額賀澪

2020年7月 9日 (木)

できない男

3062「できない男」  額賀澪      集英社      ★★★

東京から車で2時間の夜越町。そこで持ち上がった農業テーマパーク事業。夜越町在住のデザイナー・芳野荘介はブランディングのコンペに参加するも、惨敗。採用されたのは人気クリエイターの南波で、実際に現場を担当するのは、南波の右腕・河合裕紀。そして、荘介も地元枠でチームに参加することに。


イケてる人生とは全く無縁の荘介・28歳。デザイナーとはいえ、地方の小さな広告代理店勤務。扱うのは、役所の広報や、公民館のポスターなど。クリエイティブとは到底言えない仕事ばかり。そんな荘介が、大きなコンペに参加したことで人生ちょっと変わっていく…。

「できない男」はもちろん荘介のことですが、もう一人。アートディレクターとしてそれなりの実績をもつ裕紀も、「できない男」。全く正反対の二人が、それぞれの転機に向き合うのです。

タイプは違えど、二人のグズグズっぷりに笑ってしまいました。でも、身につまされるのは、人間そんなもんだよなあと思うから。そんなにかっこよく生きられないし、自分を変えるなんて簡単にはできない。

二人がどうやってブレイクスルーするかと思ってましたが、そう来たか…。ていうか、荘介、あんた、そんなことしたら、もう夜越町に住めないわ…東京行くしかないよ…。

デザイナーとして荘介がスキルアップしていく過程がもっと読みたかったです。

2020年1月 8日 (水)

タスキメシ 箱根

2990「タスキメシ  箱根」  額賀澪      小学館     ★★★★

紫峰大学駅伝部の主将・千早はとまどっていた。「栄養管理兼コーチアシスタント」としていきなり現れた眞家早馬なる人物が、どうにも苦手だったからだ。かつては日農大駅伝部員で、弟はオリンピックを目指すマラソンランナーだという早馬は、妙に見透かすようなこと言動で千早を苛立たせる。箱根を目指す最後の年なのに…。


「いだてん」にはまった後の箱根駅伝は、感慨深いものがありました。筑波大がテレビに映るたびに「東京高師!」と叫び、金栗四三さんの娘さんたちの言葉に涙し…。という経過ののちの「タスキメシ  箱根」。

前作「タスキメシ」の早馬が、ちょっと大人になって登場します。箱根を給水係として走った早馬は、箱根出場を目指す紫峰大のコーチに。まあ、メインは栄養管理というか、食事作りですが。そんな早馬と、何かと早馬につっかかる主将の千早、双方の視点で物語は進みます。

「努力は人を裏切る

この物語のテーマ(?)は、これです。どれだけ気をつけても、人間は病気や怪我をする。どれだけ練習しても、勝てないこともある。「できないのは努力が足りないからだ」なんて言葉が通用しないことなんて、珍しくない。不条理なことなんて、歳を経るごとにいくらでも経験します。

では、裏切られたら、人はどうするのか?

…努力に裏切られた経験をもつ早馬が、さらに若くてまだ「努力に裏切られた」ことのない千早たちにどう向き合うのか…その過程を通して、作者なりの答えが示されます。

私は長距離走なんてやったことがありませんが、早馬や千早たちが駅伝を通して感じていることは、わかる気がします。だから、せめて千早たちには傷ついてほしくないと思い、彼らが涙したときには一緒に涙してしまいました。

努力に裏切られた自分を愛せるか。

「愛」という言葉は抽象的だけれど、突き詰めればそういう表現に帰結するのかもしれません。

2019年12月16日 (月)

競歩王

2981「競歩王」  額賀澪      光文社      ★★★★

天才高校生作家と呼ばれ、華々しくデビューした榛名忍。しかし、大学生となった今は、以前ほど本が売れず、何を書きたいのかわからなくなっている。そんなとき、学内のテレビでたまたま見たリオ五輪の競歩。それを見ながら号泣している男子学生。呆気にとられた忍だったが、編集者にスポーツものを書くことをすすめられ、思わず「競歩」と口走ってしまう。


「タスキメシ」で駅伝を題材にした額賀さんが、今度は競歩?  額賀さんのツイッターを見たとき、ちょっとびっくりしたのです。

今年のドーハ世界陸上の50キロ競歩を見たのです。というか、つけっぱなしにしていたテレビでやっていたのを、あれこれやりながら見ていました。けっこうな時間が経過しても、「まだ歩いてるよ…」。さらに、選手が途中でトイレに行ったり。普通に歩いていたり。…そんなことにいちいち驚くほど、競歩について知らない私。

そんな私と同じくらい競歩を知らず、興味もない忍が、ひょんなことから競歩小説を書くために取材するはめに。対象にしたのが、同じ大学の陸上部の八千代篤彦。長距離から転向したという八千代は、とっつきにくい相手で…。

行き詰まって燻っている忍と八千代。作家と競歩選手という全く畑違いな二人が、それぞれの壁を破っていく過程を描いた青春もの。ある意味「王道」なのですが、競歩を題材にしたことが、いい感じに新鮮さを出しているのでは。

私は作家でもないし、陸上もやったことないけれど、忍たちの葛藤や迷いには共感して、何度も何度も涙ぐみました。ここまで直球で描くのは、額賀さん、勇気が要ったのではないでしょうか。

そして、題名。「王」?と思いましたが、そういう意味でしたか(笑)




2019年4月26日 (金)

イシイカナコが笑うなら

2891「イシイカナコが笑うなら」 額賀澪   角川書店   ★★★★

 

教師生活十年目。母校に赴任早々、不登校の生徒を学校に引っ張り出した菅野京平は、生徒にも慕われるスーパー教師。そんな菅野は、高校時代に自殺した同級生・石井加奈子が現れる。今の生活に虚しさを感じている菅野の気持ちを見透かすように、イシイカナコは「人生やり直し事業」を提案し・・・。

 

額賀さんの小説って、基本的に青春もので、オバチャンにはついていけない・・・ってなりそうなんだけど、なんか刺さるんですよねえ(この物言いがオバチャン・笑)

今回の主人公は、高校教師の菅野京平。教師としても十年選手で、しかも優秀で「いい先生」らしい。でも、心の中は空っぽ。仕事はすばらしくよくできるけど、全然やりがいも喜びも感じない。「自分はこの仕事に向いてない」「間違った」と思っている。そこに現れるのが、同級生のイシイカナコの幽霊。彼女は、人生やり直し事業に、菅野を放り込む。否応なしに。

菅野は、自分の人生を変えるために、カナコの提案をのむ。それは、カナコのためでもあるのだけれど(菅野は、加奈子が飛び降りたときを見てしまっていた)。

ところが、菅野はなぜか高校時代の同級生たちの「中」にトリップさせられ・・・というお話。この過程はなかなか笑える状況もあって楽しめましたが、自分を客観視するという得がたい経験でもあったわけですよね。まあ、高校時代の自分なんて、あまり客観視したいものでもないですが(苦笑)

物語としては、あるべき場所に着地する感じですが、そこまでの過程がけっこう濃密で、それゆえに当然の帰結が納得できました。

とはいえ、菅野くん。すべての人に慕われる教師なんていないし、テクニックを駆使するだけで人はついてこないんですよ。あなたの心がちょっと疲れて閉じてしまってただけで、それだけのことができるのは、やっぱりその仕事向いているんだよ・・・と思いながら読んでました。元・教員としては。

2018年9月18日 (火)

風に恋う

2793「風に恋う」 額賀澪   文藝春秋   ★★★★

吹奏楽に明け暮れた中学校生活。しかし、全国大会に手が届かなかった茶園基は、高校で吹奏楽を続ける気はなかった。それなのに、高校に進学した基の前に、「憧れの人」が現れ・・・。

どうして額賀澪の書くものって、こんなに心を揺さぶるのでしょう。「ヒトリコ」「屋上のウインドノーツ」もそうでしたが、「ウズタマ」「完パケ!」にもやられました。そして、この「風に恋う」。後半は何度も何度も泣いてしまって、ティッシュを箱ごと、側に置いて読んでました。

燃え尽き症候群のようになってしまった基の前に現れた不破瑛太郎。かつて千学吹奏楽部が全国で金賞をとったときの部長で、当時テレビで放映されたドキュメントを通して、基の「憧れ」になった人。瑛太郎が吹奏楽部のコーチになると知って、迷わず入部した基。しかし、吹奏楽部はかつての栄光とは程遠く・・・。とまあ、ここまではありがちな設定。

瑛太郎は自身の生き方に迷っていて、屈託を抱えている状態。決して部活至上主義にならない彼の言動がとてもよかったし、そういう瑛太郎だから高校生たちに言える言葉、その一つ一つが刺さりました。また、基たちのまっすぐさが瑛太郎を揺さぶっていく過程も、とてもよかった。

何かに打ち込むことは間違いではない。けれど、それだけが正しいのではない。

盲目的になるのではなく、大切なことに一生懸命打ち込むこと。それは、とても難しいことなのだけれど、そこに自覚的な瑛太郎は、やっぱりいい先生なのだと思うのです。

2018年4月26日 (木)

完パケ!

2740「完パケ!」 額賀澪   講談社   ★★★★

安原槙人と北川賢治。武蔵映像大学(通称ムサエイ)で映画作成を学ぶ二人は、卒業制作の映画監督の座を争うことに。プレゼンの結果、安原が監督に。そして、安原の希望で北川はプロデューサーに。全く対照的な二人が、それぞれの思いを抱えて挑む卒製は、果たして無事に完パケまでたどり着けるのか。

ものすごくベタな青春ものなのに、なぜ額賀作品にはいつも心揺さぶられてしまうのだろう・・・。それが、読み終えて感じたことでした。

コミュニケーションが苦手で、不器用な安原。人あしらいが得意で、なんでも一通り器用にこなす北川。全く対照的な二人は、一年のときの課題で同じ班になったのがきっかけで、四年間、親しくつきあってきた。東北出身の安原は、一度地元の大学に進学したものの、映画への夢を捨てきれず、たった一人の家族の母を残して上京、ムサエイに入り直した。一方、北川は、映画プロデューサーの父のもと、経済的にも恵まれた環境で育ち、迷うことなくムサエイへたどり着いた。何から何まで対照的ながら、一緒にいることが多い二人に、微妙な空気が漂ったのは、卒製の監督が安原に決まったとき。

夢もプライドもあるけれど、何者にもなれないかもしれない自分への不安と焦燥。自分にはなくて、相手にはある何かへの強烈な嫉妬。そんな自分への嫌悪感。・・・誰もが感じたことがあるそんな感覚が、同じ夢をもつ友人だからこそ簡単に吐露できないというもどかしさのもとに展開するこの物語。形は違えども、自分もいつか通った道だと思わせられました。

思わぬ曲者の俳優が登場したり、安原と北川がなかなか噛み合わなかったり、安原の母の病状が悪化したり、紆余曲折を経て彼らがたどり着いた、その場所は・・・。

安原たちが得た結論は、しごくシンプルなものなのですが、そこに至るまでの葛藤があったからこそ、二人とも笑っていられるのだろうなと思うのです。

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