百年の時効
3667「百年の時効」 伏尾美紀 幻冬舎 ★★★★
昭和49年3月。月島署の刑事、28歳の湯浅卓哉は事件発生の一報を受け、佃島の民家へ向かった。家族3人が惨殺された現場で、唯一生き残った息子・良一を発見した湯浅は、この事件に深く関わることになる。捜査一課の刑事・元マル暴の鎌田幸三と共に事件を追いかけるうちに、昭和25年の函館での殺人事件、さらに戦中の満州にまで遡り・・・。二人の刑事の執念にも関わらず、事件は迷宮入り。捜査は後輩の草加文夫に引き継がれる。真相に肉薄するも犯人逮捕には至らぬまま、時は令和へ。最後のバトンを託されたのは、葛飾署の刑事・28歳の藤森菜摘だった。
警察小説の醍醐味をとことん味わえる物語です。
私立探偵ではなく、警察という組織に属した刑事たちだからこそできること。縦のつながり。横のつながり。反発と連携と。「警察」小説として実に読み応えがありました。
事件はかなり複雑で、さらにいくつもの事件が絡み合っているので、読み解くのはちょっと大変でした。それでも読み進められたのは、明らかになりそうでならない事件の真相が知りたかったのと、4人の刑事たちの執念にひきずられたからです。
鑑識志望で、夜学に通っている頭脳派の湯浅。元マル暴だけあって荒っぽい鎌田。幼なじみがオウム真理教の幹部であることが理由で閑職に追いやられた草加。そして、新米刑事で細かいことが気になって仕方ない藤森。彼らは、事件の真相に迫りながら、その時々の大事件に翻弄されたりもします。「佃島事件」の捜査の過程は、同時に昭和・平成から令和の今までの事件史にもなっています。
相変わらずまとまった時間がとれず、隙間読書ばかりしています。細切れの読書はなかなか集中できないのですが、この本は、再開したとたんに、物語世界に一瞬で入りこめました。そして、グイグイと引っ張られるようにして読み進めました。この力強さは伏尾美紀の持ち味なのでしょうね。


最近のコメント