのある仲間がそばにいてくれて、本当によかった。彼らは今後も登場する機会がありそうで、楽しみです。

さていよいよ山内には「嵐」が訪れることになりそうです。若宮と雪哉ははたしてどうなってしまうのか・・・今後の展開が楽しみです。

2015年8月22日 (土)

黄金の烏

2346「黄金の烏」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

八咫烏の支配する世界・山内。そこで、仙人蓋と呼ばれる奇妙な薬が売買されていると知って、若宮とかつて彼に仕えていた雪哉は、その行方を追って最北の地へ。そこで彼らが見たのは、八咫烏を食らう大猿だった。その惨状の中、たった一人無事だった少女・小梅を雪哉たちは保護するが・・・。

「烏」シリーズ、これが出ているのをうかつにも知らずにいました。最近新刊が出たのはチェックしてたのですが。ひなたさんのブログで存在を知り、あわてて図書館へ。あぶなく、読み飛ばすところでした。

結論から言えば、シリーズ読者としては欠かせない一冊でした。なぜかというと、「真の金烏とは何か」が語られているから、です。そして、前作「烏は主を選ばない」の続きでもあり、ここまで読まないと、雪哉の物語は完成しないからです。

いつものことながら、物語世界にたっぷり浸らせていただきました。雪哉を中心に、登場人物たちの魅力的なこと。特に、今回は若宮の妻となった浜木綿が活躍していて、うれしかったです。ストーリーも二転三転しながら、伏線はきれいに回収されて、読み終えた後は満足感が。

ファンタジーって、フィクションであることを承知で、そのことを存分に楽しんで浸れる、そんな物語のことを言うのだなあと、あらためて感じた読書でした。

2013年10月19日 (土)

烏は主を選ばない

2059「烏は主を選ばない」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

八咫烏が支配する世界・山内。そこを統べる金烏となる「日嗣の御子」の座をめぐり、貴族たちを巻き込んでの争いが続いていた。兄宮・長束を差し置いて日嗣の御子となった若宮は、稀代のうつけとの評判が。そのうつけの若宮のもとに、側仕えとしてあがることになった少年・雪哉。地元の垂氷郷ではぼんくら次男坊として有名な雪哉の運命は。

松本清張賞受賞作「烏に単は似合わない」の、アナザーストーリー。あの時期、日嗣の御子の側では何が起こっていたのか、というお話。あちらは、若宮の妃候補たちが集められ、お妃選びのはずなのに、当の若宮がさっぱり姿を現さずやきもきさせられたのですが、その時、宮は宮でこんなことになってましたよ、という(笑)

あちらは女性が主役で華やかでしたが、こちらは一転してむさ苦しい(笑)男たちの世界です。陰謀渦巻く宮廷で、若宮と、無理やり近習に取り立てられた雪哉が奮闘する物語。ファンタジーなのですが、設定された世界観が独特の美しさで満ちていて、ひきこまれます。そして、デビュー作と同じく、実に「お話」として楽しめる、読まされるのです。

今、「十二国記」シリーズを再読しているのですが、なんとなく似たものを感じます。もちろん、まったく異なる世界観なのですが。物語世界がきちんとできあがっていて、さらに人間(この場合は、八咫烏ですが)ドラマとして読者をひきつけるという点において。

あっという間に、一気読みしてしまいました。最近、なかなか読書がはかどらないのですが、これは集中力をきらさずに読めました。

なお、前作とこちら、どっちから読んでも楽しめると思います。どちらの「結末」もわからないようになっているので。

2012年9月10日 (月)

烏に単は似合わない

1914「烏に単は似合わない」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

八咫烏が支配する世界、山内。その日嗣の御子である若宮の后候補として、四人の姫君が大貴族四家から集められた。春殿のあせび。夏殿の浜木綿。秋殿の真赭の薄。冬殿の白珠。いずれ劣らぬ美貌と才気を誇る姫君たちだったが、若宮の訪れがないまま、不穏な事件が起こり・・・。

松本清張賞受賞作。新聞の広告でチェックしていました。表紙のイラストが漫画っぽいので、どうだろう・・・と思っていましたが、想像以上のおもしろさ、でした。

最初は、完全にファンタジーです。お妃選びに集められた四人の姫たち。それぞれに個性的で、魅力的。病の姉の代わりに急に登殿することになったあせび。今上陛下の正妻の実家という権力をバックにした浜木綿。日嗣の御子の母の実家の娘で、若宮のいとこにあたる真赭の薄。家の宿願を果たすために后になろうとする白珠。・・・特にも、あせびは何の心の準備もなく登殿したため、宮中でとまどうことばかり。

しかし、子どもの頃、偶然顔を合わせて以来忘れられなかった少年こそ若宮その人と知り、あせびは后になりたいと思うようになるのです。

それぞれの姫君たちの思いと、周りの思惑が絡んで、最初はほわほわとしたファンタジーだった物語が、徐々にきな臭くなっていき、とうとう人が死んでしまう・・・。

ある意味、少女漫画っぽいストーリーなのかもしれませんが、ものすごく密度が濃い。息もつかせぬ展開、というか。後半からは、意外な真実が連続して明らかになって、ページをめくる手が止まりませんでした。正直、ちょっと甘いかなと思う部分もありましたが、最後まで一気に読まされました。見事にミステリでした。

やはり、私はこういうメリハリのある「お話」が好きなんですね。

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