額賀澪

2019年4月26日 (金)

イシイカナコが笑うなら

2891「イシイカナコが笑うなら」 額賀澪   角川書店   ★★★★

 

教師生活十年目。母校に赴任早々、不登校の生徒を学校に引っ張り出した菅野京平は、生徒にも慕われるスーパー教師。そんな菅野は、高校時代に自殺した同級生・石井加奈子が現れる。今の生活に虚しさを感じている菅野の気持ちを見透かすように、イシイカナコは「人生やり直し事業」を提案し・・・。

 

額賀さんの小説って、基本的に青春もので、オバチャンにはついていけない・・・ってなりそうなんだけど、なんか刺さるんですよねえ(この物言いがオバチャン・笑)

今回の主人公は、高校教師の菅野京平。教師としても十年選手で、しかも優秀で「いい先生」らしい。でも、心の中は空っぽ。仕事はすばらしくよくできるけど、全然やりがいも喜びも感じない。「自分はこの仕事に向いてない」「間違った」と思っている。そこに現れるのが、同級生のイシイカナコの幽霊。彼女は、人生やり直し事業に、菅野を放り込む。否応なしに。

菅野は、自分の人生を変えるために、カナコの提案をのむ。それは、カナコのためでもあるのだけれど(菅野は、加奈子が飛び降りたときを見てしまっていた)。

ところが、菅野はなぜか高校時代の同級生たちの「中」にトリップさせられ・・・というお話。この過程はなかなか笑える状況もあって楽しめましたが、自分を客観視するという得がたい経験でもあったわけですよね。まあ、高校時代の自分なんて、あまり客観視したいものでもないですが(苦笑)

物語としては、あるべき場所に着地する感じですが、そこまでの過程がけっこう濃密で、それゆえに当然の帰結が納得できました。

とはいえ、菅野くん。すべての人に慕われる教師なんていないし、テクニックを駆使するだけで人はついてこないんですよ。あなたの心がちょっと疲れて閉じてしまってただけで、それだけのことができるのは、やっぱりその仕事向いているんだよ・・・と思いながら読んでました。元・教員としては。

2018年9月18日 (火)

風に恋う

2793「風に恋う」 額賀澪   文藝春秋   ★★★★

吹奏楽に明け暮れた中学校生活。しかし、全国大会に手が届かなかった茶園基は、高校で吹奏楽を続ける気はなかった。それなのに、高校に進学した基の前に、「憧れの人」が現れ・・・。

どうして額賀澪の書くものって、こんなに心を揺さぶるのでしょう。「ヒトリコ」「屋上のウインドノーツ」もそうでしたが、「ウズタマ」「完パケ!」にもやられました。そして、この「風に恋う」。後半は何度も何度も泣いてしまって、ティッシュを箱ごと、側に置いて読んでました。

燃え尽き症候群のようになってしまった基の前に現れた不破瑛太郎。かつて千学吹奏楽部が全国で金賞をとったときの部長で、当時テレビで放映されたドキュメントを通して、基の「憧れ」になった人。瑛太郎が吹奏楽部のコーチになると知って、迷わず入部した基。しかし、吹奏楽部はかつての栄光とは程遠く・・・。とまあ、ここまではありがちな設定。

瑛太郎は自身の生き方に迷っていて、屈託を抱えている状態。決して部活至上主義にならない彼の言動がとてもよかったし、そういう瑛太郎だから高校生たちに言える言葉、その一つ一つが刺さりました。また、基たちのまっすぐさが瑛太郎を揺さぶっていく過程も、とてもよかった。

何かに打ち込むことは間違いではない。けれど、それだけが正しいのではない。

盲目的になるのではなく、大切なことに一生懸命打ち込むこと。それは、とても難しいことなのだけれど、そこに自覚的な瑛太郎は、やっぱりいい先生なのだと思うのです。

2018年4月26日 (木)

完パケ!

2740「完パケ!」 額賀澪   講談社   ★★★★

安原槙人と北川賢治。武蔵映像大学(通称ムサエイ)で映画作成を学ぶ二人は、卒業制作の映画監督の座を争うことに。プレゼンの結果、安原が監督に。そして、安原の希望で北川はプロデューサーに。全く対照的な二人が、それぞれの思いを抱えて挑む卒製は、果たして無事に完パケまでたどり着けるのか。

ものすごくベタな青春ものなのに、なぜ額賀作品にはいつも心揺さぶられてしまうのだろう・・・。それが、読み終えて感じたことでした。

コミュニケーションが苦手で、不器用な安原。人あしらいが得意で、なんでも一通り器用にこなす北川。全く対照的な二人は、一年のときの課題で同じ班になったのがきっかけで、四年間、親しくつきあってきた。東北出身の安原は、一度地元の大学に進学したものの、映画への夢を捨てきれず、たった一人の家族の母を残して上京、ムサエイに入り直した。一方、北川は、映画プロデューサーの父のもと、経済的にも恵まれた環境で育ち、迷うことなくムサエイへたどり着いた。何から何まで対照的ながら、一緒にいることが多い二人に、微妙な空気が漂ったのは、卒製の監督が安原に決まったとき。

夢もプライドもあるけれど、何者にもなれないかもしれない自分への不安と焦燥。自分にはなくて、相手にはある何かへの強烈な嫉妬。そんな自分への嫌悪感。・・・誰もが感じたことがあるそんな感覚が、同じ夢をもつ友人だからこそ簡単に吐露できないというもどかしさのもとに展開するこの物語。形は違えども、自分もいつか通った道だと思わせられました。

思わぬ曲者の俳優が登場したり、安原と北川がなかなか噛み合わなかったり、安原の母の病状が悪化したり、紆余曲折を経て彼らがたどり着いた、その場所は・・・。

安原たちが得た結論は、しごくシンプルなものなのですが、そこに至るまでの葛藤があったからこそ、二人とも笑っていられるのだろうなと思うのです。

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