楡家の人びと 第三部
2278「楡家の人びと 第三部」 北杜夫 新潮文庫 ★★★
とうとう太平洋戦争が勃発。楡家からも徹吉の長男・峻一や、龍子の弟・米国らが出征していった。そして、東京も激しい空襲にさらされるようになり、とうとう青山の楡病院も紅蓮の炎に包まれる・・・。
明治・大正・昭和と書き継がれてきた物語も、とうとう幕を下ろしました。
第三部は戦争の中の日々が描かれます。戦地にいる峻一や米国、峻一の学友・城木、楡病院の書生だった佐久間。それぞれの戦場での過酷な生活が、生々しく描写されます。一方、藍子は内地に帰ってきた城木と会い、恋におちるのですが・・・その後、藍子には悲劇的な運命が待っています。周二は学徒動員のかたわら、映画を見たり、一見のんきな生活をしているようでもあります。
それぞれの視点で語られる「時」が、ずしりと重みをもって感じられる、そんな第三部でした。
終戦後、徹吉は半身不随となり、生還した峻一はまともに働こうとせず、周二は試験に落ち続け・・・楡家は没落の一途をたどります。そこで雄々しくふるまうのは龍子、というところが、なんとも言えない味を出しています。気位高く、自己中心的な女性として描かれてきた龍子が、この苦難の中で唯一自分の足で立っているような印象を受け、かつての「龍さま」の気概を感じさせるのです。
また、藍子の変化も印象的でした。わがままな子供だった頃がうそのように、すっかり感情を内に秘めるようになってしまった藍子。それは、恋人の戦死と、焼夷弾による怪我のせいではあるのですが・・・。意外と龍子とともにたくましく生きていくのはこの藍子なのではないかという気がするのでした。
それにしても、高校生のころから読もう読もうと思って果たせずにいた小説を、やっと読むことができました。なんというか、感無量です。
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